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scene4

──弟が生まれて、五年が経った。

 ルシアンは十五歳になり、まだ幼さはあるが、その表情は着実に逞しく成長していた。

 そんな彼だが、昨日も剣術の訓練を張り切りすぎたのか、珍しくまだベッドの上で夢の中である。

 その真っ白な夢の中では、ある者との久しぶりの再会を果たしていた。

 「久しぶりですね。お加減はいかがでしょうか?ルシファー様」

 「おかげさまで、良い暇つぶしだよ。まぁ、ちょっと刺激が足りないけどね~」

 ルシファーは何もない真っ白な空間に寝そべり、ほんのり退屈さを匂わせる。

 「…前の私が知らなかった事を知れただけで、十分私には…刺激的ですがね」

 「つまらないわけじゃないけどさ、もう少し刺激があってもとは思うかなぁ」

 軽薄なその一言に、目の前で聞いていた視線が鋭くなる。

 「そう睨むなよぉ~。冗談、冗談♪」

 「……。」

 「疑っているね?じゃあ、証拠を見せよう」

 そう言うとルシファーは、寝そべっていた体をゆっくりと起こし、座ったまま両手を大きく広げる。

 すると彼の背後に、十枚の大きく神々しい翼が生え、光り輝く四本の剣が現れる。

 「この翼は元々十二枚あったんだけど、二枚は君を転生させる為の代価として神に返上しちゃってさ。おかげで格も一つ下がっちゃったよ」

 ヘラヘラと笑うルシファーの瞳の奥に潜む不気味さに、目の前の男は思わず息をのんだ。

 その時急に顔を近づけてきたルシファーは、目の前にいる彼に、自分の目を指差す。

 とても人間では再現できないほどの煌めきを放つその瞳に、彼は違和感を覚えた。

 「…右目の…色が…」

 「これは返上した【未来視】の代償さ。元々の美しい左目と比べてごらん?酷い色だ」

 「では、左目は…?」

 「ああ、こっち?こっちは【解析眼】だよ。この目で見れば、相手のどんな情報でも分かる優れもの。なんだけど、こんなもん僕クラスであれば誰でも持ってるしなぁ…」

 「…誰でも…ですか」

 その後もルシファーは、自身の権能について語り続けた。

 どれも興味深い権能ばかりだったが、ルシファーが言うには、どれも彼と同じ又は下の地位の者ならば、それほど珍しい能力という訳でもないらしい。

 そして権能の話が終わると、翼と剣は徐々に消えていった。

 「ま、何が言いたいかっていうと、今の僕には現世の君に直接介入なんか不可能なのさ。神じゃないしね!」

 「神と貴方が出来ることの違いは…?」

 「それはね…おや?」

 ルシファーが口を開こうとしたその時、ルシファーの姿が薄っすらと消えていく。

 「すまないね。どうやら時間のようだ。今度はいつ会えるか分かんないけど、その話はまたの機会のお楽しみに取っておいてくれ。それじゃあね」

 そう言うと、真っ白だった空間が瞬く間に眩い光に包まれ、ルシアンは思わず顔を覆った。

 光が収まり、ルシアンはゆっくりと目を開ける。

 そこには、今ではすっかり見慣れた天井が、ぼんやりと見えた。

 「ふぅ…」と一息つこうとした瞬間、部屋の扉がガチャリと開く。

 扉の向こうから現れたのは、自身とは違い、セリナの美しい金色の髪と、目元が幼い頃の自分とそっくりな少年だった。

 その姿を見たルシアンは、少し困った感じで微笑みながら手招きをし、中へ入るよう促す。

 するとその少年は、勢いよく走り、ルシアンの元に飛び込んだ。

 「どうしたんですか?カイラン」

 「兄さま…僕…今日…その…」

 弟のカイランは、兄ルシアンと違い、見てもわかる通り、かなりの内向的な性格をしている。

 その性格の影響で友達もおらず、いつもルシアンに引っ付いていた。

 リュグやセリナも成長すれば何とかなると思っていたが、五歳になった今でも、変わることはなく、ルシアンが剣術の訓練に行っている間は、ずっと両親の部屋に引きこもってしまっている。

 そんな中、二年前に制度が変わり、五歳から検査を受けるように変わり、そんな状況で魔法適性検査を受けなければいけない時期になってしまう。

 カイランの中では不安などの感情が入り乱れ、よりルシアンへの依存度が検査の日が近づくにつれ、日に日に増していた。

 「…カイラン…」

 《さて、これはどうしたものか…》

 これまで様々な人と関わってきた彼にとっても、この場合どうしたらいいのかが分からない。

 必死になって頭の中の思考を巡らすが、どれも正解とは言いづらいものばかりが浮かぶ。

 ルシアンは、ふとカイランの手に触れる。

 その小さな手は、小刻みに震えていた。

 震えを感じ取ったルシアンは、咄嗟にカイランの頭へと手が伸び、撫でた。

 人を撫でたことがなかったので、見様見真似だったのもあり、かなりぎこちない。

 しかし、カイランにとってそれは、震えを止めるには十分だった。

 「…初めて…です…兄さまが…」

 カイランに言われ、ルシアンは初めて気が付いた。

 生まれてから一度も彼を撫でていなかった事に。

 これが本当に正しい答えなのかは分からない。

 だがルシアンは、考えるのを一旦やめ、口を開いた。

 「──ねぇ、カイラン…」

 「…はい…」

 「怖い?」

 「も…あります…」

 「も?」

 「僕…不安で…怖くて…」

 「…不安?」

 「僕は、兄さまみたいに誰にも優しくて、賢くて…えっと、その…」

 《ああ、そういう事…か》

 カイランの気持ちに、やっと気が付いたルシアンは、自分に抱き着いたまま俯く弟の両脇を抱え、持ち上げた。

 そして、上手く出来るかわからないが、精一杯の笑顔を作りながら、言葉を紡いでいく。

 「カイラン。無理に僕と比べる必要はないんだよ。僕だって…完璧じゃないし」

 「…そんな事…」

 「あるよ。だって、僕は魔法が使えない…から」

 「それは…」

 カイランはまた、俯いてどもってしまう。

 そんな弟をルシアンは、更に高く抱き上げた。

 「きっと…きっとカイランはさ、僕と違って、魔法の才能があるに違いない。

 だからね?いつか、カイランが立派な魔法使いになったら、無力なこの兄ルシアン・ドルネスを…支えてくれませんか?」

 「…僕が?…出来るでしょうか…?」

 自信無さげに、またカイランの視線が下に落ちていく。

 不安に駆られそうになる弟を、ルシアンはそのまま優しく包み込んだ。

 「出来るよ。僕はそう信じてる」

 その言葉を聞いたカイランは、抱き寄せられた兄の服をぎゅっと握りしめ一言「…頑張ります」と震える声で呟いた。

 震えてはいたが、決して弱々しくはなかった。

 抱き寄せていたカイランをゆっくりと降ろし、再び顔を合わせると、それは表情にも表れている。

 まだ少し不安はあるようにも見えるが、瞳の奥では、しっかりと覚悟の火が燈っていた。



 ──そして数日後。

 カイランの魔法適性検査の日がやってきた。

 以前のように一家で適性検査場へと案内され、扉を開けると、あの時と何ら変わらない光景が目に映る。

 奥ではすっかり白髪の増えたガルマータが、温かな表情で出迎える。

 「久しぶりだね。ドルネス家の皆さん」

 「ええ。ガルマータさんもお元気そうで何よりです」

 「さて、今日は弟くんだったかな?」

 「はい。ほらカイラン。挨拶は?」

 ルシアンは自分の背に隠れるカイランを、挨拶するよう促す。

 兄に促され、カイランはゆっくりと前に出る。

 「は、初めまして…カイラン…です。今日は…よろしくお願い…します」

 《良かった。何とか言えた…》と一安心するルシアン。

 こんなこともあろうかと、軽い自己紹介くらいは出来るようにと、前日に猛特訓をしていた。

 あどけなさの残る挨拶に、ガルマータも自然と笑みが零れる。

 「うん。いい顔だね。じゃあ、早速始めようか」

 そう言うとガルマータは、いつもの如く水晶玉に手をかざすよう求める。

 また不安になっているだろうと思い、ルシアンはそっと背中を押そうと手を伸ばした。

 しかし、その背中は、ルシアンが押すまでもなく、前へと進む。

 水晶玉の前に立ち、カイランは静かに手をかざす。

 ガルマータが詠唱を唱え始めると、徐々にカイランを光が包み込んでいく。

 光が完全にカイランを覆い、いざ判定を開始しようとしていた、その時だった。

 「こ、これは…!!」と思わずガルマータが、声を上げる。

 青く透き通るほど綺麗だった水晶玉が、カイランを光が包み込んだ瞬間、燃え盛る炎のような深紅に染まったのだ。

 「な、なに…これ」

 「なに…が…起こって…いるんだ!?」

 一緒に来ていたリュグとセリナも、こんな反応は初めてだと言わんばかりの表情で、動揺が隠しきれていない。

 更に判定が進むと、水晶玉にヒビが入りはじめ、遂には勢いよく弾け散ってしまった。

 あまりの光景に、一同は静まり返り、カイランに至っては何が起きたのかすら、理解出来ていない。

 そんな空気の中、意を決したガルマータが口を開く。

 「……まさか…お目にかかれるとは…」

 「む、息子は!?カイランは…どうなのですか…!?」

 リュグの問いかけにガルマータは、一瞬チラッとルシアンの方へと視線を向けた。

 その後、年老いた眉間にしわを寄せ、渋い顔で何かを躊躇っている。

 渋い顔のまま、気まずそうにガルマータは、口を開いた。

 「…その、カイラン・ドルネス君は、魔法適性はあるにはあるのだが…」

 「なんだよ!もったいぶらずに言えよ!!」

 歯切れの悪いガルマータに、リュグが鋭い剣幕で詰め寄る。

 リュグの圧に耐えきれなくなったガルマータは、苦しい表情で答える。

 「カイラン君は…魔法使いの才能としては…最上級…。つまり…この世界でたった五人しかおらん、【天星】…!」

 「な…!?うそだろ…」

 「ねぇ、父様?…てん…せいって?」

 「そ、それは…だな…」

 「…母様?」

 「…。」

 歯切れの悪い両親が何に対して遠慮しているのか、それは当の本人であるルシアンが一番分かっていた。

 だが、その空気を切り裂き、ルシアンは弟の元へと歩み寄る。

 カイランの前に立ち、未だに状況を飲み込むことが出来ていなかった彼の肩を、力強く掴んだ。

 「…カイラン。凄いね!【天星】だって!」

 「…それって…すごいの…?」

 「もちろん!だって世界に五人しかいないんだ。カイランは選ばれたんだよ!」

 「…じゃあ…兄さまを…助けられる…?」

 「……はい。お願い…できますか…?」

 「…なれるか分からないけど、僕…頑張る…!頑張るから…将来兄さまを助けられる魔法使いになりたい!」

 屈託のない笑みが溢れた表情に、ルシアンの心は反対に、雲がかかっていく。

 しかしルシアンは、それを一切表に出すことはなく、カイランの兄として懸命に振舞った。

 その様子を見たリュグも駆け寄って喜びを分かち合ったが、母セリナだけは、遠くで微笑んでいるだけだった。

 その夜、自宅へと帰り、食事を終えると、ルシアンはセリナから呼び止められた。

 「ルシアン。この後ちょっと行きたい所があるんだけど…いいかしら?」

 「…僕は、構いませんが…」

 食事の後片付けをし、カイランをリュグに任せ、二人は家を後にする。

 暗い夜道を、セリナが持つランタンに照らされながら、無言で歩き続ける。

 周りは虫の鳴き声や、時折吹く風に木々の葉が揺られる音だけが聞こえる。

 そんな空気に耐え切れなくなったルシアンは、沈黙を破る。

 「…母様。今、僕らは…どこに?」

 「もう少しで着くわ。それよりも、ルシアン?」

 「…?はい」

 「カイランの魔法適性検査の時…ちょっと無理してたでしょ?」

 《な!?バレていた…?そんな…バカな!?》

 母の核心を突いた言葉に、内心焦りを見せ始めるルシアン。

 「何の…ことでしょうか?」

 「あなたは上手く隠したつもりかもしれないけれどね。私には分かってたわ」

 「ですから…何の事ですか…!」

 内心を見透かされたからか、思わず語気が強くなってしまう。

 片やセリナは、そんな息子を静かに見つめながら続ける。

 「分かるわよ。何年…あなたを育ててきたと思ってるの?」

 「それは……」

 「さ、着いたわよ」

 森を抜け、到着した先は、開けた小高い丘だった。

 丘を登り、空を見上げると、満点の美しい星空が宝石のように輝いていた。

 その丘の頂上には、腰掛けるには丁度いい岩が二つ並んでいた。

 二人はゆっくりと岩に腰を下ろすと、セリナが再び口を開く。

 「ルシアン。いつもカイランをありがとね」

 「…兄ですから…」

 「そうね。あなたは本当に良いお兄さんよ。でもね、ルシアン。お兄さんだからって、完璧にあろうとしなくてもいいの」

 「…ありがとうございます。でも…僕は…」

 引きつる息子の笑顔に、セリナの両手は自然とルシアンを包んでいた。

 「苦しかったら、素直になっていいのよ。大丈夫、私が受け止めるから」

 母の温かい言葉が耳に届くと、彼の心にも変化が訪れる。

 《これが、母の温もりというやつ、か…》

 これまでセリナの愛情を受け、彼の凍った心も次第に解け始めていた。

 《──今日ばかりは…良いよな》

 セリナからの無償の愛に彼は、前世も含め、初めて甘えるという行動にでる。

 自身を包んでいた彼女の背中に、手を回し、服をギュッと掴む。

甘えるという事をしてこなかった彼にとって、これが正しいのか分からない。

しかし、そんなルシアンの不器用な甘え方に、彼女は優しく微笑み、頭を撫でた。

《…こんな姿…誰にも見せられないな》

そんな思いに呼応するかのように、彼の耳は、真っ赤に染まっているのだった。


今回も楽しんでいただけたでしょうか?

もし良ければ感想お願いします。

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