表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

篠宮友梨奈のフィールドワーク 弐 〜鬼棲みの村〜

        第一章

 戦後日本が復興の足音を響かせ、高度経済成長という名の波が押し寄せ始める1959年。 東京の喧噪を抜け出し、新幹線がまだ夢物語でしかなかったこの時代に、若き、歴史・民俗学者、篠宮友梨奈(しのみやゆりな)は京都行きの夜行列車に揺られていた。窓の外に浮かぶ月明かりが車内の薄暗い席を淡く照らしている。手元の古ぼけたノートには、彼女がこの旅に懸ける思いがぎっしりと記されていた。「立岩に封じられた鬼」の伝説。それは京丹後市に古くから伝わる物語で、英雄が鬼を退治し、その魂を岩に封じたというものだった。友梨奈がこの伝説に興味を抱いたのは、  

 偶然、手に取った郷土誌の一冊だった。その中に鬼退治の物語がただの神話や伝承ではなく、実際に起こった出来事を示唆するような記述が幾つも散見されていた。中でも気になったのは、「鬼の怨念が未だに昇龍の形となって村を支配している」という記述だった。 

 夜明けとともに京都駅に降り立った友梨奈。 深く息を吸い込んだ霜柱の立つ冬の空気は清々しく、伝説の調査に胸を躍らせる彼女の心をさらに高めた。駅前には、この地を案内するために郷土研究家の鈴木慎治(すずきしんじ)が待っていた。

 「篠宮友梨奈先生ですね。ようこそ京都へ。お会いできて光栄です。」

 穏やかな笑顔の鈴木は、やや歳上の端正な顔立ちと立派な体格の男性で、初対面にも関わらず親しみやすい雰囲気を持っていた。

 「お忙しいところをありがとうございます。立岩にまつわる資料について、鈴木さんに頼るしかないと思いまして……」

 友梨奈は軽く頭を下げると、手に持った資料を彼に示した。鈴木はそれに目を通しながら、小さく頷く。

 「いや、こちらこそ、興味深いお話を伺えると聞いて嬉しいです。実はこの立岩の伝説には謎が多く、地元でもながらく議論の的になっているんですよ。」

 京都市街を抜け、車で数時間かけて目的の京丹後市間人村(きょうたんごしたいざむら) 

へと向かう間、二人は昇龍伝説の背景について意見を交わした。鈴木の説明によれば、立岩の周辺では、奇妙な失踪事件が相次いでおり、その原因が伝説に関係しているのではないかと囁かれているという。車が村に差し掛かると風景は急激に変わった。木々に囲まれた静かな集落。どこか異様なまでに静まり返ったその場所は、まるで時間が止まったかのようだった。立岩は村の外れ、湖畔にそびえる黒々とした巨大な岩山だった。岩肌は滑らかで、どこか人為的なものを感じさせる。

 友梨奈が近づくと、風が強く吹き抜け、耳元で囁くような音が聞こえた。「カ·エ·レ」と言うような不気味な囁きだった。振り返ると鈴木も何かを感じ取ったのか、険しい表情を浮かべている。

 「ここが、立岩ですか。」

 友梨奈の問いに鈴木は頷きながら答えた。

 「そうです。そして、この場所が昇龍伝説の中心地でもあります。篠宮先生、慎重に調査をしてください。この地には、我々の知らない大きな力が働いているように思えてなりません……」

        弐ノ章

 立岩の巨岩を目の前にした時、篠宮友梨奈の胸の内に、ある種の不安と好奇心が混ざり合った感覚が湧き上がってきた。目に映るそれはただの自然の造形物に過ぎないのに、どこか異様な存在感を放っている。無言の圧力を感じさせる岩肌が、彼女に訴えかけているようだった。

 「……何か、息をしているみたいね。」

 彼女の呟きに、隣の鈴木慎治が驚いたように振り向く。

 「篠宮先生、やはりこの場所は何かあります。私も長年研究していますが、この岩に近づくと胸の奥がざわつくような感覚を覚えるんです。」

 鈴木の声にはわずかな震えが混じっていた。それは科学の枠組みで説明しきれない感覚、人間が本能的に危険を察知する時に感じるものだと友梨奈は理解した。しかし、彼女はそれを恐れと捉えるよりも、学者としての興味を駆り立てられる瞬間だと感じていた。

 調査の第一歩として、友梨奈は村の老人たちから話を聞くことを提案した。立岩の周辺を軽く散策した後、鈴木の案内で彼女は集落の中心部にある小さな茶屋を訪れた。茶屋には古びた木の椅子が並び、年老いた女性が火鉢の前で手をかざしていた。彼女の名は津田多恵(つだたえ)。百歳近いというその女性は、昇龍伝説を知る数少ない証人だった。

 「津田さんこの村に伝わる立岩の伝説についてお話を伺いたいのですが。」

 友梨奈が穏やかな声で訪ねると、多恵は顔を上げてじっと彼女を見つめた。まるで、友梨奈の心の中を見透かしているような目つきだった。

 「……お嬢さん、よそ者がこの村のことを掘り返しても、良いことなんて何もないよ。」

 彼女の声は低く、乾いた響きを持っていた。その言葉には、かつて何か恐ろしい出来事を目の当たりにした者だけが持つ、重い説得力があった。

 「それでも、この土地の歴史を記録に残すことは、私たちの責務だと思っています。どうかお力添えをしていただけませんか?」

 友梨奈の真摯な眼差しに、多恵はしばらく黙っていたが、やがてため息をつき、そして口を開いた。

「昔、この村には鬼が出たと言われている。その鬼は暴れ回り、多くの命を奪った。しかし村人たちは神様に祈りを捧げ、英雄に助けを求めた。英雄は鬼を退治し、その魂を岩に封じ込めたんだ。」

 彼女の語りは、伝承そのものだった。しかし、その裏には言い知れぬ恐怖が滲んでいるようだった。

 「でも、その鬼は死んでいなかった。ただ封じられていただけだったんだよ。そしてその怨念がこの村を蝕んでいるんだ。アンタ、最近この村で人が消えていることを知っているかい?」

 「失踪事件のことですよね。」

 鈴木が問いかける。友梨奈はメモ帳を取り出し、多恵の言葉を書き留めた。

 「そうだよ。ある日突然、若い者が一人、二人と消えていく。でも警察は何もわからない。だが、村の古い人間たちは知っているんだ。これは鬼の仕業だと。」

 多恵の言葉に、鈴木が息を呑む音が聞こえた。友梨奈は筆を止め、多恵を見つめた。

 「津田さん、その鬼を封じる儀式について詳しい事をご存じですか。」

 多恵は一瞬目を伏せた後、口を開いた。

 「鬼を封じたのは、蒲生神社の神主たちだ。英雄というのは彼らのことさ。儀式には生贄が必要だったと言われている。そして、その血が岩に流れることで封印が強まったんだよ。」

 友梨奈の背筋に冷たいものが走った。"人柱"

それは、彼女が今まで研究してきたどの神話よりも生々しく、不吉な響きを持っていた。

 調査を終えて宿に戻った夜、友梨奈は多恵の話を何度も反芻していた。彼女が語った鬼の伝説と、生贄の儀式。それはこの地に伝わる古い伝承に過ぎないのだろうか?だが、考えを巡らせている最中、彼女は奇妙な夢を見た。暗闇の中を列を成して歩く村人たち、その後ろに迫る巨大な影。そして血に染まる立岩……。夢から目覚めた時、友梨奈の額には汗が滲んでいた。彼女はその時初めて、この村で起こっていることが単なる伝説の調査以上の何かであることを感じ取っていた。

        参ノ章

 冬の朝の冷気が村を包む中、友梨奈は宿の薄いカーテン越しに外の景色を眺めていた。

 静まり返った村には、霧が薄く漂っている。まるでその霧が村全体を覆い隠し、外の世界から切り離しているような感覚を覚えた。夢の中で見た血に染まる立岩……それが目に焼き付いて、彼女は浅い眠りしか取れなかった。だが、調査を進めなければならない。

 友梨奈は自分の心に言い聞かせ、手帳とペンをカバンに収めると、宿を出た。外に出ると、霧の中からゆっくりと人影が現れた。昨日の案内人、鈴木慎治だった。

 「おはようございます。篠宮先生。早速ですが、蒲生神社へご案内します。」

 「ありがとうございます。こちらの神社は、この村にとってなにか特別な意味を持つ場所のようですね。」

 鈴木は少し考え込むように頷いた。

 「そうですね。この村の伝説の中心地と言っても過言ではありません。ただ……今でも何か、異様な雰囲気を感じる場所です。」

 霧の中を進む車が、細い山道を抜けて蒲生神社へと向かう。車窓から見える木々は古びたもので、その幹には無数の文字が刻まれている。苔むした石段を登ると、古い社殿が姿を現した。その境内に人の気配はなく、ただ冷たい風が木々を揺らしていた。神社の奥から現れたのは、神主の大村清忠(おおむらきよただ)。白髪交じりの豊かな長髪を後ろで結んだ彼は、重々しい表情で友梨奈を迎えた。大村が鋭く友梨奈を見つめる。

 「篠宮さん、遠路お疲れ様です。この地に興味を持っていただけたことを感謝します。しかし……。この神社は、村人たちの恐怖を背負ってきた場所でもあります。どこまで知る覚悟があるのか、問わせていただく。」

 その問いに友梨奈は少しも怯まず答えた。

 「この地の真実を記録し、後世に伝える。それが歴史学者としての私の使命です。」

 大村はしばらく黙っていたが、やがて軽く頷き、神社の本殿へと案内した。

 本殿の内部は薄暗く、湿った空気が漂っている。友梨奈の足下に敷かれた色あせた畳はどこか冷たく、隙間から微かに土の匂いがした。神主の案内で奥に進むと、石で作られた小さな祭壇が見えた。その表面には古い紋様が刻まれ、中央には黒い石が置かれている。

 「大村さん、これは何ですか?」

 友梨奈が尋ねると、大村は静かに説明を始めた。彼の声は少し緊張している。     

 「これが鬼の魂を封じるために使われた御霊石です。この石には代々、歴代の神主が祈りを捧げてきたのですが……。この石に触れると、不吉な夢を見ると言われています。それが村人たちの恐怖をさらに煽っているのです。」

 友梨奈は祭壇の前で立ち止まり、御霊石をじっと見つめた。触れてはいけないという暗黙の警告を感じたが、それでも近づきたい、触れてみたい衝動に駆られる。その時、不意に本殿の外から音が聞こえた……まるで風が叫んでいるような、不気味な音だった。友梨奈は反射的に振り返り、鈴木と大村を見る。

 「何か……聞こえませんか?」

 鈴木は無言で頷いた。大村は険しい表情を浮かべ、本殿の扉を閉めようとするが、その瞬間、強い風が扉を押し開けた。風に乗って舞い込んできた霧が本殿の中に流れ込み、御霊石を包み込むように渦を巻いた。そして、霧の中から人影のようなものが浮かび上がったかと思うと、すぐに消えた。

 「今の……何?」

 友梨奈は思わず呟いた。心臓が早鐘を打つ中、彼女はその場に立ち尽くした。大村が厳しい声で言った。

 「これが、村を覆う怨念の一部です。この地に近づく者を拒む力が働いている……」

 宿に戻った友梨奈は、祭壇の御霊石と霧の中の影が頭から離れなかった。次第に深まる謎と、確実に近づいてくる不穏な気配。それは、彼女の心に重くのしかかる。友梨奈は布団に横たわりながら考えた。これはただの伝説ではない。何かが、この地で現実として息づいている。その夜、再び夢を見た。血の流れる祭壇、立岩の前に立つ無数の人影。そして、不気味に響く囁き声……

 「カ…エ…レ……カ…エ…レ……」

 目を覚ました彼女の耳には、夢と同じ囁き声が残っていた。

         四ノ章

 翌朝、友梨奈は少し早起きし、宿の窓から外を見下ろした。昨夜の夢の囁き声がまだ耳に残り、心の奥にざわつくものがある。窓越しに見える村は相変わらずの静けさに包まれているが、どこか違和感があった。霧が昨日よりも濃く、道端に咲いていた花々も青白く

色あせたように見える。霧が深まるほど、この村の秘密も一層深く、触れてはならないものに近づいているような気がした。朝食をとるために訪れた食堂で合流した、鈴木が重い顔で口を開いた。

 「篠宮先生、昨夜、村の北部でまた一人、若い男性が失踪したそうです。」

 その言葉に友梨奈の胸が締め付けられる。  

 心の奥で予感していたことが現実になった瞬間だった。

 「失踪した若者は何をしている時に姿を消したんですか?」

 「詳細はわかりませんが、夜中に一人で家を出て、それきり戻っていません。」

 失踪事件の話題になると、鈴木も少し怯えたような表情を浮かべる。その横顔を見て、友梨奈は彼が何かを隠しているのではないかと感じた。間人村の北部、失踪があったという場所を訪れた友梨奈は、警察の規制線が張られた現場の異様な雰囲気に足を止めた。雑木林の中に続く小道、その途中で足跡が突然途切れているのだ。

 「ここです。」

 鈴木が指差す場所を見つめていると、友梨奈は凍りついた。地面には人間の足跡がくっきりと残っているが、途中から不自然に消えている。まるで何かに吸い込まれたように。

 「跡が消えている……」

 友梨奈は恐怖と興味の間で揺れる自分を感じながら、地面に跪き、足跡を注意深く観察した。土の湿り気は新しく誰かがここを通ったのは間違いない。しかしその先には何もない。風が一瞬止まり、周囲が異様な静寂に包まれた。その沈黙の中、どこからともなく鈴の音のようなものが聞こえてきた。友梨奈は背筋が凍りつく思いで周囲を見回したが、何もいない。ただ霧が濃くなるばかりだ。

 宿に戻る途中、友梨奈は鈴木に問いかけた。

 「村の皆さんは、この失踪事件が伝説と関係があると考えているのでしょうか?」

 鈴木は少し戸惑いを見せながらも、静かに答えた。

 「正直に言えば、ほとんどの村人はそう考えています。立岩の封印が弱まり、鬼が何かを求めているのではないかと。」

 「何かを求めている……?」

友梨奈はその言葉を繰り返しながら、心の中で整理しようとした。鬼とは一体何なのか?  

 それは本当に伝説の産物なのか、それとも…

 その夜、友梨奈は自分の部屋で資料を広げ、立岩と鬼の伝説に関する記述を読み返していた。古文書の中には、『鬼が人々を喰らい、血と魂を力に変える』と書かれている部分があった。その記述が、村で起きている失踪と重なるように思えた。部屋の中はストーブにかけた、やかんの沸騰する音だけが響いているはずなのに、彼女は時折背後に何かの気配を感じた。だが振り返っても誰もいない。ふと窓の外を見ると、遠くに立岩のシルエットが見えた。霧の中に浮かぶその巨岩は、まるでじっとこちらを見つめているようだった。そして……その瞬間、友梨奈の視界が一瞬暗転した。まるで目の前に何かが覆い被さったような感覚だったが、すぐに元に戻った。

 「……気のせい?疲れてるのかしら。」   

 しかしその直後、机の上に置いてあった資料が一枚、 風もないのにふわりと床に落ちた。それを拾い上げると、そこには『蒲生神社の儀式』という文字が記されている部分が偶然にも開かれていた。

 「この儀式に何か手がかりがあるのかもしれない……。」

 友梨奈は深い息をつき、改めて神社でのさらなる調査を決意した。         

        五ノ章

 翌日、友梨奈は再び蒲生神社を訪れることにした。昨夜の不可解な現象と偶然見た、「儀式」の記述が頭から離れなかったからだ。神社に到着すると、大村神主が境内を掃き清めている姿が目に入った。

 「またお越しですか、篠宮先生。」

 彼の声にはわずかな驚きが含まれていた。

 「昨日、本殿で見た御霊石について、もう少し詳しく調べたいと思いまして。それと、儀式についても何か資料が残っていれば拝見したいのですが……」

 大村はしばし沈黙した。顔に浮かぶ迷いの色を、友梨奈は見逃さなかった。

 「先生、村の伝説は、単なる物語ではありません。昨日もお伝えしましたが、それを知った上で、儀式の記録に触れようとするなら、覚悟が必要です。」

 「覚悟ならできています。」

 友梨奈は毅然とした表情で応えた。その答えに、大村はしぶしぶと神社の奥へと案内した。本殿の裏手にある小さな蔵。その中に古い巻物や帳簿が無造作に積まれていた。友梨奈は丁寧にホコリを払い、一つ一つ目を通し始めた。手に取った巻物の中には、奇妙な記述が並んでいた。『鬼は人の血肉を(にえ)とし、岩に封じるべし。されど、その封印は百年をもって弱まる。再び目覚めし時、地の裂け目より(まが)が甦る。』友梨奈は文字を目で追いながら、手がかすかに震えているのを感じた。『人の血肉を贄とし…』という言葉が引っかかる。これは単なる比喩ではないように思えた。さらに調べるうちに、立岩に封じられた鬼が村人たちの間で「昇龍」と呼ばれていたことが分かった。昇龍……天に昇る龍を意味するその名には、封じられた鬼が地上に戻ろうとする意思を込めているように感じられた。

 「これが失踪事件とどう関係しているのかし

ら……?」

 友梨奈は呟いた。その時、背後で蔵の扉が微かに軋む音がした。振り返ると、大村が険しい表情で立っていた。

 「先生、あまり深入りしすぎない方がいい。   

 この村には触れてはならないものが多いのです。」

 「ですが、大村さん、私は真実を明らかにしたいんです。村人たちの恐れの源を知らなければ、失踪事件の解決には繋がりません。」

 大村は苦い顔を浮かべたが、やがて深いため息をついた。

 「ならば、立岩に行かれると良いでしょう。ただし、一人では行かないように。」

 午後、友梨奈は鈴木を伴い、立岩へと向かった。霧がさらに深まり、道中の木々がまるで生き物のように蠢いているように見えた。立岩の前に立ったとき、友梨奈は改めてその異様な存在感に圧倒された。岩の表面は滑らかで、まるで人間の手によって削られたようだった。岩肌には無数の古い文字が刻まれており、その一つ一つが呪術的な意味を持つように思えた。

 「これが……昇龍伝説の中心。」

 友梨奈が呟いた瞬間、突然背後から冷たい風が吹きつけた。

 「先生、ここは長居しない方がいい。」

 鈴木が不安そうに言ったが、友梨奈は岩に近づき、表面の文字を指でなぞった。その感触は思った以上に冷たく、生き物のように脈打つ感覚があった。その時……岩の中心にある亀裂から、黒い霧が薄く滲み出ているのに気づいた。

 「え?、これ……何?」               

 友梨奈が立ち尽くしていると、鈴木が慌てて彼女を急かした。

 「先生、戻りましょう。こんなところにいたら危険です!」

 宿に戻った友梨奈は、立岩の記憶が頭を離れなかった。あの冷たい感触、脈動するような岩肌。そして亀裂から滲み出てる黒い霧……それは、伝説の「鬼」がまだ岩の中で生きていることを示しているように思えた。だが同時に、ある確信が芽生えていた。失踪事件と伝説には間違いなく繋がりがある。そしてその解明が、この村に新たな光をもたらすのだと……。友梨奈は眠りにつこうと布団に入ったが部屋の隅から微かな気配を感じた。振り返っても何もない。しかし確かに、視線を感じるのだ。彼女は意を決して、枕元の手帳にペンを走らせた。

 『鬼とは、ただの伝説ではない。今もあの岩の中で生きているのだろうか……?』

 その夜、友梨奈は深い眠りの中に沈み、ひとつの夢を見た。                 それは、記憶の底に封じ込めていた、幼い頃の出来事……。まるで時間の針が逆転するように、彼女はあの夜に戻っていた。そこは神道と陰陽道、さらには修験道を修めた祖母の家だった。家の中はひどく寒かった。夏でもなく、冬でもない。けれど何かが肌を刺すような冷たさだ。畳の隙間から漂う冷気に、幼い友梨奈は肩をすくめた。奥の座敷には、白い息を吐くような気配が充満していた。障子の向こうから、奇声ともうめき声ともとれる地の底から蠢くような声が聞こえてくる。

 ……スーッ。

 不意に、障子がわずかに開いた。そこに立っていたのは祖母の篠宮聡子だった。

 「友梨奈!それ以上近づいてはならん!」

 祖母の姿は、いつもと違っていた。白装束の上下に山伏の羽織、胸元には護符と数珠。

 額には薄紅の梵字が描かれ(大人になってわかったことだが文字はカーン、不動明王の事)

口元には一文字に緊張が走っている。その手は空を裂くように印を結び、声は絹を裂くように鋭く響いた。

 「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」

部屋の中央にいたのは一人の少女。だが、その顔は尋常ではなかった。歪み、裂け、まるで何か異なる存在が憑りついているかのようだった。瞳は真っ黒に濁り、黄ばんだ歯をむき出しにした口からは、異国の言葉のような呪詛が漏れてくる。

 「……アディ……デュイ……デンベラ……べカビュ……クラトゥ……ベラタニクトゥ……」

 その身を激しく震わせ!時に笑い、叫ぶ!

 「…Stupid……Human……Beings……!」(愚かな人間め!)少女が恐ろしい言葉を放ちながらも

祖母は一歩も引かなかった。一瞬の隙も見せず、印を結び続ける。紙垂の舞う中で、香の煙が渦を巻き、空気がビリビリと震えた。

 「玉依媛命(たまよりのひめみこと)様、どうか……この娘をお守りください。」

 静かなる祈りの中で、祖母の声が震える。

 「ナウマクサマンダバザラダンカン!」

 瞬間……少女の口から、ゆっくりと黒い靄のようなものが大量に吐き出されて、しだいに薄れていく。その表情もまた、人のものへと戻っていった。意識を失い、力なく崩れ落ちた少女の姿は、まるで抜け殻のようだった。

 祖母は額の梵字を汗とともに拭い落とし、深く頭を垂れた。そしてボソッと呟く。

 「ありがとうございます……玉依媛命様」

 憔悴しきった面持ちで立ち上がると、客間へと向かう。そこには、少女の母親がいた。

 「もうだいじょうぶですよ。……全部終わりました。さぁ早く、娘さんのとこに行ってあげなさい。よく頑張りましたよ。お嬢さん。」

 「ありがとうございます……ありがとうございます……!」

 何度も頭を下げる姿に、祖母はただ微笑みながら頷いた。やがて、目を覚ました少女が部屋を出て母親に手を引かれて家路につく。

 あどけない表情で、祖母に小さく手を振る。その仕草は、まるで先ほどまでの恐ろしい姿が嘘のようだった。祖母も微笑み、そばにいた幼い友梨奈の手をやさしく取った。そして、深く慈しむように語りかける。

 「友梨奈……お前も、玉依媛命様の加護を受けておる。それはな、素晴らしい力じゃ。

 今はまだわからぬかもしれぬ。けれど、その力はいずれ……お前自身の助けになるじゃろうて。そして今日のわしのように憑きものを

祓い人々を導くんじゃ……。」

 友梨奈は、何も答えられなかった。ただ、その言葉が胸に染み込んでいくのを感じていた。その笑顔、大好きな祖母の柔らかな手の温もり。白く揺れるお香の煙、遠ざかる少女の背中。全てが、ふんわりと色褪せていく。

 「婆ちゃん……」

 口をついて出たその声と同時に、彼女は目を覚ました。部屋の中は、夜の静けさに包まれていた。ただ、遠くで聞こえる山鳴りのような音に、胸がざわつく。立岩の怪異と対決するのは……あの夜の続きなのだ。自分が宿命を背負っているのだと。全身のほてりを感じながら、友梨奈は確かにそう理解していた。

※玉依媛命…日本の神話に登場する女神。その名の通り「玉(霊魂)」を「(よりしろ)」とする「媛(女性)」霊的な媒介や巫女的(命)な役割を持つ女神とされている。また、かつては日本各地で信仰の対象とされた。

        六ノ章

 翌朝、友梨奈は昨夜見た、過去の夢を振り払うように資料を整理していた。立岩の冷たい感触、亀裂から滲み出た黒い霧……あの異様な光景が頭を離れない。そして、どうしても気になるのは「人の血を贄とする」という言葉だった。朝食の席で友梨奈は鈴木に問いかけた。

 「この村で、かつて大きな災厄や人柱のような出来事があったと記録に残っていませんか?」

 鈴木は一瞬戸惑ったように口ごもり、それから周囲にはばかるように低い声で応えた。

 「村には話してはならない過去があります。しかし、それを知れば先生は後悔するかもしれません。」

 「それでも知りたいのです。この村で起きていることを解決するためには、過去を知らなければ前に進めません。」

 鈴木はしばし沈黙した後、友梨奈を近くの公民館に案内した。そこには村の古い記録が保管されており、村人ですらほとんど触れることのない場所だった。記録には、明治の頃に起きたある出来事が詳細に記されていた。 立岩の近くで連続して子どもたちが失踪し、村人たちはこれを鬼の仕業と考えた。ある日、立岩から黒い霧が立ち昇り、その中に巨大な影が浮かび上がったという。村人たちは恐怖の中で呪術師を呼び寄せ、立岩のそばに  ある"鬼の泣き所"と呼ばれる祠で、蒲生神社の神主たちと封じの儀式を行った。その際、村の女性が人柱として捧げられたことが書かれていた。

 「人柱……」

 友梨奈はその言葉に血の気が引く思いだった。

 「この女性の名前は?」

 「記録には"美弥子"という名前が残っていますが、村では彼女の魂が今でも、この村を守っていると信じられています。」

 その瞬間、友梨奈の耳元で微かな囁き声が聞こえたような気がした。

 ……オ…ネ…ガ…イ……タ…ス…ケ…テ……

 友梨奈は慌てて振り返ったが、そこには鈴木以外誰もいなかった。その日の午後、彼女は再び立岩を訪れる決意を固めた。鈴木に同行を頼むと、彼は渋々承諾したが、「日没前には戻るように」と念を押した。立岩の前に立つと、昨日よりもさらに霧が濃く、足元がほとんど見えない状態だった。友梨奈は岩の亀裂部分に近づき、再びその温かい感触に触れた。すると不意に背後からヒヤリとした風が吹き、霧の中に人影が見えた。友梨奈が振り向くと、その影はゆっくりと消えていく。

 「鈴木さん……?」

 しかし、振り返った時には彼の姿もなかった。辺りを見回しても、霧が視界を遮るばかりで何も見えない。突然、岩の亀裂から低く響く音が聞こえてきた。鼓動のようなその音に、友梨奈の全身が凍りついた。

 「誰かいるの……?」

 恐る恐る声をかけた瞬間、亀裂の中から黒い手のような影が伸びてきた。友梨奈は叫び声を上げ、岩から離れようとしたが影はすぐに消えた。その場にへたり込む友梨奈を突然現れた鈴木が抱き起こす。

 「先生!だいじょうぶですか!日が暮れ始めています。早くここを離れましょう。」

 「鈴木さん、今……岩から影が……。」

 しかし鈴木はそれ以上何も言わず、友梨奈を支えるようにしてその場を後にした。

 その夜、友梨奈は眠れぬまま、手帳に今日の出来事を書き記していた。村の記録、美弥子という人柱の話、そして立岩の怪異。これらの点が少しずつ繋がり始めているように思えた。『やはり鬼とは、ただの伝説ではない……』だが同時に、彼女に一つの疑問が浮かび上がった。村人たちはこれほどまでに口を閉ざし、真実を隠そうとしているのか。失踪事件は呪いの一環なのか。それとも村人たち自身が何かを隠しているのか……?答えが見つからぬまま、深夜の静寂が部屋を包む。だが、その静けさの中で、友梨奈は再び囁き声を聞いた。

 「……オ…ネ…ガ…イ……タ…ス…ケ…テ……」

 それは確かに女性の声だった。


        七ノ章

 翌朝、友梨奈は再び神社を訪れることを決めた。昨夜の囁き声「〜タ・ス・ケ・テ……」という言葉がどうしても頭から離れない。そして、村の過去に潜む真実を知るためには、大村神主の協力が必要だと考えたからだった。

 神社に到着すると、境内は不気味なほど静まり返っていた。朝の霧がまだ薄く漂い、冷えた空気が友梨奈の肌を刺す。境内を掃除していた大村神主が彼女の存在に気づき、手を止めて呆れたようにこちらに振り返った。

 「篠宮先生、またお越しですか。何かお困りごとでしょうか?」

 「昨日の記録について、もう少し詳しく知りたいことがあります。」

 友梨奈の声は落ち着いていたが、その目にはどこか焦りの色があった。昨日の出来事を話すべきか迷った末に彼女は岩で見た怪異の話を簡単に伝えた。

 「立岩から黒い煙が出ているのを見ました。それに……女性の声が聞こえた気がするんです。『タ·ス·ケ·テ』と。」

 大村はその言葉を聞くと明らかに表情を硬くし、友梨奈から視線を外した。

 「先生、それは単なる夢か何かの幻です。立岩に何かがいるわけではありません。」

 その言葉は表面的には冷静だったが、声の奥にはわずかな震えが混じっていた。それが友梨奈には真実を隠そうとする、彼の姿勢に思えた。

 「でも、大村さん、記録には彼女が人柱として捧げられたことが書かれていました。それがもし本当の事だとしたら、美弥子さんの魂は、この村に何かを訴えているのではないでしょうか?」

 大村は深い溜息をつき、視線を友梨奈に戻した。

 「先生、私から言えることはただ一つです。美弥子のことに深入りすれば、あなたは今よりもっと危険な状況に陥るんですよ。」

 「それでも、知るべきことがあるんです。」

 友梨奈の目には強い意志が宿っていた。その意志を前にして、大村はしばらく逡巡したあげくついに重い口を開いた……

 大村が語り始めたのは、村の最も隠された歴史だった。立岩に鎮座する巨石の下には、鬼と呼ばれる邪悪な存在が封じられている。

 その存在は(いにしえ)の時代からこの地を荒らし、数多くの命を奪った。当時の村の住人たちが協議の末に導き出した方法が、『人柱を捧げることで鬼を封じ込める』というものであり、これまで幾人もの命が人柱としてその身を犠牲にしてきたが、明治の時代に最後の人柱として選ばれたのが美弥子という若い女性だった。

 「美弥子は、自らの意思で選ばれたのではありません。村のために、家族を守るために彼女は犠牲を強いられたのです。」

大村の声には、どこか深い悔恨が滲んでいた。

 「では、なぜ今になってその封印が弱まっているんですか?」

 友梨奈の問いに、大村はゆっくりと答えた。

 「ご承知の通り封印は永遠ではありません。記録にもあるように、百年を超えると弱まり始めると言われています。そして、人々の信仰心が薄れるほどその力は減少する。残念ですが今の時代、神に祈る者はほとんどいません。」

 その言葉に、友梨奈は小さく息を呑んだ。

 封印の力が弱まった結果として、鬼が再び姿を現し、失踪事件が起きているのだろうか?

 「もし封印を強化する方法があるなら、それを教えてください。このままではまた犠牲者が出てしまいます。」

 大村はしばらく黙ってから、低い声で答えた。

 「封印を再び強化するためには、同じ儀式を行う必要があります。それには、再び人柱となる贄が必要なのです。」

 その言葉の重みが、友梨奈の胸を強く打つ。再び誰かを犠牲にすることでしか、この村の平穏は保たれないのだろうか……?

 宿に戻った友梨奈は、胸に湧き上がる葛藤に押し潰されそうになっていた。封印の再強化に必要な贄。それは、あまりにも現実離れした話のようだが、村で起きている怪異がそれを証明しているようにも思えた。友梨奈は資料を読み返しながら、美弥子という女性の運命に想いを馳せた。彼女が人柱として選ばれたのは、家族と村のためだった。そして、今、友梨奈は自分がその責任を背負い込んでいるかのような感覚に囚われていた。その時、不意に宿の廊下から足音が聞こえてきた。友梨奈はペンを置き、耳を澄ませた。

 ギシ……ギシ……ギシ……

 規則正しい足音が近づいてきた。だが、この時間に誰が廊下を歩いているのだろうか?

 ふと、足音が彼女の部屋の前で止まりシーンと静まり返った。友梨奈は恐る恐る扉に近づき、ドアノブに手を伸ばそうとした、その時。

 コン……コン……。

 ノックの音が響き、彼女の全身が恐怖に凍りついた。扉の向こうに誰かがいる……。

 「……美…弥…子…さ…ん……?」

 友梨奈が問いかけた瞬間、再び耳元で女性の囁き声が聞こえてきた。

 「……ワ…タ…シ…ヲ…タ…ス…ケ…テ……」

 その声と同時に、扉が軋む音を立てて、ゆっくりと開き始めた。

 扉がゆっくりと開く音に友梨奈は息を呑んだ。月明かりが差し込む廊下には、誰もいない。ただ、扉の前には微かに濡れた足跡が続いていた。

 「……誰かいるの?」

 震える声で呼びかけても、答えはない。ただ静寂が部屋を満たし、足跡がゆっくりと奥へと消えていくような感覚に襲われた。友梨奈は意を決して廊下に出た。足跡を追うたびに、宿の空気が冷たく重くなっていく。足元から伝わる寒さが、まるで何かに引きずり込まれそうな錯覚を起こさせた。廊下の突き当たりに差し掛かった瞬間、不意に視界が歪む。

 月明かりが奇妙に揺らめき、目の前に黒い影が立ち現れた。その影は微かに女性の形をしているように見える。

 「……美弥子…さん?」

 友梨奈が名前を呼ぶと、影はわずかに揺れ、

手を伸ばしてきた。だが、その手はまるで霧のように形をなしていない。

 「……助けて……」

 影の奥から響く声は確かに女性のものだった。それは恐怖よりも深い悲しみを堪えているように聞こえた。

 「私はどうすれば……」

 友梨奈が声を振り絞ろうとした瞬間、影は突然かき消え、重い足音だけが遠ざかっていった。廊下の冷気が少しづつ消えて、現実に引き戻された感覚が彼女を包み込んだ。

 翌日、友梨奈は大村神主を再び訪ねた。昨夜の出来事を語ると、彼の表情はますます厳しくなった。

 「それは、彼女の魂がこの世に未練を残している証拠です。美弥子の犠牲で村は救われましたが、彼女自身は解放されていないのです。」

 「では、どうすれば彼女を解放できるのでしょう?」

 友梨奈の問いに、大村は重々しく頷いた。

 「封印を行った祠での儀式が必要です。しかし、それには玉依媛命を祀る特別な祝詞と、

古代の道具が必要となります。その準備には村の者たちの協力が不可欠です。」

 夜は重く雲は、月を覆い隠していた。山の気は湿っていて、木々の葉がざわつくたび、胸の奥がぞわりと揺れる。蒲生神社の本殿には、すでに多くの村人たちが集まっていた。松明の炎が赤々と揺れている。光と影が入り混じるその場には、ただならぬ緊張が漂っていた。友梨奈は一歩前へ出て、深く息を吸った。胸の鼓動が脈打っている。

 「……皆さん、今夜はこの場に集まっていただき、ありがとうございます。」

 声は震えていなかった。だが、その言葉が静寂に落ちた瞬間……

 「大村さん、ワシらを集めて何のようじゃ」

 「……アンタ、一体何を言うつもりだ。」

 「よそ者が口を挟むな!」

 ザワザワと人の波が揺れた。その中には、険しい目で睨みつける者、腕を組み首を横に振る者、わずかに怯えの色を隠せずに唇を噛む者。怒りと恐怖、疑念と絶望、それらが村人たちの顔を一様に曇らせていた。だが、友梨奈は退かなかった。祖母が背中を押してくれている気がした。今、言葉にしなければ全てが手遅れになってしまう。

 「……立岩の封印が、解けかけています…」

 言葉は静かに、だが確かに人々に響いた。

 「私が調査してきた限りでは……鬼は、確かに立岩の奥深くに封じられています。ですが、代々続いてきた儀式がここ数十年、行われていません。それによって……封印が緩み始めているんです。」

 人々のざわめきが次第に大きくなった。側にいる鈴木もゴクリと唾を飲み込む。

 「やはり、人が消える原因は、鬼なのか。」

 誰かが呟いた。

 「明日、"鬼の泣き所"で私が儀式を行います。必要な手順は、すべて記録に残されています。私の祖母は除霊師でした。私はその血を継いでいます。そして、玉依媛命様の御力を借りて、封印を強めることができると確信しています。」

 「そんな事、信じられるものか!」

 その声には、恐怖と怒りが入り混じっていた。長年この村に伝わる恐ろしい伝説が、村人たちの心を縛り付けているのだと友梨奈は感じ取っていた。

 「……信じたいと思いませんか?」

 友梨奈は、少しだけ声を落とした。松明の炎が彼女の頬を照らし、その瞳の奥の覚悟を浮かび上がらせた。村人たちは一瞬黙り込んだが、それでも疑念の目を向ける者は少なくなかった。その時、友梨奈と村人の議論を聞いていた茶屋の女主人、津田多恵が口を開いた。

 「わしは見たんじゃ。子供の頃、美弥子が立岩に封じられる時の姿を……アレは村のためとはいえ、あまりにも残酷じゃったんじゃ。美弥子の嗚咽と慟哭…わしはもうあんな思いはごめんじゃよ……」

 老女の声は泣いていたが、言葉には深い悔恨と重みがあった。

 「私は、あなた方の力になりたい。村を守りたい。人柱にされた美弥子さんたちの魂も失踪した人々も必ず救い出すと誓います。そのために必要なのは……"信じる力"です。私一人の力では足りません。ですが、皆さんが祈りを寄せてくれるなら、きっと神は応えてくださる。」

 「……でも、篠宮さん、もし失敗したら……」

 津田多恵が問う。その言葉は多くの村人たちの心にある疑念の代弁だった。

 「……その時は、私が全てを背負います。けれど、それでも何もしなければ、このまま"鬼"は復活します。もう、兆しは現れている。時間があまり残されていないんです……目を逸らしている場合ではありません。あなた方のご先祖が命をかけて封じたものを……私たちの代で、解き放つわけにはいかないのです。終わらせましょう。私たちの手で……!」 

 彼女の声は次第に熱を帯びていた。風が唸り、木々がざわめく。まるで、どこかでそれを聞いている"何か"が眠りの中で身をもたげようとしているかのように……一人が決意したかのように声を上げた。

 「先生、アンタの言うとおりかもしれん。のう、皆の衆、わしらもこの村の呪いを終わらせるべきじゃ。」

 「……わしの息子も、行方不明になってしもうた。戻って来るなら……お前さんに賭けてもええのかもしれん。」

 「わしも、もう見ていられん。何かしなきゃならんことは、分かってたんじゃ。」

 一人また一人と、村人たちが顔を上げた。その表情にはまだ不安は残っていた。だが、それでも揺れていた心が、少しずつ、静かに傾き始めた。

 「……そのアンタの言う、玉依媛命様に頼ってみようやないか。」

 津田多恵が、祈るように呟いた。その瞬間

、風が止み松明の炎が一斉に揺れた。空の雲がわずかに割れ、月がその姿を覗かせた。道が、拓かれる。友梨奈は深く頭を下げ、ひとつの決意を胸に刻む。

 「ありがとうございます。儀式は……明日の晩に執り行います。どうかその時、皆さんの力を、祈りをお貸しください。」

 闇が深くなるほど、明かりは強く輝く。その夜、間人村にひとつの希望が芽吹いたのだった。翌日、村人たちと鈴木が協力して立岩そばの祠を掃除し、儀式に必要な祭具を揃えた。

 友梨奈は古文書を基に、大村とともに祝詞を確認した。古代から伝わる文言は難解で、声に出すたび、胸に奇妙な感覚を感じる。

 夜、祠の周囲には松明が灯され、不気味なほどの静かな闇が広がっていた。村人たちの不安げな表情が、友梨奈の目に写っていた。

 「篠宮先生、すべての準備は整いました。」

 朝から動きっぱなしだった鈴木の言葉に友梨奈は深く頷いたが、その胸には次第に高まる恐怖と緊張が渦巻いていた。

 「婆ちゃん、見守っていてね……」

 友梨奈は目を瞑り心で祈る。

       八ノ章

 静寂の中、祠の周囲に集まった村人たちは息を潜め、儀式が始まるのを固唾を呑んで待っていた。夜空には薄い雲がかかり、月明かりも頼りない。松明の赤い炎がぼんやりと照らし、影を揺らしている。巫女の装束に着替えた友梨奈は祠の中央に立ち、手に古代の祝詞が書かれた巻き物を持っていた。その手はわずかに震えていたが、彼女の目には決意が宿っている。隣には大村神主が控え、儀式に必要な御霊石や祭具を慎重に並べていた。

 「篠宮先生、これから先、どんな事が起こっても決して動じてはいけません。心を乱せば、儀式の力は失われます。」

 「もちろん、分かっています……」

 友梨奈は深呼吸をし、祠の前に跪いた。

 「それでは、始めましょう。」

 祝詞が唱えられ始めた瞬間、その場の空気変わった。松明の炎が突然強く燃え上がり、辺り一面に異様な熱気が漂う。友梨奈の声はいにしえの言葉を正確に紡ぎ出し、静寂の中に響き渡った。

 「天津ノ神よ、この血を守り給え……玉依媛命よ、我らを導き給え……。」

 その声に呼応するかのように、祠の奥から低い声が響いた。村人たちは驚きと恐怖で後ずさりし、ざわめきが広がる。

 「静まれ!封印が揺らいでいる証拠だ。」

 大村が声を張り上げ、友梨奈の背中を支えるように立った。その視線は祠の奥を鋭く見据えていた。友梨奈の手元に置かれた祭具の古い鈴がひとりでに揺れ始め、微かな音をたてる。それは徐々に大きくなり、祠全体に反響していった。その音が高まるにつれ、周囲の空気が冷たくなり、霧が立ち込めていく。

 霧の中、祠の扉が不気味に軋む音をたてて、わずかに開いた。そこから濃く黒い煙のようなものが流れ出し、地面を這うように広がっていく。それはまるで生き物のようにうねり、村人たちの足に迫ってきた。

 「くっ……!」

 友梨奈は震える手で 祝詞をさらに高らかに唱え続けた。黒い煙は次第に祠の周囲を漂い、やがて人の形をとり始める。その形は、巨大で歪んだ鬼の形を模していた。黒い瞳はは空虚で、口元からは長い牙が覗いている。鬼の輪郭が徐々に鮮明になるにつれ、恐怖が現実味を帯びていった。

 「いかん!封印が破れようとしている…!」

 大村が焦燥の表情を浮かべる。

 「まだ間に合うはずです!」

 友梨奈は古文書から急ぎ足で呪術の手順を確認し、大村と協力して鬼を封じるための行動をとることに決めた。大村は祭壇に積まれた浄火に呪術用の粉を火に振りかけた。すると、たちどころに白い煙が勢いよく立ち上り、黒い鬼と激しくぶつかり合った。その瞬間、耳をつんざくような音が響き渡り、鬼の姿がわずかに後退する。

 「篠宮先生!浄火を中心に祈りを集中させてください!」

 友梨奈は汗が額に滲むのを感じながら、大村の指示通りに浄火の前に跪き、再び祝詞を唱え始めた。

 「玉依媛命よ、この地の穢れを浄化し給え……!」

 その言葉に応えるように、浄火がさらに激しく燃え上がり、黒い鬼の一部が弾けるように消えた。しかし、煙はまだ完全に消え去ることは無く、鬼の姿は再び明確に現れてきた。鬼の目が赤く光り、その口から低く不気味な声が漏れた。

 「……ダ·レ·ダ…ワ·レ·ノ…ジャ·マ·ヲ…ス·ル·モ·ノ·ハ……!」

 その声は祠全体に反響し、友梨奈の体を突き抜けるような重みを持っていた。彼女は必死に心を奮い立たせ、祝詞を唱え続ける。

 「先生、もう少しです。祝詞を止めてはいけません!」

 大村が声を張り上げる。鬼の姿が完全に具現化した瞬間、周囲の風景が一変した。村人たちの叫び声が響き、松明の炎が強風に煽られて消えそうになる。友梨奈はその場に倒れ込みそうになりながらも、必死に力を振り絞って立ち上がった……

 「私は篠宮友梨奈……除霊師・篠宮聡子(しのみやとしこ)の孫にして、玉依媛命の加護を受けし者。おまえを永久に封じるためにここにいる!」

 彼女の声に、鬼はゆっくりと顔を上げ、その目を彼女に向けた。

         九ノ章

 祠の周囲に立ち込める霧が一気に濃さを増し、鬼の姿は完全に具現化した。その巨大な体は異形でありながら、人間のような憎悪のこもった目で祠の中を睥睨する。

 「……ダレガワレヲシバル、ダレガワレヲアヤメタ……ワレヲフウジタノハダレダ!?」

 その声は、祠の空間全体を揺らすほどの威圧感を放つ。それでも、友梨奈は足を踏みしめ、鬼の前に立った。彼女の目には恐怖だけではなく、使命感と決意の光が宿っている。

 「私は美弥子の魂を解放し、この地に永久の平穏を取り戻すためにここにいる!おまえをこの地に縛る鎖をたち、終わらせるために。」

 燃えるような鬼の赤い瞳が鋭く彼女を見据え、その腕を振るうと、周囲の風が荒れ狂うように巻き上がった。突如、祠の内部が異界の様相を呈し始めた。地面から伸びる赤黒い影が渦を巻き、空間全体が歪む。村人たちは恐怖に駆られ、次々と後ずさりするが、大村神主が大声で叫んだ。

 「逃げるな!皆で祠を守るのだ。祠が崩壊すれば、この地は本当に鬼に呑み込まれるぞ。」

 村人たちは震えながらも、松明を掲げ、手に持った錫杖や独鈷を鳴らし、祠を囲むようにしてその場に踏みとどまった。友梨奈は中央にたち、祝詞を唱える声をさらに高めた。

 「天照大御神の御霊よ、この地の闇を切り裂き給え!玉依媛命の導きにより、鬼の鎖を断ち切り、この地を浄化し給え……!」

 その言葉に呼応するかのように、友梨奈のそばにあった御霊石が青白い光を放ち始めた。

 光は次第に大きくなり、祠の中を満たしていく。鬼の咆哮が響き渡り、友梨奈の周囲の空気が一層重くなった。彼女は一瞬、息苦しさを覚えたが、決して祝詞を止めなかった。

 「鬼よ!すべての人柱たちの魂を解き放ち、この地の闇を終わらせなさい!」

 友梨奈の声が祠の奥に届いた瞬間、鬼は一瞬動きを止めた。その瞳が微かに揺らぎ、まるで彼女の言葉に応じるかのようだった。

 その時、大村が声を張り上げた。        

 「封印を完成させるには、魂の鎖を直接断ち切るしかない!しかし、それには玉依媛命の加護を得た者が自らの力を注ぎ込む必要がある。篠宮先生、最後に今一度あなたに問う。その覚悟はお有りか?」

 友梨奈はその言葉に戸惑ったが、次の瞬間には覚悟が固まっていた。彼女は祝詞をさらに力強く唱え、手にした御霊石を鬼に向けて突き出した。

 「お前もまた、この地に縛られた者だ。だが、この呪いを終わらせるのは、私たちの役目だ。ナウマクサマンダバザラダンカン!」

友梨奈の体が御霊石とともに光りだして、祠全体を包み込み込んだ。その光の中で、鬼の姿が次第に消えていく。鬼の咆哮は次第に弱まり、その体は光の粒子となって空へと帰って行った。最後に、静かな声が祠の中に響いた。

 「…ワレヲワスレルナ……コノチヲ……マモリツヅケヨ…」

 その言葉を残し鬼は完全に消え去った。

 御霊石から迸る光は、まるで天の裂け目から差し込んだ神明の矢のように、静かに、しかし確かに世界を浄化していった。黒く蠢いていた霧は、その光に触れるたびにじりじりと焼かれ、やがて音もなく祠ごと包まれていく。やがて、あたりに立ち込めていた濃霧はすっかり消え去り、そこには人々の姿があった。祠の前、倒れるようにして眠る十数人の男女。髪は乱れ、衣服は土にまみれ、痩せ細った手足には何ヶ月も迷っていたかのような痕が残っている。

 「……生きてる?」

 真っ先に駆け寄った大村が手慣れた様子で男性の脈を測る。指先に感じた微かな鼓動に、彼は一瞬目を見開き、次の瞬間、胸を撫で下ろして天を仰いだ。

 「全員……命はある!早く医者を。」

 その声を合図にしたかのように、村の人々が一斉に駆け寄る。泣きながら名前を呼ぶ者、無言で抱きしめる者、ただただその存在を確かめるように手を握りしめる者……。

 「帰ってきたんだ……本当に……」

 喜びの輪が次第に広がる中、静かに風が吹いた。木々の間から沈みゆく月が顔を覗かせ、その銀光が照らしたのは……祠の奥に立つ人影だった。十人ほどだろうか。皆、古い和装に身を包み、薄く透けるような身体。かつてこの地で鬼の災厄を鎮めるために、人柱となった者たち……その魂だ。老いた者…若き者…男も女も。彼らは皆、ほのかに微笑みながら、人々の方を見つめていた。気づいた村人の誰かが膝をつき、誰がが手を合わせた。やがて魂たちは、ゆっくりと、揃って一礼する。まるで解放された事に安堵したように、光に包まれ、次第に輪郭が霞み、そして……一人だけが残った。それは、まだ十代に見える若い女性の姿。長い髪を結い、清楚な面差しに柔らかな微笑みを浮かべている。どこか見覚えのある顔。そう、美弥子……彼女だ。思ってた以上に若い。友梨奈が目を見張るその前で、彼女は一歩、ゆっくりと進み出る。

 ……アリガトウ。

 小さくしかし確かに響いたその言葉。風に溶けるように優しく、胸の奥に深く染み込むようだった。そして彼女もまた静かに、光の中へと消えて行った。残された者たちは、何も言わなかった。ただ涙が、静かに、ゆっくりと頬を伝い落ちてゆく。静寂が戻ると、村人たちはあらためて驚きと感動の余韻に浸っていた。祠の周囲には穏やかな月明かりが差し込み、まるで長い悪夢が終わったかのようだった。それは恐怖が去ったあとの静けさではない。罪と哀しみを経て、ようやく訪れた救済の静けさだった。

 「これで、ようやくこの村に平穏が戻るのですね……よかった…。」

 疲労困憊の友梨奈が息をつき、倒れ込むように、祠の前に座り込むと、大村がそっと彼女に肩を貸した。

 「篠宮先生、あなたの勇気と知識が、この村を救いました。しかし、鬼の存在はただの災厄ではなく、この地の歴史そのものだったのかもしれません。」

 村人たちは一人また一人と友梨奈に深々と頭を下げ、感謝の意を示した。

 「ありがとう……先生。」

 その声には、長年の恐怖から解放された安堵が含まれていた……。

         最終章

 儀式が終わり、夜が明けると村はまるで別の場所のように静かで澄んだ空気に包まれていた。気持ちのよい朝日に照らされ、鳥の声がどこか遠くから聞こえ、風は優しく田畑を撫でていた。友梨奈は儀式の余韻に浸りながら、村をゆっくりと歩いていた。

 疲れ果てた体は鉛のように重かったが彼女の心はどこか満たされていた。鬼の咆哮が消え去った今、すべてが遠い夢のように思えてくる。

 「終わったのね……。」

 村人たちは、安堵と感謝の表情で友梨奈に手を振り、笑顔を見せる。そこには最初に話を聞いた茶屋の女主人、津田多恵もいた。友梨奈と目が合うとにっこりと微笑み軽く会釈をする。村には長年の呪縛から解かれた解放感が広がっていた。友梨奈は最後に、蒲生神社を訪れた。儀式を支えてくれた大村神主が同行し、二人は静かな境内を進んだ。境内には朝日が差し込み、古い神社の柱や瓦が柔らかな光を浴びている。友梨奈は社殿の前に立ち、ゆっくりと手を合わせた。

 「この地を守り続けた力に、改めて感謝します。」

 彼女の祈りの中で、不思議な感覚が心を満たしていった。昇龍伝説に隠されていたもの……それは、ただの恐怖ではなく、この地を守る力そのものだったのかもしれない。

 「篠宮先生。」

 大村が後ろから声をかけた。

 「伝説や神話は、時に人々に恐怖や呪いをもたらします。しかし、忘れてはならないのは、その中に必ず"守るための力"があるという事です。」

 「……ええ、それが、鬼の最期の言葉だったのかもしれませんね。」

 友梨奈はふと空を見上げた。昇りゆく朝日に照らされた雲は、まるで龍が天へと昇る姿のようだった。大村神主の案内で、友梨奈は最後に村に残る古い資料庫へと足を踏み入れた。そこで彼女は、これまでの調査では見つけられなかった一冊の古文書を発見する。その文書には鬼とされた存在が封じられた理由が書かれていた。

 「鬼……いや、かつては守護者だったの?」

 文書によると太古の昔、この地には巨大な龍神が鎮座しており、土地を護る存在であった。しかし、時代が移り変わる中で龍神は『異形』のものとして忌み嫌われ、封印されることとなった。そしてその封印が歪んだ伝説となり、鬼の姿を作り上げてしまったのだ。

 「悲しい話ね……。」

 友梨奈は小さく呟き、その文書を閉じた。守り手が時を経て鬼とされ、その呪いが村人たちの心を長く縛りつけていた……彼女はその真実に胸を締め付けられる思いがした。しかし、封印を解き放ち、龍神が光の粒子となって空に還った今、伝説は新たな姿へと生まれ変わったのだろう。

 数日後、友梨奈は再び京都駅に立っていた。彼女の傍らには研究資料と手記が詰まった鞄があった。寝台列車の発車を待つ間、彼女はホームから遠くの山々を眺めていた。立岩はきっと静けさを取り戻し、村人たちは新たな日常を過ごしていることだろう。

 「歴史には終わりなんてないのかもしれない。」

 友梨奈はそう呟くと、小さく笑みを浮かべた。歴史学者として彼女が追い求めていたのは、書物の中の記録だけではなく、そこに息づく人々の想いや真実だったのだ。

 「先生。」

 不意に声をかけられ、彼女は振り向いた。 

 そこには鈴木が立っていた。

 「伝説を解き明かし、鬼を封じた功績、世間は大いに注目していますよ。」

 「いいえ、私はただ……歴史に耳を傾けただけです。それに玉依媛命様の御力があったから……。」

 友梨奈は穏やかな表情で答え、鈴木に別れを告げて列車に乗り込んだ。ドアが閉まり、ゆっくりと車両が動き出す。その後、友梨奈がまとめた調査報告は『昇龍伝説』として大きく注目され、京都の歴史と神話に新たな光を当てた。村は観光地として賑わいを取り戻し、かつての鬼伝説も『守り神』として語り継がれるようになった。しかし、その後も友梨奈は時折、夢の中であの鬼……いや、龍神の姿を見ることがあった。それは黒い霧の中から解放された一筋の光、そして天へと昇る龍の幻影。

 「この地の歴史は、まだ終わらない。」

 友梨奈は次なる旅に想いを馳せながら、今日も自分の机に向かうのだった。

 

本文は創作の書き下ろし小説です。本作はフィクションであり、登場する地名、人物、団体名など、現実のものとは関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ