表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

第6話 mute

 少女はその野良犬をエルと名付けた。最初は怖がっていた少女もエルに慣れきて、怯えることなく接するようになった。

「エルはあんまり啼かないね。吠えたりしていいのに。遠慮しないで。私が萎縮しちゃうから?」

 たまに出される吠え声に少女がビクビクしていたのを覚えたのか、エルは少女の前では吠えない。エルは少女に懐いてから毎日来るようなり、一緒にいる時間も来る度にに長くなった。遂には帰らなくなりずっといるようになった。

 エルと過ごすことによって少女の日常は変化していった。


「今日ね、エリスティアお嬢様の授業をのぞいたらダンスやってたよ。こんな動きだったかな?ちょっと違ったかも」

実際にエルに踊って見せた。複雑なステップもターンも忘れないように何度も繰り返した。


「昨日は礼儀作法をやってたかな?こんなお辞儀。私の服、ドレスじゃないから摘まむトコないや」

笑いながら楽しそうにエルにやって見せる。


「読み書きとかもやってたね。パラパラ捲って本の内容頭に入れたから教えるね」

屋敷にこっそり忍び込んで本を読んでは、エルを相手に読み書き、単語を教えたりしていった。


「今日はパンとソーセージ確保してあるから一緒に食べよう」

食事は自分が食べるよりエルに与えたくて食糧確保するよりになった。


 今までの少女は毎日泣きながら無気力で落ち込んで行動する気力がなかった。しかし今はエルの為に何か新しいことを話したい見せたいと前向きになっていた。そして気持ちが屋敷の外側にも行くようになった。





「エル、今日は領地へ下りてみようと思うんだ」

初めて屋敷の敷地外に出た少女は領地まで下りていった。日中なので畑仕事や学校で人は住宅地にあまりいなかった。辺りを見回すと赤ちゃんをあやす母親と構って欲しそうに纏わり付く小さい子供が目に入った。


(…親子……お母さん…私の欲しかったもの…)

捨て子であり、屋敷の人達からも見捨てられた少女は家族を求めていた。目の前の親子のように温かな愛のある家庭を夢見ていた。


 少しの間、親子を見ていたら村の少年達に声をかけられた。


「おい!」

ビッとなって頭が真っ白になったが、声の方に体を向けた。

「お前、みない顔だな?名前は?」

(名前…何だったっけ?ずっと呼ばれなくて忘れちゃった…ええとええと…何か言わないと)


 焦りから思考回路が回らない。答えが分らないだけでなく、屋敷の人間がよぎるからだ。

 何も言わせくれなかった、言う前に否定された。そのことがあり声を出すのを躊躇ってしまう。


「何か言えよ、言葉通じないのか?」

「コイツ何も喋らないんだ。言葉知らないんじゃね?」

「変なヤツ、構うだけムダじゃね」

興味のなくなった少年達はその場を去った。その後ろ姿を見て少女も屋敷へ戻った。



「エルとは話せるのに他の人と話すのができなかったね……分からなかったのは名前だけじゃなかったね……」

悔しさと悲しさともどかしさから涙が溢れた。


 少女のことを知らない屋敷の新人メイドに出くわしたときも同じだった。相手の言っていることはわかる。質問も答えられる。ただ声が出せないだけ。相手がイライラしているのがわかる。何時までも答えられずにいると、言葉がわからない、頭が悪いみたいに言われる。一度でもそういう印象を与えてしまうと、その人は避けるしかなかった。

 何か言えば否定される、不快に思われる、邪魔になる、そういう思考になった。話せなくなってからは、どんな言葉を言えばいいかわからなくなった。そんな少女でも動物やぬいぐるみとなら話せた。だが、屋敷の人曰くその姿が不気味に見えるらしい。




 次の日、少女はまた村まで下りていった。まだまだ行ったことの無い場所があるので、今日は前回とは違う場所へ向かった。気になっていた教会へ歩いていると後ろから誰かに押され、「きゃっ?!」と小さな悲鳴を上げ転んだ。痛たたと言いながら立ち上がって振り返ると、昨日の少年が一人、怪訝な表情でいた。

「何?お前喋れたの?」

(声が出るってわかってから黙っている変だよね?)

「何で黙りなんだ?言ってること分かるよな?頭悪い?」

一番言われていること、一番言われたくない言葉。目立ちたくないけど黙っていると悪目立ちする。それも嫌だし、言葉を知らない、知識が無いとか思われたくない。渋々声を出そうとするが最適な言葉が見つからない。

「俺はテオ、お前は?まさか自分の名前言えないヤツいないよな?」

「………名前、シア」


 かつて呼ばれていた名前を思い出したので呟いた。思ってたよりもかなり小さくボソボソだった。擦り剥いた少女の膝は痛くないが、精神的な苦痛で泣いてしまう。どんな反応しているか相手の顔を見たくない、関わりたくない、この場から消えたくて少女は屋敷へ逃げた。



「あれ?帽子落とした?あの時かな?」

屋敷に着いた時、帽子が無いことに気付いた。


 少女は知らない。テオドアが泣きながら逃げ出す少女の後ろ姿を、少女の髪の色と同じ色をした顔で見つめていたことを。

(赤い髪……女の子……?)

村人モブ達は設定決めてないですか、再登場します。

名前はテオドア、ニケ、オズワルドです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ