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第5話 少女と野良犬

 少女は屋敷での自分のしてきた仕事を思い返していた。



 お屋敷で役に立ちたくたて掃除をすれば、

『余計なことをするな』、『汚れる』、『やり直さないといけないから仕事が増える』と。

 お片づけすれば、『触るな』、『穢れる』などと、私が触ったものを全部拭かないとダメらしい…何でだろう?


 私のやり方はダメだったのかな?やり方教えてって頼んでも、

『自分で考えてくれ』

『そんなこともわからないダメな奴』

『教えたはずだ』

『時間の無駄だ』

こんなことだけで何も教えてくれない。

最後に言われたのは、『何もするな』だった…でも仕事しないと、

『仕事が無いのに屋敷にいるのね』

『穀潰しとか』

陰で言われる…

 それでも私も何かお仕事をしたいから、誰も教えてくれないから、周りの動きを見て覚えた。自分で仕事を探しているけど自分の仕事が見つからなかった。

 初めて求めれたことはエリスティアのお人形になることだ。


私の仕事はエリスティアのお人形なの?



 初めてエリスティアとお人形遊びをした時を思い出した。この屋敷にいた姉、つまり自分は、家出した傲慢でわがままなエリスティアだとか理解しがたいものだった。あのエリスティアの話した内容も理解できなかった。あのエリスティアの中で話で唯一理解出来たのは、一番に拘っていることだった。

 私はこの屋敷で何をすればいいのだろうか?どうすれば評価して貰えるのだろうか?

役に立てるのだろうか?



 屋敷内の人達から無視される少女に唯一相手してくるのがエリスティアだった。でもそれは少女が求めていたものではなかった。

 どうもエリスティアは少女を見下さないと気が済まないらしい。みすぼらしい少女と至れり尽くせりな自分との比較で優越感に浸りたいらしい。


わざわざ探してくるし、見つからなかった時は癇癪を起こすから屋敷にいないと面倒くさい。


 屋敷の主は少女を追い出したいが、エリスティアはお人形として置いておきたい。

 両者の言いたいことを理解している少女は、居心地の悪い屋敷から出たいが躊躇いもあった。


 エリスティアは思い通りにならない少女が気に入らない。本や紅茶の入ったカップやゴミを投げたり、バケツの水をかけたり、階段から落としたりしていた。さらに野良犬の群に置き去りにしたこともあった。野犬の群れに襲われたことで、少女は犬が苦手になっていた。


──あの時は本当に怖かった。唸り声に牙……でも襲われた衝撃はなかったかな?

殴られたり落とされてたりしたときの衝撃も何故かあまり感じない。何かが守ってくれているみたいで毎回痛くないし怪我も無い。いつもこうだから体は無事だけど……




「まだあったの。そのゴミ!我が家はゴミ置き場ではないから。早く捨てなさい。」

エリスティアが周りのメイドに偉そうに叫ぶ。少女は数日間の行動から、エリスティアが現れそうな場所を予測していた。エリスティアが探し出す前に、エリスティアが来るであろう場所で掃除をしていたのだ。少女は廊下にゴミが残っていると思い、掃除した場所で探した。

「誰もやらないの?じゃあ私が捨ててあげるわ」

エリスティアに掴まれ、引き摺られてゴミは自分だと理解した。今日の少女は三階窓からイサベラエリスティアに突き落とされた。落ちたとき水晶の様な結晶が少女を守り、落下の衝撃は無く怪我もない。毎回、少女の体は何かに守られエリスティアの遊びで怪我をしたことは無い。


 少女は満足げに笑っているエリスティアが窓際から去るまで待ってから移動した。いつものように裏庭で休んでいたら怪我をした野良犬を見つけた。


──子犬かな?


「怪我したの痛いの?怖くないよ?ほら、おいで?」

怪我したときの自分に欲しかった言葉をかける。緊張してどもりながらで小さい声だったかもしれない。

 犬は怖い。でも助けたい。自分は助けて貰いたい時に助けは来ない。だけど助けには行ける。助けたい。

 なかなか来ないのは歩くのが大変だからと思って自分から近づいた。


怖くない!

あの子は怪我している子どもなんだから!


「怪我治してあげるね」

血の流れる右前足に手を添える。柔らかく温かい光が怪我を直す。怪我を治せる治癒の魔法に気づいたのは転んで擦り剥いたときだった。怪我した箇所に手を当て早く治ってと祈ったら魔法が使えた。


「怪我治ったよ、痛くないかな?君も捨てられたのかな?私とおんなじだね。君…君より名前で呼ばれた方が嬉しいよね。名前…呼びやすいのがいいかな。あ…あー、何がいいかな?私の名前は何だったけ、呼ばれないから忘れちゃった」

なるべく怖いと思われないように頑張った。

自分も怖くないと暗示をかけた。





 この日以来、毎日来ている野良犬の為にご飯を探したり、話をしていると、気分が前向きになった。


──この子は襲ってこない。大丈夫だ。怖くない。


 野良犬の世話を始めてから、少女は思った。



 私が望んだことは誰もしてくれない。誰にも期待しない。なら、私がして欲しかったことをこの子にしてあげよう!


名前で呼んで欲しい

声をかけて欲しい

お話して欲しい

撫でて欲しい

ぎゅっとして欲しい

褒めて欲しい

ご飯を一緒に食べたい

本を一緒に読みたい

誰かといたい

愛されたい


 少女は自分の求めたことを野良犬に向けるようになった。

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