第4話 doll play②
少女はエリスティアがお姉様を探していると聞いて、エリスティアがティータイムを終えた中庭に顔を出した。
─本当は行きたく無いけど、初めて自分が必要とされているし……一応妹だから…
あのお人形遊びの意味は分からなかったけど、遊びだから、怖かったけど遊びだから。今日の遊びは違うのやるかもだし…
「あっ、お姉様。来て下さったの?昨日のはお母様がよくメイドに躾ているのをアレンジした遊びなんですの。お母様は私だけでなくメイドにも一番であること、完璧であることを求めてらっしゃるの。よくメイドを躾てらして、いつも参考にしてますの。それから家出されたお姉様がいたら、私にあんな仕打ちをすのかもしれませんと想像しましたの。どうでした?楽しめました?私は楽しめましたわ。ふふふ」
楽しむ要素がどこか分からなかった。だが、このエリスティアの感性についていけないことは理解出来た。
「お姉様見て下さる?私、これ使ってみたかったの。お父様にお伝えしたら用意して下さったの。さあ、これで遊びましょ?」
エリスティアが手にしていたのはレイピア。エリスティアは少女の前で構えると突き出した。彼女がよくやるお人形遊びは、母の躾の真似と武器の試し打ちだった。今日は前から気になっていたレイピアの試し斬りのようだ。
少女は無邪気に突き出されたレイピアに怯え、逃げようとしたが足がもつれて転んでしまった。
「きゃ」
「お姉様は私の人形ですよ。お人形は動かないの!」
エリスティアは動けずにいる少女に狙いを定めた。
「お姉様はこの程度で壊れないと信じてますわ」
ぬいぐるみはすぐに壊れる。でも人間ならそう簡単には壊れない、何度でも遊べる。ぬいぐるみは直すと壊した場所がわからなくなるし、新しくぬいぐるみになる。でも、人間なら壊した場所の跡が残るから達成感が強くなる。メイドならすぐにいなくなるが、お姉様ならずっといてくれるはずだ。エリスティアはそう信じている。
エリスティアは少女の顔面目掛けレイピアを突き出した。少女は丸くなって防ごうとした。
「いや…」
キンっ!
グラスで乾杯するようなガラスの音がした。どうやら、レイピアの刃が硬い何かに当たり折れたようだ。折れた刃が宙に舞い地面に刺さった。
──何があったの?…わかんないけど助かった?
この時、氷の様な水晶の様な透明な結晶が少女の体を覆っていた。それがエリスティアの攻撃に反応し少女を護ったのである。それは少女に向けられた殺意や悪意から護る加護である。
「何このなまくら!なんで使えないの!!」
エリスティアは壊れたレイピアを八つ当たりで投げ捨て、金切り声を立て屋敷に帰っていった。
それから数日間、エリスティアは少女にあらゆる武器、刃物を試した。しかし武器の方が壊れていった。エリスティアはなまくら武器が悪いと今までの鍛冶屋を両親に頼みクビにさせた。そして武器、刃物の類全て新調させた。新しく刃物を作らせている間、少女を見つけてはいらないゴミ、使えない玩具、役立たずなど罵り、ことあるごとに叱責し気分を紛らせいた。
──壊れない人形が欲しいと思っていた。壊してもすぐ直る人形が欲しいと思っていた。でも、壊したいのに壊れない人形なんていらない!
──絶対に壊してやる!!