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第2話 赤い髪の少女

ヒロインの名前はまだ出ませんので、少女と呼んでいます。

 先端が折れ曲がった魔女の三角帽子に似た国土のこの国は、鍔のリボンに見立てた大河によって南北に別れている。首都の置かれている温暖な気候の南部は、緩やかな山と高原が広がり、その高原からは肥沃な平野が続いている。川の北側は平地乏しい丘陵地帯、東側の国境となっている険しい山脈、麓には手つかずの森が広がっている。そして西の海岸を北上すれば流氷の漂着する折れ曲がった先端の半島にぶつかる。そしてその先には地図にはない島があるとされている。


 *


 ここは国の北部の大河にほど近い山あいの領地。人気の無い満月の深夜、一人の少女が教会で女神像に祈りを捧げていた。この国の逸話にある祈りの奇跡を信じて。



 この国の逸話とは祈りの聖女の奇跡、北の山の4人の姉妹の伝説である。その姉妹は吹雪の中でも一際目を引く赤い髪をしていた。

 姉妹はある日、女神から天啓を賜った。


 「災厄に見舞われる民に救いを」


 その声を聞いた姉妹は各々災厄に見舞われる地に赴き祈りを捧げた。その祈りが天に届き、奇跡となり民に平穏をもたらした。

 吹雪を鎮め、荒ぶる波を鎮め、火山を鎮め、大地を豊かにした。

 これが女神信仰の発端である。その後姉妹は祈りの聖女とされ、神殿にて祈りを捧げ民に奉仕した。やがて祈りの聖女姉妹の守護者となる聖獣が現れ、神殿の守り神となった。その聖獣は白銀の狼、黄金の獅子、深碧の鷲、青藍の竜とされている。

 やがて、その守り神は人の姿となり聖女結ばれ、彼等の子孫が祈りを捧げるようになった。祈りは奇跡となりやがて魔法の力となり、火を起こし、水を清め、風を吹かせ大地を豊かにし、光を灯し、病や傷を癒した。

 魔法の力を使う者達はその力を民に振る舞い、生活を支えた。

 今なっては聖女が現れなくなっているが、神殿と教会で神官達が女神に祈りを捧げ、人々に平穏をもたらす奇跡の魔法の力で民に奉仕しているのである。



 祈りの聖女は神話や御伽話の類で信じている人間が減りつつあるが、少女は信じている。祈りの奇跡を信じて…


 *


 祈りの捧げている少女は領主の屋敷の前に捨てられた子であった。名前は分からなかったが、身に付けていたものに書かれていた文字からシアと呼ばれた。


 子供のいない屋敷の男爵夫婦は少女を世継ぎにするかもしれないと、それなりに育てていた。しかし、数ヶ月後夫人の懐妊がわかると少女は蔑ろにしだした。捨て子より実子を優先するのは道理である。


 そして、男爵夫婦に女の子が産まれると屋敷内の関心はすべて赤ちゃん、エリスティアに移った。


 やがて少女に話しかける人はいなくなり、無視され、遂には屋敷から少女を追い出そうとした。追い出す理由は少女の髪の色にもあった。少女が赤ちゃんの時はくすんだ赤茶色の髪であったが、歳を重ねる毎に赤みを増し、5歳になると見事な赤い色になった。


 男爵夫婦の家系にはそんな髪色の人間はいない。捨て子だったということに加え、自分達に無い色を娘とした事実を消そうとしたのであった。そう、最初からいないものとして扱ったのだ。

 賢い少女は自分の状況を理解し始めた。自分が異質な存在であること、不要な存在になっていることを。


 *


 


 少女が気を引こうと目の前で花瓶を倒しても、叱られて片づけるのは新人のメイド。


 ──私がいるのに、私がやったのに……


しかし少女には何も言われない。その後、その新人に蹴られて終わる。少女が自分の体を拾ったナイフで斬ったときも相手にされないで終わった。


 絵本を読めたら褒めてくれた。ひとりでお着替え出来たら褒めてくれた。新しい言葉を言えるようになったら褒めてくれた。


 でも、今はその全てがエリスティアへ。

 褒めて欲しくてお掃除しても、玩具を片付けても、絵本をきれいに本棚に並べても誰も気付かない。構ってくれない、声をかけてくれない、見てくれない。話しかけても遮られ、否定され、拒絶され、無視される…泣いてもダメ。



 相手にされないのが分かってきたから、全部少女ひとりでやるようになった。

 この屋敷に居場所は無いが他に行く場所も分からないため、屋敷内で隠れて生活していた。人目につかないように、自分がいた痕跡を残さないように、本を読んだり掃除したりしていた。また誰からもご飯も貰えなくなった少女は、厨房から盗むようになった。更には庭の野草や木の実も食べるようになった。



 ──何でみんな私のこと見てくれないの?

 何でエリスティアお嬢様だけが大事なんだろう?

 私だって、私だったらお嬢様より勉強も習い事もマナーもお掃除だって何だって頑張るのに……エリスティアお嬢様に負けないのに……



 そんな少女は自分だけが持つ赤い髪がいけないのではと思い、赤い髪を隠した。毎日毎日、誰にも相手にされず泣きながら過ごしていた。



 屋敷に捨てられ、屋敷から捨てられる少女は物心つく頃から理不尽さを味わうことになった。

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