第2章:燃える思い
あれから約半年。同志が500人ほど集まった。その初めての集会を行った。実力を測るため、模擬戦を行った。
「では、結果を発表する。マシュー・オーク、ニール・エンスー、トゥーリ・ジュリマン、ブースト・アスター。この4名を、『精鋭部隊』に選出する。前に進み出てくれ。」
挨拶が行われた。1人目は、筋骨隆々なマシュー・オーク。
「よろしく!どんな敵でも、俺がこの金棒で、ぶっ潰してやるからな!」
2人目は、小柄で一見大人しそうなニール・エンスー。
「僕は、こう見えて強いので。舐めないでくださいよ?」
3人目は、壮年のトゥーリ・ジュリマン。
「今度の主君は良さげだな。今までの奴らとは違うようだ。」
4人目は、どこか上から目線なブースト・アスター。
「2つ思うところがあるな。こんなに集まっては危険だし、軍事力が圧倒的に足らないからな。」
ーー確かに、言われてみればそうだ。人員はあれど、武器は各々持参。世界を変えられるのには程遠い。
「そうだな。今後は連絡を取り合うくらいにする。軍事力に関しては、どこかと同盟を組もうと思う。」
3日後。俺、ナシュ、アレン、フランカールは、「Steam軍事政権」という武力組織を立ち上げて自分の領土を確保した、ゼータ・スペアという人に会いに行くことにした。
「Steam軍事政権」は幾つかの「防衛府」を持っており、首都は最新の「防衛府」に置かれるのだという。現在は「第4防衛府」だが、「第5防衛府」も建設中らしい。
館にはすんなり通された。ゼータの横には機械があった。全体的に茶色で、直径1.5mくらいの球体のような部分から、針のような細長い足が4本生えている。だいぶ大型だ。
「ようこそ、我らが『第4防衛府』へ。」
その機械から、少し高い、男の声が聞こえたのだ。それは「クロッサス」という兵器で、ゼータの重臣が中で操縦しているという。会談の場にまで兵器を出してくるとは、相当警戒されているのだろうか。
(後になって知ったことだが、警戒心は全くなかったらしい。操縦していた「重臣」が、一日に何時間をも「クロッサス」をいじったり乗ったりするのに費やしているくらい、自身が開発したその兵器を気に入っていただけなのだそうだ。ちなみに、その「重臣」自身も「クロッサス」というあだ名がついていて、本名は主君でさえ「知らない」という...。)
会談が始まった。ゼータが入ってきて座り、クロッサスの足を小突いた。
「この者の詳しい説明をしてくれ。」
「アッセ・バーン氏は世界を変えるが為に、革命を起こそうとしているようだ。彼はこの世界に一石を投じる者だとお見受けした。目標は我らと同じである故、後押しをすべきかと。」
「そうか...。我らに利は?」
「見込み充分、我らの軍の強化に役立つかと。ただ、事前に届いた文書によると、彼らは"庇護"ではなく、対等な"同盟"を望んでいるようで。」
「ほぅ...。それほど彼らが強いというのか?」
彼らは小声で話しているつもりなのだろうが...俺にはしっかりと聞こえているんだよなぁ...。
「では、模擬戦をする、というのはどうだ?明日の正午、ここの前の河原で、貴殿らを待っていよう。貴殿は4人で掛かってくるがよい。こちらは、俺と、コイツと...そうだな、外にいるスペードの3人にしよう。」
「幹部同士で戦うってことか!名案だ...其方からしても、4対3ならばいいだろう?」
「そう...だな(汗)」
軍事組織の幹部とはいえ...この2人、好戦的すぎないか?
模擬戦が始まった。
フォーメーションーーーーーーーーーーーーーーーーー
~革命軍 陣営~
前衛
・アッセ(所持武器:なし)
中衛
・フランカール(所持武器:エレキギター)
・アレン(所持武器:チェーンソー)
後衛
・ナシュ(所持武器:ナイフ→回復担当)
~Steam軍事政権 陣営~
前衛
・クロッサス(所持武器:ビーム)
・スペード(所持武器:戦車)
後衛
・ゼータ(所持武器:ライフル型光線銃)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うおっ!」
開始と同時に、クロッサスの球体部分から、俺の足元に向けて赤いビームが放たれた。俺は後ろに飛びのいた。照射された草が、見る見るうちにしおれていく。
「ご安心くだされ。出力は半分に抑えたので、70度くらいまでにしかならぬから...!それに、ハンデとして、一度照射したら、1分間は電源を切るようにするぞ。」
「じゃあ、次は僕ですね!」
戦車から、クロッサスと同じくらい高い、男の声が聞こえた。どうやら、スペードの声らしい。彼の声を聞くのは、これが初めてだった。そして、轟音とともに、直径20cmくらいはある砲弾が発射された。
アレンがチェーンソーを起動したのが聞こえた。
「ここは俺が出る!」
アレンのチェーンソーは、刃が2重になっている。だから、その間に銃弾を挟み込んで、チェーンソーの回転を利用して発射できるのだ。
アレンの弾の1つが、砲弾を撃ちぬいた。砲弾は砕け散り、中から酸のような液体が飛び出てきた。俺はとっさによけたが、左腕にかかってしまった。
「っ...!動かないぞ...!」
「これは麻痺毒です。少し弱めてありますが、これでも1分くらいは動けないはずです。直撃しなくて...良かったですね。」
戦車の中からの殺気がすごい。
フランカールが飛び出した。
「だったら、もう発射できなくすればいい!」
フランカールが、ギターのヘッドを戦車の砲身に向けた。これは仕込み銃(...といっても水鉄砲のようなものなんだが)になっている。そして、飛び出したマヨネーズのような液体が、戦車の砲身の穴をふさいだ。戦車は戦闘不能になった。
「これで良し!」
そう言ってガッツポーズをしたフランカールが、突然倒れた。50m以上離れた岩陰からゼータが覗き込んでいた。
「貴殿ら、俺の存在を忘れているわけじゃあるまいな?『スタンガンモード』にしてあるが、実践ならばこやつは死んでおるぞ。」
横を見ると、アレンは、クロッサスと格闘を続けているようだった。クロッサスはハンデとしてビームを使っていないが、もう時間切れが差し迫っているだろう。それに、アレンはチェーンソーでクロッサスの針のような足を狙っているが、かすり傷しかつけていない。逆に、クロッサスは4本の足を巧みに操って避け続けていて、うち1本を浮かせて使い、それでアレンを刺そうとしているくらいだ。
ゼータが照準を俺に向けた。殺される...!そう思った時、後ろからナイフが飛んできた。ゼータの発射した黄色い光線がナイフで反射して、クロッサスに当たった。機械兵器は帯電し、バランスを崩して倒れこんだ。
「もう、何のために私がいると思っているの?」
ナイフを投げたのはナシュだった。回復担当ではあったが、『自衛のために』とナイフ術を習っていた。
「助かった。」
「当然のことよ。さぁ、突っ立っていないで早く動きなさい。」
俺は反射的に飛び出した。そしてゼータの裏に回り込み、膝蹴りをかました。ゼータは倒れこんだ。
「降参だ。侮っていたが、技量は確かにあるのだな。」
ーーそうして、俺らは同盟を取り付けることに成功した。革命が、一歩前進した。