第1章:自由の翼と新しい風
俺は、妻のナシュに買い物を任され、街唯一の市場にいた。半年前までは活気に満ち溢れていたのに、今では人も少なく、閑散としている。
裏路地を見ると、孤児が多くうずくまっている。誰もこの道を通ろうとさえしない。そんな俺も、元は孤児だった。足と頭の回転が速いことだけが売りな俺は、この市場で食い物から何から盗んでは、逃げ回っていた。
そんな俺を養ってくれたのは、「姉貴」ことモモスケであった。俺が成人の儀を迎えてからも、幼馴染であったナシュと結婚した後も...今だって、ずっと姉のように慕っている。
遠くに姉貴が見えた。なんやら5人くらいの黒服の男たちと戦っているようだった。姉貴は薙刀の扱いでは、この街ではだれにも負けない。しかし、いくら強いとはいえ、多勢に無勢だろう...。
様子を伺っていると、急に姉貴が倒れた。俺は全速力で駆け寄った。男たちは既に消え去っていた。
「姉貴...!」
俺は声が枯れそうなほど叫んだ。叫び続けた。が、モモスケの表情は、一向に変わらなかった。
「アッセ!」
ナシュの声が聞こえた。日は、いつのまにか沈もうとしていた。
「もう!遅いと思った...ら...?」
言葉はそこで途切れた。モモスケの亡骸を見つけたようだ。
「黒服の男にやられた。俺が駆け付けた時には...もう...。」
次の日、俺らはモモスケの家に行った。俺にとって、ここは実家のような場所だが、ナシュと結婚してからは、一度も来てなかった。
入ってすぐの床に、紙切れが落ちていた。何か字が書いてある。俺はかがんだ。姉貴らしい、乱雑な字だった。
「『白い覆面、黄緑色の矢印、60、これには気をつけろ』...。自分が死ぬと分かっていたのか...!」
「そう...だと思う。これが...私たちのために残した、遺言なんだ...。」
立ち上がって見渡すと、壁に『革命』の文字が刻み込まれていた。
「革命...!姉貴は革命を志していたのか...。そうだ、俺は革命をしていきたい。姉貴の仇を討って、姉貴のやり残したことを、遂げてみせる...!!」
その夜、俺らは、友人のアレンの家にいた。俺らは、一切の事情を打ち明けた。
「あのモモスケが...。あれほど強いのに、やられてしまったのか...。」
「あァ。多勢に無勢すぎた...。」
「そうか...。革命には俺も参加する。リンチをするような奴らは、消え失せるべきだ。ただ...ナシュは大丈夫なのか?」
「私は大丈夫。アッセがどの道を選んで進んでいったとしても、付き従っていくつもりだから。例えそれが、茨の道でも...!」
突然、玄関のドアが破裂した。
「フランカール!」
「お前...ドアは突き破るものじゃないって、何度言ったらわかるんだ?」
「ごめんって...。で、革命とやらは何のことなんだ?」
フランカールにも事情を説明した。
「分かった、革命軍には俺も参加するぞ。まずは何をすればいいんだ?」
「取り敢えずドアを直せ。」
「手厳しいなぁ...。」
ーー「革命」の火が、灯された。