第一章 第91話 大公国首都決戦⑤
地下水路から帰還して、【大型揚陸艦】の作戦会議室に全軍の将官に集まって貰い、俺が潜入した事で得られた詳細な探査結果を大型パネルに示しつつ、全員で徹底的に案を出し合って、最終的には俺の腹案が通る形でそれを叩き台に新たな作戦案が練られて実行される事になった。
「それでは、皆、全軍準備に取り掛かってくれ!
後は、外からの干渉があった場合の対処が問題なので、素早く済ませるぞ!」
「そうだな、此れで【魔人】や【魔物】がやって来たら、流石に対処しようが無い」
「実際の処、こんなに他国との連携を感じさせない状態だと、背後に居る王国しか干渉しなさそうだし、徹底的にやってやろうぜ!」
「でも、出来る限り、もし無事な人々がまだ居るのなら、救い出したいわね」
「その通りだな、何とか奴等が捕らえている地方領主や、知識人を回収してみよう」
「当然、俺達も努力して救いだそう!」
「・・・そうですね、実際に捕らえられて居た間、どの様な扱いを受けていたのか?
知識人を徴集した意図も知りたいと思います・・・」
そう論じ合い、ほぼ方向性は整った。
此の後、一時間を掛けて全軍の補給と食事休憩を行い、それぞれの作戦通りの配置場所で準備が終了する。
「準備が整いました! 【アンジェリカ】公女殿下! 号令を!」
参謀のミケルからの要請に、アンジーは乗り込んでいる守護機士【アテナス】内から号令を下した!
「地下水路に存在する、巨大な植物群を地下から引き剥がす! ヴァン! 効果範囲限定の【重力反転攻撃】を開始せよ!」
「了解! 皆、配置場所から動くなよ!」
「「「了解!!」」」
幹部全員の了承の返事を聞いたので、軌道上の母艦【天鳥船】から、膨大なエネルギーを亜空間経由で受け取った【大型揚陸艦】は、例の地下水路の奥に存在する巨大な植物群の直上に、効果範囲限定の【重力反転攻撃】を仕掛ける為に、【重力子】を用いた【グラビトンリング】を形成した。
【グラビトンリング】・・・・・・【重力子】を利用してリング内とリング外に反転させた重力場を形成し、最大値300Gの圧倒的な重力場を作り出す事が可能。
形成された【グラビトンリング】は、凡そ直径一キロメートルの円形に効果範囲を限定し、先ずは30Gで効果範囲に有る地表の土砂を引き剥がし始めた。
地表の表面に敷設されていた石畳毎ごっそりと、地面が丸ごと上空に持ち上がり、地下水路の天井部分も空に舞い上がった。
すると、露わになった地下には広大な空間が存在していたのが、上空からの映像で良く判ったが、ついでにとんでもないモノも顕わになった!
それは、巨大な切り株というのが、一番適した表現だと思われる。
然も其奴は、その根っこを無数に枝分かれさせていて、その根っこには数多くの木製の棺が埋め込まれる様に絡まっている。
そして30Gと云う、此の惑星に於いては途轍も無い状態であるにも関わらず、信じ難い事に切り株は地面にしがみついている。
なのであまりやりたくは無かったが、【グラビトンリング】の出力を上げて50Gと云う、もし効果範囲を地下500メートルに指定していなくて無制限にしていたら、地殻にまで影響が及びそうなレベルの高重力を切り株に浴びせる!
流石に50Gの重力には抗えないのか、切り株は徐々に上空に吊り上げられて行き、無数に枝分かれしている根っこも引きづられる様に上空に吊り上げられた。
そして全ての切り株に付随する物が吊り上がると、【グラビトンリング】は切り株の周囲を覆うように、球形の形で上空に固定した。
(良し、此れで元凶と思われる存在は、全て首都から切り離す事に成功した。
後は、明らかに何かが入っていると思われる、木製の棺を切り株の根っこから回収しないとな)
そう思っていると、切り株の切れ目部分から、奇妙なモノが出てくるのが見えた。
それは雨傘であった・・・。
黒く塗りつぶされた色の雨傘は、ゆっくりと切り株の切れ目部分から生えだして、その後からは何故か角灯が明かりが点いたまま出てくる。
良く見ると、その二つは共に手に握られていて、その手を持つ存在もゆっくりと姿を現した。
その存在は、とても50Gの高重力の中にいないかの様に、落ち着いた物腰で切り株の切れ目部分から出てくると、黒い雨傘を開いて頭上に翳して歩き出し、角灯の明かりで周囲を照らし出して、俺の乗る【PS】とアンジーの乗り込んでいる守護機士【アテナス】を見つけて、ニンマリと笑い掛けて来た。
其奴は、特に異常な風体はしていなかったが、そもそもこんな状況で落ち着いた物腰で居る事事態が、異常極まりないと言える。
そして其奴は、物腰柔らかく一礼をして俺とアンジーに話しかけて来た。
「お初にお目に掛かる。
これなるは、ソロモン72柱が1柱にして、46階梯【ビフロンス】伯爵と申すもの。
お見知り置き頂きたい」
そう言って其奴は、俺とアンジーに向かってニッコリと笑い掛ける。