第一章 第89話 大公国首都決戦③
改めて、当初策定していた作戦案を練り直し、かなり慎重に作戦案を見直した結果、一つずつの作戦に全戦力で挑む事を上層部全員の意見の一致を確認した。
一応【水棲魔物】の大群を倒す事で海戦を制した我々は、オリンピア湾を占拠する事に成功し海路を絶つ事も出来たので、後は陸路である首都を横断する街道を【白虎軍団】を配置する事で、物理的に遮断すれば、大公国首都に巣食っている王国の手先を逃さずに済む。
【白虎軍団】はラング団長の乗る移動基地である【ホメロス】が、大公国首都の北方にある北門に正対し、南方にある南門に対してはカイル副団長が配置する事になり、空軍が他の小さい門の監視を行う事になった。
正直な処、圧倒的に人数が足りないのは判っているが、其処は母艦の【天鳥船】を軌道衛星上から全力でサポートさせる事で何とか対応する。
海軍の【青龍軍団】でも艦船に携わる水兵にオリンピア湾の占拠と船の処理を任せ、オリンピア湾から首都に直接伸びる大街道を【青龍軍団】の海兵と共に、俺の指揮する親衛隊達は【大型揚陸艦】から全員降りて、戦闘車両と【PS】に乗り込み隊列を組んで進撃して行く・・・。
そんな明らかに日常風景からかけ離れた状況にも、大街道に隣接する商店や集合住宅からは、見物する住民や身を潜める子供や老人の気配が一切無い。
元々一年程前から、俺は【探査ブイ】と【ランドジグ】による探査とセンサーによる大公国首都の動向を、ずっと俯瞰する形でチェックしていたのだが、此処一ヶ月前くらいから明らかに人の動きとは異なる動向を住民達から感じなくなり、遂には一週間前から一切家屋からの出入りが観察出来なくなっていたのだ。
俺としては、例の木を利用した住民誘導か、何らかの催眠魔法等での家屋内への閉じ込め等を疑っていたのだが、どうやら完全に探査とセンサーの裏をかいた魔法等での住民移動を、夜間中に行われていた様である・・・。
想定していた、無辜の民を誘導して首都から退避させる人員を割く必要が無いので、戦力を減らさずに済むとは云え、此処まで徹底的に人の気配の無い空間は、それが本来賑わっている事が当たり前の風景だけに、あまりにも異様に感じてしまい、より一掃にゴーストタウンの印象を我々全員に強く植え付けた・・・。
そして程無く首都への最終関門と言って良い、入場門に差し掛かって見ると、当然の様に閉ざされた入場門がそびえ立っているのは判っていたが、探査とセンサーでは拾えなかったおどろおどろしい雰囲気が、その鉄製の入場門から感じられてしまい、進軍して来た全軍の軍人にゴクリと生唾を飲ませて来る。
だが、ずっと眺めている訳には行かないので、予め準備していたマイクでアンジーに成り代わり、俺が首都に対して呼びかけを行う事にした。
「【オリンピア大公国】の首都に住む全ての者に告げる!
此れより我が新生ベネチアン軍は、首都に対して攻撃を開始する!
此れまで、我等は一年前から囚われている地方領主の解放と、徴集した様々な知識人や住民達を解放せよ!
と首都を不法に占拠している者達にずっと呼びかけて来た!
だが首都を不法に占拠している者達は、一向にその呼びかけに応じず無視した挙げ句、我等の住む都市に攻めて来た!
此の無法な行いを我等は断じて許す訳には行かないので、当然対抗して来たのだがその行為は一向に収まら無かった!
よって我等は此の非道な行いを是正する為に、義軍を立ち上げて此の首都までやって来た。
【オリンピア大公国】の首都に住む全ての者よ、戦場となる首都に居続けるのは非常に困難であり、我等も一々住民を助ける行動は取れない事を今此処で宣言する!
それでは此れより攻撃を開始する!」
そう俺は呼びかけを行ったが、一切入城門から返答が無いどころか、全く人の居る気配が伝わって来ない。
ある程度はそうであろうと想定していたが、此処まで徹底して人が居ない様だと、首都全域に渡って人が居ないかも知れないと、最悪の予想が浮かんで来る。
しかし、入城門が固く閉ざされている事実はどうしようもないので、【大型揚陸艦】からのブラスター砲で簡単に鉄製の入場門を破壊する。
アッサリと泡立ちながら蒸発した鉄製の入場門を見ながら、其処から望めて来る首都の街路を見やる。
やはり人が一切見えないのは判っていたが、此処まで何の存在も感じられないのは、異常としか言いようが無い。
とても、此の状況では人間を調査の為に入城させる訳にも行かず、俺は空軍に命じて小型ドローンでの徹底的な探査を【大型揚陸艦】の中でするようにして、他の軍には一旦首都から距離を取る事をアンジーに提案して了承を貰う。
そんな行動をしている最中、非常に微細な揺れを地面から感じて、我々は警戒しながら次の状況変化に備える。
揺れは少しづつ強まって行ったが、いきなり強震になる事も無く、ひたすら長く続くのでいよいよ不気味に我々は感じていた。
すると、突然小型ドローンでの徹底的な探査を行っていた、空軍の軍人一人が報告して来た!
「報告! 首都の地下水路から突然、人と思われる者達が湧き出しました!
凄い人数です!
然も何やら木製の武器を携えている模様!
対処願います!」
その報告を受けて、我軍は想定の一つの状況になった事を確信し、予定通りの行動に移る事になった。