第一章 第87話 大公国首都決戦①
いよいよ首都奪還作戦の第一段階がスタートした!
旧【オリュンピアス公国】とベネチアンの間を往復移送している【大型揚陸艦】が、役目を終えて空軍に合流して来た事で体制を入れ替える。
先ずは【大型揚陸艦】に新生ベネチアン軍の総司令部を移し、移動基地である【ホメロス】は【白虎軍団】の総帥であるラング団長に引き渡して、前線司令部として陸戦軍の全てを統括してもらう体制となった。
【大型揚陸艦】には参謀のミケルが我々と同乗する事で、ミケルは空から的確に戦況図を随時眺められるし、その都度状況をラング団長に通信機で教える事で迅速な行動を取らせる事が出来るだろう。
更に別働隊として動く事になるカイル副団長には、援護の小型ドローンが常に情報を中継する事で、援護射撃と迂回攻撃の要請をリアルタイムで出来る様にした。
また、新生ベネチアン海軍は新任の【マゼラン】将軍の手により、【青龍軍団】として生まれ変わろうとしていたが、抜本的な組織改編が行われている最中なので、完全な形での海軍とは言えないながらも、現在の処、運用出来る動力付きの鋼板艦を主軸とした新たな海戦戦力を動員し、今回の首都奪還作戦に於ける海戦を担って貰う。
そして新しい軍隊である空軍は、任せられる将帥も此れから育てなければならないし、然も此の世界ではそもそも空で戦うと云う概念が人間同士の戦争では存在しないのだ。
だが、あの【魔人ブレスト】が翼を生やして飛んで行った以上、いずれは魔人或いは魔物による空からの攻撃にも対処せざるを得ないので、空軍戦力は今のうちに整えて置く必要がある・・・。
その為にも、俺自身の肝いりで空軍を主導しながら作り上げて行くしか無いだろう。
なので暫定的ながら、此の【大型揚陸艦】を旗艦として小型ドローン達を、各戦線に投入しながら各地の情報を収集するスタッフを、取り敢えず兵士志望者の内新しい兵科でも良いと言ってくれた30人配属した。
当初は、モニターを見ながらドローンに指示を出す仕事に、慣れない事で非常に戸惑っていたが、的確な指示を地上の味方に伝達したり、援護射撃を空中から小型ドローンで出来る事に、今では他の部署から感謝される事が多くなり、かなり自信を持ってくれた様だ。
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やや大公国でも北方に位置する都市であるベネチアンは、四季が完全に区別出来る程メリハリの効いた季候なのだが、南部に位置する大公国の首都は非常に温暖な気候である。
なので、日に一度はスコールが降る様な天気が、一年中続く気候である。
大公国の首都は国名と同じ【オリンピア】と言い人口は30万人程で、大公国では最大の都市であり、ベネチアンと此の首都しか大公国には海軍は存在せず、此れから我々が挑む首都奪還作戦が恐らく初めて大公国内の海軍同士がぶつかり合う戦闘となるだろう。
ただ不思議な事に、本来海戦というものは寄港している港から出航して、それぞれの艦船が戦い易い海原で艦隊を組んで、長距離の攻撃魔法を大口径の魔導具で攻撃し合うのが、此の世界に於ける常識的な海戦なのだが、此の二週間程の間は少しも艦船が出航しないどころか、船乗りの姿も船の甲板上に出てこなくなっていた・・・。
不気味な事この上ない話しだが、先ずは艦船の長距離の攻撃魔法投射を封じなければ、いざ都市を占拠する際に邪魔される公算が高すぎる。
なので、首都奪還作戦はオリンピア湾での海戦から始まった!
既に三週間前に宣戦布告しているので、オリンピア湾の出入り口に当たる場所に対し、新生ベネチアン海軍の【青龍軍団】は一文字に連なって侵入しながら、沿岸に備え付けられた魔導具の巨大大砲に向けて、長距離の攻撃魔法投射を開始した!
15隻の中型艦船からの一斉射を受けて、湾の入り口の二箇所に備え付けられた魔導具の巨大大砲は、反撃する訳でもなく簡単に爆発炎上してしまい、そのまま崩壊して行った・・・。
そんな岸からでもよく分かる程の大きく燃え上がる魔導具の巨大大砲が被った被害にも、オリンピア湾内で寄港している艦船を観察していてもまるで反応も無くて、全くの無人であるかの様だ。
しかし、【探査ブイ】のセンサーからは人とほぼ同じ反応が、船内からは得られているので恐らくは居る筈なのだが、何故か当たり前の人の反応である甲板上に現れるという事をして来ないので、より一層の不気味さが増して来る。
だが、当然そんな不気味さだけで戦闘行為を止める訳が無く、【青龍軍団】15隻は猛然と寄港したままの80隻に及ぶ首都の海軍艦船に魔法攻撃を加え始めた!
次々と投射される【クラス3】以上の【火魔法】の攻撃は、木造では有るが防御魔法を施して有る筈の首都の海軍艦船が、想定していたよりも簡単に燃え始めた。
轟轟と燃え盛る首都の海軍艦船を見ながら、不審がって魔法攻撃を止めさせた【マゼラン】将軍が、突然海中を見て叫んだ!
「全員警戒体制! 海中から何かが猛然と我が艦隊に突き進んで来るぞ!」
俺とアンジーの乗る【大型揚陸艦】も、【マゼラン】将軍が叫んだ瞬間に海中を突き進む存在を、センサーを全開で集中させる事で漸く把握できた。
非常に判りづらいが、何か人間大の大きさの物体が凡そ1千体、燃え盛っている首都の海軍艦船の方から、【青龍軍団】15隻に向かって押し寄せて来るのだ!
直ちに【マゼラン】将軍の指示の元、新兵器の【水雷】が投射されてやって来る正体不明の存在の進路を塞ぐ。
しかし、やって来る正体不明の存在は【水雷】の壁を、より深く潜る事で掻い潜り、一気に【青龍軍団】15隻の真下まで進んでから、急上昇してそのままの勢いで海中から飛び出した!
そのまま艦船の壁面をペタペタとよじ登り、甲板上に現れた奴等は奇妙な海藻で表面を覆った服を脱ぎ捨てて、漸く我らに正体を晒してくれた。
「「「【水棲魔物】!」」」
そう、その正体不明だった奴等は、本来はもっと北の海の海底で生息している筈の、恐るべき海の捕食者【水棲魔物】であった。