第一章 第83話 幕間 一般兵士【ゲイリー】の物語⑤
◇◇◇【ゲイリー】の物語⑤◇◇◇
俺は志望通りに、【オリュンピアス公国】公国民救援作戦での、投入される【PS】隊20機の内に選ばれて、ヴァン親衛隊隊長の随伴機として登録された。
元同僚達を中核にして新入隊員で構成された仲間内では、俺を含め3人が選ばれていて残りの2人は、例の兄貴が殺された幼馴染である【ハットン】、そして元門番にして情報通の【ブッホ】がそうである。
【ハットン】と【ブッホ】も、元のベネチアン侯爵の統治するベネチアン領では、色々と諦めていて何の努力もしていなかったが、【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下が統治する新しいベネチアンは、その様々な先進性と圧倒的な行動力は、凄まじいまでの力強さで経済や物流そして人流が、洪水の様な勢いで流れていくので、俺達も此の流れに乗って新しいベネチアンの安全を護る軍隊の中でも、最精鋭だと考えた親衛隊に入って毎日の厳しい訓練をこなすことで、今迄の無為な時間を払拭させる事が出来た。
そんな俺達は今回の作戦では、【PS】隊20機の内に選ばれたヴァン親衛隊隊長の随伴機なので、【オリュンピアス公国】に着いたら常にヴァン親衛隊隊長の特別機体の後を追いながら、敵に対してヴァン親衛隊隊長の特別機体の援護と応援攻撃をして行く必要がある。
なので、【大型揚陸艦】に乗り込んでからヴァン親衛隊隊長と面を突き合わせながら、フォーメーションの確認とその都度の状況の場合への対応策を打ち合わせた。
俺達にとっては、ヴァン親衛隊隊長とは半ば生きた伝説の様な存在であり、此の生きた伝説と身近に接しているだけでも光栄なのに、今ではその人の直属の部下である!
(どの様な事があろうと、絶対に此の御方の後を見失わないぞ!)
という強い意志で、その夜の【大型揚陸艦】での作戦前の休憩時に俺達3人は誓い合ったのだった・・・。
◆◆◆◆◆◆
翌日の早朝になり、まだ早朝特有の朝靄が晴れきらない内に、予定通りの高台に着底した【大型揚陸艦】は、後方の格納庫搬出用の大型タラップを開け放ち、地上に固定させた。
「発進!」
ヴァン親衛隊隊長の号令一下、俺達はヴァン親衛隊隊長の特別機体を先頭にして、20機の【PS】を中核に戦闘車両と戦闘バイクが地上に躍り出て、そのまま凄まじい速度で王国の占領軍が駐屯する屯所目指し進撃して行く。
その俺達の後から格納庫搬出用の大型タラップを降りた【白虎軍団】は、大型揚陸艦を守備する100名を残して、【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下の乗る守護機士【アテナス】を積んだ専用キャリアーを中央にして、公国の首都に向かい進撃を開始した。
まだ、公国の首都の人々が起き出さない中、俺達親衛隊は王国の占領軍が駐屯する屯所に5分程で到達すると、予め滞空させている小型ドローンのデータから、全く公国民が屯所に存在していない事を確認しているので、屯所の正門に向けて攻撃を開始した!
ドゴーーーン!
城門に比べれば、所詮ただの頑丈な扉でしかない屯所の正門は、【PS】のバズーカ砲の一斉射で木っ端微塵に打ち砕かれてしまい、俺達は全く抵抗も受けずに屯所内に吶喊して行く。
突然鳴り響いた、バズーカ砲から撃ち出された爆裂魔法の爆発音に、恐怖で嘶き始めた軍馬による恐慌で、漸くしておっとり刀で起き出して来た占領軍の軍人達は、雪崩込んできた俺達の【PS】が手に持たせている【魔銃】から撃ち出される【麻痺魔法弾】により、次々と麻痺したまま倒れて行き、まともな反撃も出来ないまま一方的な戦闘は推移して行く。
戦力としてみれば、本来5千人居る筈の王国の占領軍が優位そうだが、彼等は殆ど戦闘力の無い公国民を脅しあげて元公国軍人を探したり、無理やりに徴集する税の後押しをする存在でしか無く、あまり戦場で役立つ兵士はそもそも割り当てられておらず、謂わば使えない兵士しか此の場には居なかった。
アッサリと屯所に居た王国の占領軍5千人を無力化し、俺達は100名程の親衛隊を監視の為に残して、公国首都に向かい【白虎軍団】を援護する事になった。
20機のPSパワードスーツを中核に戦闘車両と戦闘バイクは、屯所から首都までの5キロメートル程の距離をアッサリと踏破して、【白虎軍団】が攻撃している城門の正門と反対側にある裏の城門に到達した俺達は、ヴァン親衛隊隊長が操縦する特別機体が腕部に装備している【パイルバンカー(射突型金属棒打ち機)】を使用して、金属製の城門の四隅を貫きざま特別機体で体当たりし、城門に大穴を開けて首都に突入を果たす。
当然、俺達親衛隊はヴァン親衛隊隊長の開けた大穴を潜り抜けて、当初の作戦通りに首都の要所要所に向かい、首都を占拠して行った。
俺と【ハットン】そして【ブッホ】は、そのままヴァン親衛隊隊長の特別機体に随伴し、【オリュンピアス公国】の中心である【テルミス城】に向かう。
此の時点でほぼ首都の全域は占拠に成功しており、作戦はほぼ終了していたので後は【テルミス城】の城内を確認するのみとなっていた。
だが突然、【PS】のセンサーに警告の反応が有り、その反応を調べると【テルミス城】の上階に設置された、大きく張り出したテラスに男が一人出て来た。
只一人の男が出て来た位でセンサーが警告して来る訳も無く、俺は詳細なデータをパネルに映し出して何処に警戒理由が有るのか見てみた。
すると、センサーが拾い出した数値で魔力量が、人間の持つ魔力量とかけ離れている事が判った。
(・・・何者なんだ? 明らかにこんなサイズでは有り得ない魔力量を保持する存在など、普通の人間では無いし、然も何故か見ているだけで身体の奥底から震えが沸き起こる・・・!)
得体の知れない男は、物珍しそうな顔をして、【PS】と守護機士【アテナス】をジロジロと眺めてから、ヴァン親衛隊隊長と遣り取りして、いきなりヴァン親衛隊隊長の特別機体に高く跳躍して蹴りを放って来た!
ドガッ!
とても生身の人間が放ったとは思えない蹴りは、ヴァン親衛隊隊長の特別機体を大きく揺るがし、俺達を戦慄させた!
(ッ、有り得ない! 【PS】はそもそも人がどうこう出来る代物では無いし、然もヴァン親衛隊隊長の特別機体は俺達の【PS】とは別格なのに、それを相手にただの蹴りで大きく揺るがすなんてっ!)
余りにも信じ難い事をした男を見て、俺達はより一層の戦慄を感じて動けなくなってしまった・・・。