第一章 第82話 幕間 一般兵士【ゲイリー】の物語④
◇◇◇【ゲイリー】の物語④◇◇◇
「な、何なんだ? あのデカブツは?!」
空を覆うような巨大な何かが、俺達が訓練している屯所の真上に降りて来たので、訓練中だった俺達は全員驚愕しながら警戒態勢をとり、上官にヘルメットに装着している通信機で報告した。
それに対して上官は、訓示して来た。
「慌てるな! 今現在降下してきている船は、我が軍の所属の【大型揚陸艦】である。
親衛隊員は、驚き慌てずに兵士の中でも精鋭で有ることを肝に銘じ、毅然として訓練を続行せよ!」
「「「ハッ」」」
上官の訓示に短い了承の意を伝え、俺達は訓練を再開したが、俺達親衛隊だけで無く他の部隊、そして離れているベネチアンの街でも騒ぎになっているらしく、しきりと出入りしている商人達が、ベネチアンへの入場門等から頻繁に出てきて、野次馬なのか此方に向かって来るのが見える。
そんな連中の中に、俺達の新しい主君である【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下と親衛隊隊長【ヴァン・ヴォルフィード】殿が居て、どうやら野次馬だと思っていた商人達は、どうやら主君が連れて来た補給品を扱う搬入業者だった様だ。
「親衛隊員達は直ちに訓練を中止し、搬入業者による補給品の搬入を警備せよ!」
「「「了解しました!」」」
上官の命令変更通達えを受けて、俺達は訓練中の【PS】から直ちに降りて、搬入業者が使う重機の案内を始めた。
屯所の脇に有る広大な空き地に降下した【大型揚陸艦】は、後部に有る巨大なタラップを開け放って地面に接地させると、中から出て来た人形達が地面との固定を行っていく・・・。
3ヶ月前だったら、俺も驚いてひたすら硬直していただけだっただろうが、様々な重機や降下艇そして己の扱う【PS】に慣れてしまって、まるで此れが当たり前の感覚になっているのを、改めて感じてしまっている自分に思わず苦笑してしまった。
(・・・変われば変わるものだな・・・、一年前の自分は人生を半ば諦めて、此の国の未来をひたすら絶望していたのに、今の自分は輝ける此の国の未来と、自分の人生の明るさに希望を見出しているのだから・・・)
そう感慨を抱きつつ警備をしていると、己の主君たる【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下と親衛隊隊長【ヴァン・ヴォルフィード】殿が、俺達の前にやって来た!
次の瞬間には訓練どおりに直立不動で敬礼をした自分達に、【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下が軽く敬礼し返してくれて、上官が「整列休め!」と号令したので俺達親衛隊員は後ろ手に手を組んで足を開き整列した。
「見事な整列ね、ヴァン! 嘗ての私の旗下であったオリュンピアス公国軍の精鋭でも、此処まで行き届いた一致行動整列は出来て無かったと思うわ。
ヴァン直属の親衛隊員の素晴らしい一致行動整列は、見事だわ!」
「有り難うアンジー、だけど、一致行動程度で感銘を受けて貰ってもな。
親衛隊員、諸君!
君達の真価は、当然その規律と矜持そして戦闘力にある!
今後の働きで、主君である【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下に見せて差し上げろ!
良いな!」
「「「ハッ、了解であります!!」」」
「それでは、持ち場に戻れ!」
「「「ハッ」」」
そう答えて、俺達は持ち場に戻り搬入作業の警備に戻ったが、当然上官と主君方は【大型揚陸艦】の後部タラップから内部に入って行く。
内心、是非俺達も【大型揚陸艦】の内部にお供したいと思ったが、いずれ覗けるだろうと思い直し、搬入業者による補給品の搬入を警備する。
警備も終わり、日常訓練である【PS】の操縦訓練も終えて、締めの定例講評を上官から受けていると、上官が明日からの作戦行動が伝えられた。
俺達親衛隊員は、現在訓練中の者も含めると700名に達するが、徴募は常に続けられているので練度はマチマチだ。
そんな新規入隊の俺達の内でも、【PS】の操縦訓練をある程度終えている者は、100名程しか居ないので、ある意味俺と元同僚達は結構恵まれた形で入隊したので、親衛隊員でも少数のエリートと言えるかも知れない・・・。
その俺達に対し、今度の作戦での正式な出動が命じられたのだ!
今度の作戦とは、主君たる【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下の故国にして、現在例の【フランソワ王国】により不法占拠されている【オリュンピアス公国】を取り戻す作戦である。
どうやら、1年間に渡る占領期間を終えて、いよいよ【フランソワ王国】は【オリュンピアス公国】の完全接収と公国民の奴隷化を考えていて、その為の軍隊を派遣して来たらしい。
その軍隊を駆逐して、公国民を此処ベネチアンに一時疎開させるのが、今回の作戦の骨子だそうだ。
(成る程・・・、だからこんなに巨大な船が必要なのか・・・)
と【大型揚陸艦】の意義が理解出来たが、それよりも気になる事がある!
「質問であります!」
作戦の骨子を話し終えた上官に対し、俺は挙手をして質問した。
その俺を特に咎めずに、上官は頷きながら目で内容を話せと促して来た。
「その作戦には親衛隊員は何人参加し、そして【PS】は投入されるのでしょうか?」
「ふむ、親衛隊員の参加者は今のところ50人で、【PS】は20機を投入予定だ」
「その選出方法は?」
「今のところ、志望者から選出する予定である」
「自分は、【PS】操縦者としての参加を志望します!」
「ふ~む、良かろう! 貴様の【PS】操縦者としての能力は、新入隊員でもトップなのでヴァン親衛隊隊長には俺から具申して置く!」
「ハッ、ありがとうございます!」
と俺はいち早く志望したので印象良かった様だが、後から志望した同僚達は騒然としてしまったからどうなるかな?