表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/620

第一章 第80話 幕間 一般兵士【ゲイリー】の物語②

 ◇◇◇【ゲイリー】の物語②◇◇◇


 そんなやる気のない陸戦の兵隊として、日々を送っていた俺の人生はある日を以って激変した!


 噂は凡そ一年前から有ったのだが、此処から相当離れている国境の街【ドラド】に於いて、【フランソワ王国】による国境侵犯が有って、それを圧倒的な実力でもって打ち払った傭兵団が存在する、と云うのが先ず伝わって来た噂であった・・・。


 その噂話を持ち込んだのは同じ部隊の同僚なのだが、彼も又、俺と同じくやる気のない兵士であり、日頃から街中での情報や商人との情報交換を、仕事そっちのけで集めている。

 その噂話とは、

 何でも、100人程しか居ない弱小傭兵団なのに、数千人の王国軍を翻弄し続けた挙げ句に、一人の犠牲も出さないで数多の捕虜を捕らえた上に、追い払ってしまったらしい。


 更に次の噂では、その戦闘から程なくして大公国軍の援軍が、何故か味方の国境の街【ドラド】に攻め込んで、それをその傭兵団と国境の街【ドラド】の守備兵が、アッサリと跳ね返した上にその大公国軍と連携して来た王国軍も討ち滅ぼしたそうだ。


 そのまるで現実味のない空想と様な噂話を同僚は、同じ部隊の者達との食事時や休憩中に面白可笑しく話して来るので、次第に同僚の話しはつまらない日常の仕事の合間の楽しみとなって行った・・・。


 だが、そんな状態に緊迫感が一気に増す事態が起こる。


 何と、此処ベネチアンを中継基地とした3万人を越える大公国軍の討伐軍が、国境の街【ドラド】に攻め込む事になり、その兵站基地を設置する為に俺達は働く事になったのだ。


 ベネチアンの街から街道沿いにある広大な空き地に、3万人が3ヶ月は食べていける程の膨大な兵站の内、比較的に日持ちする小麦等の穀物は、雨に濡れないように防水シートで覆われており、日持ちしない野菜や肉類はひっきりなしに荷馬車等で前線に送られて行く・・・。


 (・・・凄え物量だな・・・、こんな大変な物量を一気に消費する戦争を、本来味方の筈の国境の街【ドラド】に攻め込む為にするなんざ、とても正気とは思えねえし、大体、国境の街【ドラド】のどんな罪があるってんだよ!)


 そんな感想を抱きながら、俺は黙々と上官に言われるがまま兵站基地を設置していたが、徐々に不満が募って行った。


 何故なら、その兵站の内容も俺達と一緒に兵站基地設営をしている兵士達と、司令官とその幕僚達とでは雲泥の違いがある上に、その司令官とその幕僚達の為にだけ何故か売春婦の一団が従軍していて、その売春婦達との乱痴気騒ぎの為に兵站の一部は高級な酒類と高級な食材が準備されている。


 当然、ベネチアンに滞在している間でも、兵士達と司令官とその幕僚達とでは宿泊している場所が違い、司令官とその幕僚達はベネチアン城の一室に部屋が割り当てられ、普通の兵士達はテントが有れば良い方で殆どの兵士は野外に寝袋で寝るだけだ。


 いよいよ、ベネチアンから出て国境の街【ドラド】に向かう頃には、俺達と兵士達の間ではある種の共感と連帯感が生まれていた。


 その共感と連帯感とは? 

 今現在、大公国を牛耳っている新宰相とその一派には、そもそも正当性が無く、それに敵対して堂々と己の領主の解放を求めたり、知識人を徴集したままでいる首都の指導部に、その意図を問うている国境の街【ドラド】の側の方が、納得の行く要求をしていると思っている事である。


 そんな3万人を越える大公国軍の討伐軍が、国境の街【ドラド】に向かい行軍して行く後ろ姿を眺めながら、俺と同僚達は未来が無さそうな現在の首都の指導部と、現ベネチアン侯爵の今迄の所業を思い返し、密かに国境の街【ドラド】で孤立無援で戦い続けている傭兵団と仲間の守備兵に憧憬を抱いていた。


 そしてその後僅か二週間後には、3万人を越える大公国軍の討伐軍が、国境の街【ドラド】に完膚無きまで叩きのめされてしまったが、殆ど兵士の損耗は無く、そのまま従軍していた兵士たちは国境の街【ドラド】側の捕虜になり、無事で居る事が例の同僚から知らされた。


 そして程なく、大公国軍の討伐軍を打ち破った国境の街【ドラド】を進発した軍隊が、此処ベネチアンにやって来る事も伝わって来た。


 その情報を聞いて、俺達は密かに同僚達と相談しながら、その軍隊と連絡を取る方法を模索して行った。

 そんな中で、例の情報通の同僚が商人風の男を紹介してくれた。


 「初めまして皆さん。

 私は傭兵団【鋼の剣】に所属している者で、皆さんの様に現ベネチアン侯爵や首都の指導部に不満を抱いている人々に、現体制への協力を止めて、もう少しすると起こる変革の動きに協力を願う者です!」


 と男は自己紹介してくれて、具体的に俺達にしてもらいたい事を告げて来た。


 その内容は、傭兵団【鋼の剣】が城門にやって来たら、城門を直ちに開け放ち入城させてくれと云うもので、幸い俺達の仲間の管轄は城門に付随する事なので問題無いと応じると、男は手付金を渡してきて、事が成功したら必ず自分を訪ねてくれと言ってくれた。


 其処からはトントン拍子だった・・・。


 俺達が城門を開け放ち、傭兵団【鋼の剣】を入城させてからは、ベネチアン侯爵は拘束されて、【奴隷取り引き】の元締めである海軍の司令官も又拘束された。


 たった一日で、ベネチアンの支配体制は覆ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こうした、下準備というか構成を考えてるのが凄いですよ。ほんま、毎日、何考えてるのか、、前の2次作品もそうですが、、、脱帽です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ