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第一章 第79話 幕間 一般兵士【ゲイリー】の物語①

 ◇◇◇【ゲイリー】の物語①◇◇◇


 俺は【ゲイリー】というベネチアン育ちで、今年で丁度20歳になる。


 ベネチアンは【水の都】と呼ばれる程に、そこら中に水路が有る上に海港として大公国でも一二を争う程の賑やかさを誇る都市だ。

 当然俺は、此の豊かな水資源を利用して働いている海の男達に憧れて、海軍に入る事を夢見て水練やロープの結び方そして船の乗り方等を、見様見真似で幼い頃から学んでいた・・・。


 しかし、15歳の時に或る事件が有ってから、海軍は目指さなくなってしまい、人気の無い陸での兵隊に応募して受かってからは、ある意味で失意のままの就職に塞ぎ込んでいた。

 その或る事件とは、憧れていた海軍のトップである司令官が、闇の世界で噂されていた【奴隷取り引き】の元締めで、此処ベネチアンの領主であるベネチアン侯爵と組んで、本来大公国では禁止されている【奴隷取り引き】を闇で行う事で大儲けしていて、然も海賊や海外の人身売買ブローカー等と組む事で、大掛かりなマーケットの一員でも有るらしい事が、俺の友人の兄貴が不当に殺された事で判ったのだ!


 友人の兄貴は、海軍の誇る海兵隊に3年前に入隊していたのだが、2年前に向かった【フランソワ王国】への航海で運命が激変してしまったのだ。


 彼は、頑健な身体つきだったので新入りの海兵隊としては異例な形で、【フランソワ王国】から船に乗った或るうら若い女性貴族のボディガードとして抜擢されたのだ。


 当然彼は、其の事に誇りを持って職務に邁進し、その女性貴族のボディガードとして四六時中、部屋の警備から外出のお供まで一生懸命働いていた・・・。


 そして、【フランソワ王国】からベネチアンに到着してお役御免かと思われたのだが、その女性貴族に気に入られたのかそのまま、大公国の首都までボディガードする事になった。


 彼自身も長い女性貴族へのボディガードをしていた事で、かなり親密になっていて日頃から色々と話し相手にもなっていた。


 だが、次の日には大公国の首都に入ると云うタイミングで、彼は自分が長い事ボディガードをしていた女性貴族が、実は人身売買された存在であり、然も女性貴族を購入したのは新しく就任した宰相であるとの事を、彼の上官から知らされた。

 その新しく就任した宰相の噂は彼自身も聞き及んでいて、とてもうら若い女性貴族が購入された先で無事で居られるとは思えなかった。


 彼自身かなり懊悩した挙げ句、上官の隙を見つけてその女性貴族に真実を告げて、どうしたいかと聞く事にしたのだった。


 やはり、その女性貴族は自分が購入されたとは夢にも思って居らず、唯、友人の父親の勧めで大公国に留学しようと考えていて、自分の家族親族もそう思っていると彼に明かし、そんな風に騙されて売られたくないと彼に泣きついたそうだ。


 当然格好良い海兵隊を目指していた彼は正義感も強く、うら若い女性貴族が不当に人身売買される事を厭い、頑張って入隊した海兵隊の職を擲って女性貴族と共に、皆が寝静まったと判断したその夜にキャラバンから抜け出して逃走を謀った!


 しかし、此のキャラバン隊そのものが【奴隷取り引き】の商隊であり、彼等はこんな事は日常茶飯事なので、アッサリと彼と彼女は捕らえられてしまい、彼女は予定通り新しく就任した宰相に売られてしまい、彼の方は身分を落とされて奴隷となってしまった。


 失意の中で、奴隷階級に落とされた彼は、ひたすらに奴隷としての仕事を熟していたが、半年後になって聞かされたのは、例の女性貴族が無惨に殺されたとの報告であった。


 何故それが判ったかと言うと、新しい奴隷を買いにまたも同じルートである【フランソワ王国】に、人身売買ブローカーを通して騙した女性貴族達を回収しに行くという話しを聞かされて、其の際に以前の女性貴族がどうなったか知らされたのだ。


 その女性貴族は、当然騙されて売られたので、買い取った主人である宰相には懐かず、事あるごとに反抗し続けたそうで、とうとう激怒した宰相は彼女を奴婢として扱い始めて、まともに奴婢としての仕事が出来ない彼女を、毎日鞭打ちしていたらしい。


 終いには、拷問じみたことまでしていたそうで、殺された女性貴族の死体の痕には、無数の鞭打ちの痕跡と様々な拷問の痕跡が残っていたらしい。


 此の話しを聞かされた彼は猛然と怒り、奴隷の立場にも関わらず、海軍の司令官に襲いかかろうとしたので、近くに居た元同僚の海兵隊に取り押さえられてしまい、海軍の司令官の命令で彼女と同じく鞭打ちと拷問を受ける羽目になってしまったのだ。


 此の事実を【ゲイリー】は、彼の弟である友人に聞かされたのだ。


 どうして知り得たかと云うと、鞭打ちと拷問を受けた彼は息も絶え絶えの状態で、実家に送り返されて来て、そのまま息を引き取る事になったのだが、辛うじて此の事実を弟である友人に遺言として話したのだ。


 此の事を聞いてしまって【ゲイリー】にとっては、目指していた海軍が実は悪の巣窟であり、海の男は憧れの対象では無くなってしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 旦那にしては、重い話を持ってきましたな。人身売買、現実に今の世でもある悲しい事です。戦争も、何故同じ人間なのに争いそして虐待するのか、、胸が痛みます。
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