第一章 第75話 大公国内乱㉑
【ソロモン】の存在を疑いながらも、我々は予定通りにベネチアンへの公国民全ての疎開を進めて行った・・・。
殆どの者は王国軍の占領政策の過酷さから、このまま公国に居ては未来が無い事が十分に理解していたので、喜んでベネチアンに向かってくれて、用意していたベネチアンの都市部から離れている広大な荒れ地に入植させて行った。
実際は元荒れ地であったというだけで、新たに母艦とベネチアンの工場で製作した人形1万体により、荒れ地を重機で整地した上で様々な近未来型の高層建築が建てられた上で、膨大な農地や酪農地帯が切り拓かれていて、海に流れ込む河川を整備する事で、150万人と云う膨大な人口増加も受け入れる事が出来た・・・。
そうなると、当然物流と消費経済量が莫大となるので、我々は以前に準備していたカード決済システムを導入する事とした。
当初は、慣れない為に貨幣での遣り取りしか受け付けない商店やギルドが有ったが、商会ギルドの協力で大口の取り引きや様々な物品がカード決済システムでの仮想通貨しか受け付けない事実に、段々と慣れてきて3ヶ月もする頃には子供すらもカード決済システムでの買い物をし始めた。
此のスムーズな貨幣経済からの変更を民衆が受け入れた背景は、先ず自動での税金徴集が消費税のみになり、殆ど負担している実感が湧きづらい上に、魚こそ漁獲量がそれ程増えていない為に手に入り辛いが、農作物や酪農で取れる牛乳やチーズそして食肉は十分な供給量が有る為に、全然飢える心配が無い民衆は為政者に対して不満を溜める事は殆ど有り得ない。
それに今迄存在していなかった公衆浴場を、インフラ整備する傍ら都市の広がりに応じて設置した為、色んな民衆が好みの公衆浴場に毎日浸かりに行くと云う、新しい文化が生まれる温床となって行った・・・。
そう言った取り組みは、当初生まれ育った公国からの疎開を喜んでいなかった年配のご老人達も、公国では味わえなかった平穏な生活と、孫たちと一緒に大衆浴場に入る生活を味わうと、自然とその心情は緩和して行き、健やかに老後を過ごすことになった。
其の様に、入植者と元々居たベネチアンの住民が新しい生活に慣れていく中、我々ベネチアンを統治する上層部は、此の新しく生まれ変わったベネチアンを護るべく軍隊の整備を急ピッチで行って行った。
先ず陸軍は、
元々の傭兵団【鋼の剣】を中核とした陸戦軍は現在5千人の構成だが、新しく徴募した兵員は3万人規模で半年間の新機軸の訓練を施す事で、来年には戦力になるだろうが現在は期待出来ないので、暫くはベネチアンに駐留して訓練に勤しんで貰う。
なので此れより首都に攻めいる陸戦力は、前述の5千人の内4千人である。
次に海軍は、
ベネチアンと同じく海港が存在していて、当然海軍力を所有する大公国の首都に対しては、従来のベネチアンの海軍を接収した上で、組織改編を行って来た新生ベネチアン海軍で攻撃を掛ける予定だ。
そして、初めて組織されたのは空軍である。
空軍は、
厳密には、空軍と言うより降下兵隊と言うべき部隊と、降下艇を改修した【戦闘型飛行船】を運用する部隊で構成された軍団である。
此の新しい軍団はまだまだ訓練中の軍団で、戦闘力は【戦闘型飛行船】の周囲を護る小型ドローンが担う形態である。
但し、まだ【オリュンピアス公国】と此処ベネチアンの間を往復移送している大型揚陸艦が、いずれは空軍に所属するので、そうなれば一気に運搬能力と火力の充実により、最強の軍団に躍り出るだろう。
また軍隊とは別の組織だが、新しい行政組織として警察機構が編成された。
元々有った従来の自衛組織である自警団を、一旦、組織解体をした上で、組織人員を100倍以上に増やした上で、住民への場所案内や誘導そして様々な住民同士のトラブルを解決したりする組織として立ち上げた。
其れ等の措置を終えた上で、陸軍と海軍そして空軍は大公国首都に向けて進撃を開始した。
本来ならば軍事力の充実を図った上で、圧倒的な戦力を誇示しながら、戦わずして大公国の首都で暗躍する王国の手先を追い詰めてから、奴等に城下之盟を誓わせるのが正しいのだろうが、実際の王国を裏で操る存在が普通の人間では無い可能性が見えて来たので、常識的な判断で事態の推移を見ていては、どんな形で盤面を引っ繰り返されるか検討もつかない。
ならば、拙速とも感じられるが、此方側がキャスティングボードを握るべく、ひたすら積極的に行動して行くべきだろう。
その決意を胸に、俺とアンジーは共に立つのだった・・・。