第一章 第74話 大公国内乱⑳
思っていたよりも公国民たちの移送は、スムーズに行われて行ったがその反面で、当初予定していた合流する予定の公国軍の残党達が立て籠もったり、逃げ隠れしていると思われた逃亡先や隠れ場等の行方は杳として見つからなかった・・・。
だが調べて行く内に、或る田舎で人知れず隠れて居た若者を見つける事が出来て、若者の口からある事情を聞く事に成功した。
その若者は、アンジーが率いていた公国軍に民兵として参加していて、公国が王国の命で属国として立場での遠征軍に参加していた際に、王国軍の裏切りで奇襲を受けて仕方無く仲間と共に必死に殿軍で戦っていたのだが、衆寡敵せず王国軍に敗れてしまい大怪我を負ってその場で蹲ってしまったそうだ。
そんな彼の周りには当然ながら、同様に傷を負った仲間が倒れていたそうだが、戦争の傷の所為で全員動けない間に何時の間にか王国軍の荷馬車に載せられていて、偶々未舗装の道路に差し掛かって振動で荷馬車から放り出されて、そのまま道の脇の叢に隠れて難を逃れる事に成功したそうだ。
その彼が公国の田舎にある自宅の納屋に逃げ込む迄の道程と、王国軍に連れ去られそうだった方向から、大凡の王国軍の意図が見えて来た。
【探査ブイ】と【ランドジグ】による詳細なデータは、当然敵である王国の至る地域から得ているが、其の中でも非常に怪しい施設が有るのだ。
其の施設とは巨大な山脈に存在する非常に大きな軍事施設で、遥かな500年以上の過去から王国に存在していて、其処からは王国に於ける他の国では真似できない様々な、軍事武器や魔導具更にはアースが生み出されていた、にも関わらず調べた限りでは、王国民の殆どが其の様な場所に王国の軍事施設が有る事自体知らず、知っているのは王国の上層部と一部の軍人だけらしい。
つまり王国の最重要拠点とは、誰もが知っている王国の王城や首都などでは無くて、此の巨大な山脈に存在する非常に大きな軍事施設に他なら無い!
然も非常に胡散臭い事に、集められているのは怪我を負った公国軍人だけで無く、王国が長く戦い続けている帝国の軍人や民間人、それに今迄併合したり従属させてきた多くの国家の人々も、軍人・民間人問わずに集めている事が、集めて来た情報の擦り合わせで判明して来た。
(・・・という事は、もしかすると実質王国の裏側を牛耳っているのは、此の軍事施設を統括している存在なのかも知れないな・・・)
そう考えて、【探査ブイ】と【ランドジグ】のみでは調べられないと判断し、多くの小型ドローンによる交替制の24時間監視体制を、隠蔽モードで敷いて置いた。
だが、一ヶ月経っても一向に情報が得られず、更には人が住んでいれば有るはずの物流が、その一ヶ月の間に一切無かった・・・。
(・・・現在の此の世界の科学技術や魔法技術では、その様な事は有り得ないな。
とすると、守護機士に見られる様に過去に降臨した俺と同じ【星人】によるオーバーテクノロジーにより、俺の持つ科学技術で使用しているセンサーを上回る、隠蔽モードで隠しているのか、或いはより深いトンネルでの地下物流を可能にしているのか・・・)
そう想像していたがそれよりも俺の知らない、魔法技術によるモノかも知れないとも考えた。
その考えを進めて行くと、不意に思い出されたのは【魔人ブレスト】との出会いとやり取りである。
奴は、確かに自身の上司らしき存在を呟いていたーーーー、確か、【ソロモン】、と・・・。
当然俺は、その名を調べ上げていたのだが、中々に捗捗しい結果は得られなかった・・・。
得られた内容はかなり突拍子も無いモノで、然もまるで雲をつかむような話ばかりだった。
例としては、
曰く、1000年以上を生きる大魔導師・・・。
曰く、元は古代イスラフェルの王であった・・・。
曰く、王になったのは良いが、臣下の者達は全て【悪魔】にしてしまった・・・。
曰く、その【悪魔】を使役する事で建築や戦争を行い、古代イスラフェルを最盛期の豊かさに導いた・・・。
曰く、ありとあらゆる魔導具やアーティファクトを作り出し、それを用いる事で強大な悪霊を召喚した・・・。
曰く、【ソロモンの指輪】という神に匹敵し得るアーティファクトを創造し、神の使徒である【大天使ミカエル】達を使役しようとした・・・。
曰く、その余りにも傲慢な行いに、父なる神が【天の裁き】を古代イスラフェルに降らし、古代イスラフェルは一夜にして滅んだ・・・。
曰く、だが【ソロモンの指輪】を持つ【ソロモン】は、その能力で滅びゆく古代イスラフェルら逃げ出し、異郷の地で父なる神に復讐しようと爪を研いでいる・・・。
等の、伝説或いは伝承と呼ばれる話しである。
だが、実際に俺の持つオーバーテクノロジーに対し、見事に跳ね除ける何らかの技術は、十分過ぎる程の実力を持つ相手で有る事が窺い知れる。
些か此の世界に対し、舐めた心情を抱いていた自分にとっては、奴の強さは冷や水を浴びせられたに等しく、今後は全力で対処する必要性を俺は感じていた・・・。