第一章 第73話 大公国内乱⑲
【魔人ブレスト】との戦闘を終え、気持ちを切り替えて城内の様子を見るべく、アンジー達を伴いテルミス城に入城したが、確かに奴の言う通りに他の人が住んでいた様子が残されて居らず、殆ど空き家の状態だった様だ・・・。
奴はテルミス城の内装などには無頓着だった様で、殆ど手つかずのテルミス城はアンジー達が暮らして居た頃の状態が残っていたようだ・・・。
其れ等を確認してから、俺達は残存する王国の占領軍を捕虜にして、全員を武装解除した後に大きな空き倉庫3つに押し込んで、尋問と今後の扱いの説明を開始した。
その間に、公国の首都民達へ我々は王国の占領軍を駆逐して、公国を解放した事を大大的に広報して行った。
当初は、一年近く王国に占領されて来た事で、公国民は解放された事が信じられなかったらしく、おっかなびっくりで街路に出て来たが、我々の軍隊が渡して行く布告文やテルミス城の前で、雄々しく立つ【オリュンピアス公国】の象徴でもある守護機士【アテナス】を見て、驚愕しながらも徐々に信じ始めて来て、歓声を上げながら民衆は周り近所を誘い合わせて、大勢でテルミス城前の大広場に集合し始めた。
その民衆達の前に、テルミス城の城門前に立つ守護機士【アテナス】が堂々と立ち、テルミス城の上階に張り出したテラスの上に立つ、【紅の公女将軍】の正装をした【アンジェリカ・オリュンピアス】と、両脇に立つ【リンナ・オリュンピアス】そして【リンネ・オリュンピアス】の双子姫、その後方で俺とカイル副団長が控えている。
その姿を見て、民衆達は真実【オリュンピアス公国】が解放された事を知った。
そしてアンジーは民衆達に拡声器の魔導具で語りかけた。
「・・・王国の奇襲と不当な占拠によって、苦難な生活を余儀無くされてきた公国民よ!
私【アンジェリカ・オリュンピアス】は故国である此処【オリュンピアス公国】に帰って来た!
だが、我々に対して塗炭の苦しみを与えて来た【フランソワ王国】は、未だ健在でありその軍事力は馬鹿に出来ない代物だ!
然も周囲の国が王国の属国や友好国に取り囲まれている、現在の【オリュンピアス公国】は非常に危険極まりない立地条件で存在している。
それを鑑みて、私【アンジェリカ・オリュンピアス】は、新たなる地歩として【オリンピア大公国】内のベネチアンに公国の新たなる拠点を築いた。
つまり、今後は此の土地を一旦は退去して、ベネチアンで新しい生活を皆には始めて欲しいのだ!
突然此の様な事を言われて、皆は戸惑うばかりだろうし、道中をどの様に移動するのか?等の疑問が尽きないと思う。
しかし、心配は無用である!
城の上空を皆、見上げて欲しい!」
そうアンジーが言い放った瞬間、隠蔽モードで城の上空を滞空させていた大型揚陸艦が、隠蔽モードを切って、その巨大な姿を現した!
「うわー、何だあれは?」
「空に浮いて居るぞ!」
「まるで海上に浮かぶ船の様だけど、何で空に浮いてるんだ?」
「落ちて来ないのか?」
「こんな凄い魔法は聞いた事が無いぞ!」
「すげーーっ!」
と様々な歓声と驚きに満ちた言葉が、城門前の大広場を揺すぶる中、アンジーは話しだした。
「皆が、大変驚くのも無理は無いが、どうか落ち着いて聞いて欲しい。
此の船はご覧の通り、空中に浮くどころか非常に速いスピードで空を飛ぶ事が出来る上に、乗せられる人間の数は一度に最大5千人の規模を誇る!
つまり、公国民全ての人口が凡そ150万人なので、往復を余裕を持って行えば凡そ2ヶ月も有れば、全人口をベネチアンに移送させる事が可能である。
皆の中には、住み慣れた土地を離れることに不安を感じ、残りたいと考える者も少なく無いと考える。
だが、このまま此処に残れば今迄以上の王国による略奪や、圧政を皆が受ける事になるのは目に見えている!
どうか、私を信じて一度で良いから此の船に乗って貰いたい!
そうすれば、私の言うことが正しかったと証明出来る筈だ!
公国民よ、お願いする!」
そうアンジーは言うと、城のテラスから深く深く頭を下げて、集まった公国民達に願いを伝えた・・・。
その真摯な姿を見て、公国民の中でも若い人々が声を出し始めた。
「俺は、【紅の公女将軍】を信じるぜ!
だってよお、このまま此処に残れば、碌な事がねえのは判り切ってるじゃねえか!
そんな未来が無い場所より、新しい土地でやり直そうじゃねえか!」
「そうね、あたいもこれ以上王国軍のクソッタレにビクビクするより、ベネチアンで一稼ぎしたいわ!」
「私も公女様に付いて行くわ!」
「僕も、付いて行きたい!」
そんな若者達の声を受けて、年配の人々も声を上げた。
「・・・そうだな・・・、未来の無い老人の我々よりも、子供や孫たちに明るい未来を残すべきだろうな・・・」
「わたしゃ、孫たちの明るい笑顔を一緒に見たいから、迷惑だろうけど船に乗せて貰いましょうかね!」
「そんなことより、わしゃあベネチアンとやらに行って見たいわい! 何でも海が近くにあるそうじゃないか!
一度で良いから海とやらを拝みたいわい!」
そんな幾つもの移送に前向きな声が聞こえて来たので、思っていたよりもスムーズにベネチアンに向かう事への拒否感は、公国民には無さそうだった。