第一章 第72話 大公国内乱⑱
俺のPSと対峙している男は、よくよく見ると奇妙な服を着ていた。
此の世界では珍しく、まるでレオタードの様にピッチリと肌に張り付いた服で、身体を動かすのに特化した様な状態である。
俺は暫くの間奴を観察し、徐ろにPSから地上に降り立って、奴と対峙した。
「ヴァン、何でPSから降りたの?
その男が以上だとは、センサーで判っている筈よ! 直ぐにPSに戻って!」
俺にそう叫んで、奴の危険性を伝えるアンジーに俺は、
「・・・いや、攻撃目標として人間サイズは、元々PSには不向きな存在だ!
それに無手の相手に重武装のPSで挑むのは、俺の矜持が許さない!
まあ、奴の相手は俺がするので、城の制圧は【白虎軍団】に任せるから、アンジーは守護機士【アテナス】で他の邪魔者の警戒等をしていてくれ」
そう言いいながらも、俺は奴へ対して警戒を緩めずにいた・・・。
その俺の様子を見ながら、奴は馬鹿にした様子を崩さずにいて、俺達を遠巻きにしながら城の制圧に向かう【白虎軍団】の前に、瞬間移動したかの様に移動した!
(は、速い!)
そう心の中で呻きながら、俺も最大加速の瞬歩である【縮地】を発動させて、奴が【白虎軍団】の軍人に手刀を放とうとしている前に飛び込んで、軍人を抱え込みながら奴の手刀に向けて廻し蹴りを放つ!
ドガッ! ドカカッ!
軍人を他の者に放り投げて、廻し蹴りの回転を殺さずに二段蹴りを放ったのだが、奴に簡単に弾かれてしまい、俺は地面を転がりながら体勢を整えて、【騎馬立ちの構え】を取った。
俺の構えを見ながら、奴は不審そうに首を捻る。
そして、
「何故だ?! 何故あの距離を一瞬で詰めれたのだ?
然も、魔力を一切使用せずにそんな蹴りを放てるんだ?
それに、今でも闘気は感じるのに魔力を感じないのは何故なんだ?」
奴は訝しみながら、俺を警戒し始めて漸く本気で構えを見せて来た。
奴は此の世界では一般的な構えで拳を両手で作りながらジリジリと前に出る、俺の故郷の武術ではボクシングの(オーソドックススタイル)によく似た構えを取った。
それに対して俺は、【騎馬立ちの構え】を変えて【三戦立ち】をとって、相手の攻撃を受けて反撃をする事にした。
その体勢を見て、奴は更に困惑した様だが、敢えて無視して攻撃する気になったのだろう。
徐々にフットワークしながら俺に近付き、ジャブを放ちながらストレートを打って来た!
それを俺は腕を回転させて払い、奴の腹に正拳突きをぶちかましたのだが、奴の信じられない程の強固な腹筋に阻まれて、殆どダメージを伝えられなかった・・・。
しかし、それでも奴にとっては驚きだったらしく、距離をとって俺を見直して来た。
「・・・信じられないな・・・、只の人間が私にダメージを与えられるなど、此処200年では無かった事だ・・・。
お前の名前を聞いて置こうか・・・。
貴様! 名を何と言う?」
「俺の名は、ヴァン! 【ヴァン・ヴォルフィード】と云う名だ!」
「・・・ヴァン・・・、【ヴァン・ヴォルフィード】か・・・。
それでは、私も名乗ろう、ブレスト、【ブレスト・ゴーザ】と云う名だ!」
「【ブレスト】というのか、それでは改めて勝負と行こうか!」
「望むところだが、どうもお前には魔力を一切感じないから、私もハンデとして魔力を用いる事を禁じて戦ってやろうじゃないか!」
「・・・」
俺は敢えて無言で応じながら、奴がダラリと手を下げたのに応じ、構えを解いてノーガード戦法となる・・・。
そして俺達は、互いに構えも取らずに高速戦闘を開始した!
俺が瞬歩を所々で駆使して、コンビネーションブロウを放つと、奴も又、何らかの技術で瞬間移動しながらコンビネーションブロウを放ち、要所要所では蹴りを放って来た!
その蹴りを俺は勢いに逆らわずに、蹴りをいなしながら抱え込もうとしたが、それを嫌がった奴は直ぐに足を引っ込めて、今度は肘を叩き込もうとしてきて、俺はそれを貰う訳には行かず、体を躱して裏拳を放つ。
その裏拳をダッキングで躱した奴は、膝を俺の腹に叩き込んで来たが、俺はその膝に両手を乗せてそのまま逆立ちしながら勢いを利用して跳躍する!
空中に舞った俺を追い垂直に飛び上がって来た奴は、俺よりも高い位置から踵落としを繰り出して来たので、俺は身体を捻りながら躱す・・・。
当然、此れ以上は空中で身を躱せずにいると、奴は俺の土手っ腹に横蹴りをかましてきた!
何とか、その威力を最小限に留めるべく、俺は身体をくの字に曲げて奴の足を抱え込み、地面に落ちながら足首を捻ろうとしたが、その意図を感じた奴は足に力を込めて振り解いた。
ほぼ同時に地面に降り立った俺達は、一旦距離をとって姿勢を正すと、次の瞬間には高速戦闘を再開した。
その俺達の高速戦闘は、とても人同士がするレベルでは無く、たちまち土煙が立ってしまい、周囲に居る者達の視界を奪ってしまい、俺をサポートしようと身構えていた部下達も困惑しながら、事態の推移を見守る事しか出来なくなった。
暫くの間、俺達の高速戦闘が続いていたが、城内を制圧したらしい【白虎軍団】が城の前に出てきて大声で報告して来た。
「報告します! 【テルミス城】の制圧は完了しました!
内部には殆ど人間は居らず、数人の者が食事の用意と清掃をしていただけの様でした!」
その返事を聞きながらも、俺達の戦闘は続いており、決め手を双方与えられないまま、どちらともなく戦闘を止めて睨み合った。
「・・・本当に愉しい、愉しくて仕方無いが・・・、これ以上は城を奪われたのに居座る訳にも行かないな・・・。
大体、私の気紛れで此の城には居座って居ただけだし、そろそろ仕事をしなければ【ソロモン】に怒られてしまう。
ヴァンよ! 些か残念ではあるが、此の勝負は次回に持ち越しだ!
何れ、最初から本気で勝負する機会は必ず有る! それまでは他の者にまけるなよ!」
そう言い放つと、【ブレスト】は背中からコウモリの翼を生やして、空中に飛び上がった!
「ヴァンよ、忘れるな! 貴様を討つのは此の【魔人ブレスト】だと言う事を!」
そして【魔人ブレスト】は、大きくコウモリの翼を羽ばたかせて、俺を含む全員が呆気にとられる中、一気に王国の方角に飛んで行った。
残された俺を含む全員は呆然としながらも、此の戦争が実は単なる人間同士の諍いでは無い事を、感じざるを得なくなっていたのであった・・・。