第一章 第71話 大公国内乱⑰
まだ早朝特有の朝靄が晴れきらない内に、予定通りの高台に着底した大型揚陸艦は、後方の格納庫搬出用の大型タラップを開け放ち、地上に固定させた。
「発進!」
俺の号PSを先頭に親衛隊は、20機のPSを中核に戦闘車両と戦闘バイクが地上に躍り出て、そのまま凄まじい速度で王国の占領軍が駐屯する屯所目指し進撃して行く。
その俺達の後から格納庫搬出用の大型タラップを降りた【白虎軍団】は、大型揚陸艦を守備する100名を残して、守護機士【アテナス】を積んだ専用キャリアーを中央にして、公国の首都に向かい進撃を開始した。
まだ、公国の首都の人々が起き出さない中、俺と俺の率いる親衛隊は王国の占領軍が駐屯する屯所に5分程で到達すると、予め滞空させている小型ドローンのデータから、全く公国民が屯所に存在していない事を確認しているので、屯所の正門に向けて攻撃を開始した!
ドゴーーーン!
城門に比べれば、所詮ただの頑丈な扉でしかない屯所の正門は、PSのバズーカ砲の一斉射で木っ端微塵に打ち砕かれてしまい、俺達は全く抵抗も受けずに屯所内に吶喊して行く。
突然鳴り響いた、バズーカ砲から撃ち出された爆裂魔法の爆発音に、恐怖で嘶き始めた軍馬による恐慌で、漸くおっとり刀で起き出して来た占領軍の軍人達は、雪崩込んできた親衛隊が撃ってくる【麻痺魔法弾】により、次々と麻痺したまま倒れて行き、まともな反撃も出来ないまま戦闘は推移して行った。
戦力としてみれば、本来5千人居る筈の王国の占領軍が優位そうだが、彼等は殆ど戦闘力の無い公国民を脅しあげて元公国軍人を探したり、無理やりに徴集する税の後押しをする存在でしか無く、あまり戦場で役立つ兵士はそもそも割り当てられておらず、謂わば使えない兵士しか此の場には居なかったのである。
アッサリと屯所に居た王国の占領軍5千人を無力化し、俺達は100名程の親衛隊を監視の為に残して、公国首都に向かい【白虎軍団】を援護する事になった。
20機のPSを中核に戦闘車両と戦闘バイクは、屯所から首都までの5キロメートル程の距離をアッサリと踏破して、【白虎軍団】が攻撃している城門の正門と反対側にある裏の城門に到達した俺と親衛隊は、どうやら数十人しか王国の占領軍は裏門に居なかったらしく、非常に散漫な魔法攻撃しか我々に浴びせて来ず他には弓矢での攻撃のみ、其れ等の攻撃を全て無視して俺のPSの腕部に装備している【パイルバンカー(射突型金属棒打ち機)】を使用して、金属製の城門の四隅を貫いてそのままPSで体当たりし、城門に大穴を開けて首都に突入を果たす。
当然、親衛隊は俺の開けた大穴を潜り抜けて、当初の作戦通りに首都の要所要所に向かい、首都を占拠して行った。
その行動に移ったタイミングで、アンジーから俺のPSに通信機を通して連絡が入った。
「ヴァン! 此方もたった今正門を潜ったわ!
本当なら【ブレスト・キャノン】を使用すれば一撃だったでしょうけど、後の事を考えたら被害がとんでもない事になって再建が難しそうだし、故郷の正門を自らの手で壊すのは後味が悪すぎるから、結局、守護機士【アテナス】に追加装備した【パイルバンカー(射突型金属棒打ち機)】を使用して、突入する事になったわ」
「そうか、俺も同じく首都の裏門を【パイルバンカー(射突型金属棒打ち機)】で突入した処だよ!
このまま親衛隊の一部を連れて【テルミス城】に進軍するから、アンジーもテルミス城に向かってくれ!
其処で合流しよう」
「了解よ!」
そう応答して、俺は首都のメインストリートをPSでローラーダッシュし、目についた王国の占領軍人達に【麻痺魔法弾】を喰らわせながら進んで行った。
10分程で【テルミス城】の裏側に到着し其処を親衛隊員達に任せて、俺は表側に到着したアンジー達と合流した。
「作戦通り順調な様だな」
「ええ、カイル副団長は首都の中央大広場に臨時の司令部を置いて、【麻痺魔法弾】で痺れている王国の軍人達を捕らえて捕虜として集めているわ。
作戦通りに事が進んで一時間後には、此の城以外の場所は全て解放されるわ」
そう通信機を通して話していると、PSのセンサーに警告の反応が有り、その反応を調べると【テルミス城】の上階に設置された、大きく張り出したテラスに男が一人出て来た様だ。
だが、只一人の男が出て来た位でセンサーが警告して来る訳も無く、俺は詳細なデータをパネルに映し出して何処に警戒理由が有るのか見てみた。
すると、センサーが拾い出した数値で魔力量が、人間の持つ魔力量とかけ離れている事が判った。
此の男の魔力量は一般の人間と比べて50倍の数値を示していて、とても物理的に考えてもそのサイズで保持する事は不可能と言える。
俺はアンジーや他の者達に警戒を促して、途轍も無く怪しい男に対してPS越しに語りかけた。
「・・・尋ねるが、貴方は公国を占拠している王国軍の関係者なのかな?」
すると男は、物珍しそうな顔をして、PSと守護機士【アテナス】をジロジロと眺めながら返事をして来た。
「ん? 嗚呼そう云えば【ソロモン】から注意を受けてたな、何でも守護機士【アテナス】だけでなく、珍しい高機能の人形が敵には存在すると。
ふ~む、確かに珍しい、嘗ての戦いでも見たことが無い人形だ。
此れは楽しそうだ!
私の退屈な日常を、戦闘の愉しさで塗り替えてくれよ!」
そう宣言すると、男は【テルミス城】のテラスから跳躍し、俺のPS目掛けて蹴りを放って来た!
その蹴りを俺はPSの腕を交差させて、十字受けを行わせて受け止めたが、その衝撃は俺の操縦席を揺らせる程だった。
「おおっ、此れを受け止めるとは、その人形は今迄に相手した奴等とは段違いだな!」
そう言いながら男は地面に降り立ち、ニヤニヤと笑いながら俺のPS眺めている。
俺は、此れまでの人生でも初めて、得体の知れない敵と出会い、悪寒を覚えつつ興奮している自分に気付いていた・・・。