第一章 第69話 大公国内乱⑮
元スラム街の場所は、ベネチアンの街にとっては低地に有ったので、其処はゴミ処理と下水処理を自動で行える様に生態系が完結しているユニットを設置する事にした。
此のユニットは亜空間から取り出した物なのだが、正体は【植物惑星】で供与された、循環型の植物体系を持つ特殊な蔦類を中核に持つ代物だ。
ユニットは非常に優れた代物で、汚染された地盤は地層レベルで改善し、下水処理も凄まじいレベルで、処理された水は飲める程なので隣接する河川にそのまま流されて行き、鯛や貝類の養殖場を設置出来た。
元スラム街の住民を、避難させた難民センターの様な場所には、職業訓練所と様々な療養施設も隣接させた。
此れ等の事業には、俺の提供した様々な重機や、国境の街でも大活躍している各種の人形が役に立っている。
事業そのものは、ベネチアンの商会で遣り手と評判の会頭【シェヘラザード】に委任して、重機50機と人形500体の運用と莫大な予算を提供しておいた。
此れのお陰で、現在【水の都】ベネチアンは空前の好景気が始まり、職と食を求めて大公国で職にあぶれていたり、その日の食べ物にも困る人々は街道を列をなす様に、ベネチアンを目指して来ている。
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俺とラング団長そしてカイル副団長に参謀のミケルは、軍隊の再編成を進めて行く。
元々の傭兵団【鋼の剣】約1500名の内1000名は、新しいベネチアンに於ける正規軍となり、ラング団長を長とする【白虎軍団】という名の陸戦軍となった。
そして残りの500名の内200名が、俺の指揮する親衛隊として再編され、アンジーこと【アンジェリカ・オリュンピアス】の警護を主とした任務に就く。
最後に残った300名は参謀のミケルが再配分して、ベネチアンの警邏活動や要所要所の守備兵として再編された。
元々のベネチアン兵達は、以下の様に再編成して行った。
ベネチアン海軍は、元司令官の【ドライガ】と副長を更迭した事で、新たに昇格した【マゼラン】を司令官とした【青龍軍団】と云う名の海戦軍となった。
此の【青龍軍団】は、水兵1000名と海兵500名を主として、今迄は水夫として雇っていた人材は別の部署に配置し、元々の艦船自体は徐々に民間に商船として払い下げて行き、新造されていく動力付きの鋼板艦を主軸とした新たな海戦戦力を持つ、此の世界としては初めての鋼板と動力を持つ軍隊となる。
水夫だった者達はそれぞれの志望を聞いて、そのまま水兵や海兵になったり、民間人になったり、軍隊における後方支援の任に就いたりした。
基本的な軍隊の再編成は大まかに此の様になったが、当然新規で軍人に成りたがる者も後を絶たないので、それぞれの新人達を訓練する部署も新設されて行った・・・。
此の再編成と新規の軍人育成に道を付けて、新しいベネチアンは正に生まれ変わったのだが、当然此の動きは敵対勢力にとっては苦々しいものでしかない!
大公国の首都からは、盛んにベネチアン周囲の地方に対して、ベネチアンへの物流の禁止と人流の停止、そして3度目の討伐軍を編成する為に全ての地方都市に徴兵を命じた。
しかし、2回の討伐軍が無惨にも敗退している上に、対象の我々は一人も命を失っていないどころか、殆ど無傷で勝ち続けているのだ!
此の様な状況では、ワザワザ負け続けている側の軍隊に、誰が参加しようと思うだろうか?
それに、事実上大公国の3番目に大きい都市と、その軍隊をほぼ全て手に入れてしまったので、人数は兎も角として国土の4分の1と軍港と商用の港を手に入れて、ベネチアンと国境の街との主要道路をメインに、捕虜とした軍人達を主軸として4万人規模でインフラ整備しているので、周囲の地方都市は我々の行動が明らかに首都よりも勢いが有ると判断し、表向きでこそ無いが【アンジェリカ・オリュンピアス】公女への連携を求めてきており、以前は中立であった地方も半ば我々の側に付いてくれている。
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ベネチアンを奪って二週間後、想定していた大公国では無く、王国が占拠している公国で動きが有った!
アンジーに嘆願されていたので、集中的に軌道上にある【探査ブイ】を固定化して、常に公国の全土を監視下に置いていたのだが、王国の増援が確認された上に、城下町を始め公国の地方都市に対して、王国の反乱分子の洗い出しをし始めたのだ!
此の動きが何処かのタイミングで行われると思い、予め我々でも味方となる筈の元公国軍人に接触を図ろうとしていたが、中々巧妙に隠れていて此方から無理に接触しようとすると、王国に察知されそうで事態は捗々しく無い状態である。
だが、このままでは非常に不味い事態と成りかねない。
なので、我々は積極的に動く事にした!
俺の母艦である【天鳥船】の格納庫に存在していた、大型揚陸艦を密かにベネチアンの陸戦軍屯舎にある訓練場に降下させた。
当然突如、空から300メートル級の艦船が降下して来たら、凄い混乱をベネチアンの住民に与えかねないので、隠蔽モードで降下させて、気心のしれた俺の部下である親衛隊と【白虎軍団】からもカイル副団長と500名の部隊が同行させる事になった。
いよいよ、我々はベネチアンと云う地歩を得たことで、積極的に行動する事が出来る様になったのである。