第一章 第68話 大公国内乱⑭
諸々の事務作業と、ベネチアンの住民達への布告を行いつつ、【水の都】ベネチアンは着実に【アンジェリカ・オリュンピアス】を当主とすべく、ベネチアン侯爵からの接収作業が行われて行った・・・。
何故そんなに簡単に接収出来るかというと、従来のベネチアン侯爵家がかなり高い人頭税と関税を住民と商人に掛けていて、大凡、一人あたりの税額は6割に上っていたのである。
それに対して、【アンジェリカ・オリュンピアス】を当主とする新たなる政体は、いきなり従来の税金徴集方法を撤廃して、来年度から消費税と云う新しい税金徴集方法を導入して、他の税金徴集は一切行わないと布告してのである。
然もその税率は2割に留まる事も併せて布告された。
此れを受けて、住民と商人でも農民と漁民そして物流に携わる商人は、歓喜に沸きかえった!
何と言っても、貧しい農民と漁民にとっては、税率60%といっても事実上良い方の作物や魚類が税金として徴集されていて、手元に残る収穫は悪い方なので、事実上は税率80%といっても良い内容だったのだ。
物流に携わる商人にしても、関税とは別に係官からの賄賂の要求をされていて、同じく税率80%の徴集を受けていたというのが実態だった。
それが、売上そのものを全て手元に入り、税金はあくまでも買い物をした場合に20%課税されるだけというのは、まるで此れまでが地獄で此れからが天国の様に感じられたのだ。
当然、半年とは云え全ての税が減免された上に、【アンジェリカ・オリュンピアス】ご自身の布告として、無利子無担保の一定の額の貸付金が、決まった業種ならば貸し付けられる事、それに生活苦による借金等は全面的に解消させる事が表明された。
何故其の様な事が出来たかと言うと、代々のベネチアン侯爵がベネチアン城の隠し金庫や、様々な隠し倉庫に隠し持っていた金の延べ棒や白金貨、他にも値打ちの高い美術品やアクセサリー、そして様々な魔導具やアーティファクトが膨大な数保管されていたのだ!
なので、此の不当に得てきた此れ等の財貨を上手く市場に廻すべく、住民や商人の負債を解消すべく財貨を使い、市場を活性化する為に新たなる貸し付け機関である、【ベネチアン銀行】が新設されたのである。
俺の母艦である【天鳥船】から持ち出した、【イマジネーション・モジュール】と云う超科学の産物をベネチアン城の中枢に取り付けて、今後は【イマジネーション・モジュール】と連結された亜空間から、【天鳥船】が保有する様々な機材や物資を取り寄せる事が出来る様になった。
其の中の一つとして、数多くのカード発行機とそれを統括する主幹コンピューターが、【ベネチアン銀行】の本部に備え付けられた。
徐々にではあるが、何れは貨幣経済から紙幣経済を経ずに、仮想通貨経済を目指しす為の個人データを活用するカード決済システムを導入する為である。
其れ等の重要な機材を用意しながら、【水の都】ベネチアンにとって負の側面を体現している地域である、スラム街に我々は手を付ける事にした。
此のスラム街とは、代々のベネチアン侯爵が過酷な税金徴集を行う事で、食い詰めてしまった農村出身の者や不漁で借金を作った漁民、そしてギャンブルで身を落とした者など多岐にわたるが、全ての者が金を持っていない所為でまともな生活が出来ていない者達だ。
その数は3千人に上り、ベネチアンでも外れの場所にあるが、異臭や汚物が溜まり易い場所である為に、衛生上で考えても問題が多く、感染症等の病気が流行る可能性も高い。
なので、俺の提案でスラム街の住民を、一旦、全員難民センターの様な場所に隔離して、スラム街そのものを物理的に浄化すべく、我々の火力攻撃訓練とベネチアンの住民に対してのお披露目として、【アンジェリカ・オリュンピアス】自らが搭乗する、守護機士【アテナス】とPSの最大火力攻撃をデモンストレーションとして行った。
守護機士【アテナス】は元々標準搭載されていた、最大武装である【ブレスト・キャノン】を一般人にも見せて良い範囲の攻撃力で行った。
アンジーとしても、人目に付く形でお披露目するので、気合いが入っているのか【紅の公女将軍】の正装で、ベネチアンの街々の辻に設けられた大型パネルに映し出されながら、勇ましい姿が非常に映えて見えた。
お陰で、かなり此のデモンストレーションはベネチアンの住民に好印象を与えたらしく、ベネチアンの街々の辻に設けられた大型パネルの前で、ベネチアンの住民達は歓声を上げて、新たなるベネチアンの支配者として喜びと共に【アンジェリカ・オリュンピアス】と我々は、受け入れられて行ったのであった・・・。