第一章 第65話 大公国内乱⑪
港湾設備の集会場を出て俺は部下と合流すると、ベネチアン湾の海岸部の脇に有る海軍の軍司令部に向かった。
予め派遣して置いた我々の軍団の内である部隊500人は、海軍の軍司令部の手前500メートル程で、海軍の海兵と睨み合う形で対陣していた。
海兵とは、当然海軍に所属する兵隊なのだが、水上での戦闘のみを行う水兵とは違い、地上戦も想定した訓練を行っていて、謂わばオールラウンダーを想定した兵隊であり、こういう地上戦ではかなり強い兵隊だ。
海兵も此方の部隊と同等の500人程が対陣していて、此れと戦うのは避けたいのが此方の本音である。
暫く睨み合っていたらしい双方を観察し、俺は此方の部隊を率いてきたカイル副団長と合流し、様子を確認した。
「カイル! 海軍の軍司令部には要望は出したのかい?」
「嗚呼、当然要望は出したのだが、どうもベネチアン海軍の司令官である【ドライガ】は、沖に停泊しているベネチアン海軍の旗艦に乗り込んでいて、やり取りは軍司令部としている様なんだが、どうも【ドライガ】は此の軍司令部に戻る気は無いらしく、このまま他国に出航してしまいそうな雰囲気なんだよ!
それをさせまいと海兵の指揮官が説得している様だが、梨の礫の様で目の前の軍司令部もテンヤワンヤの状態だな」
「ふ~む、参ったな。 味方になるか敵になるかの前に、そもそも意思決定者が逃げ回っていては、話が進みようが無いな・・・。
取り敢えず、俺と数人だけでも軍司令部に入り、ベネチアン海軍の司令官である【ドライガ】と連絡させて貰うべく、交渉してみようか」
そう言いながら、俺は直々に対陣している海兵の部隊に近付き、その場にいた部隊長と交渉して2人だけ軍司令部に入室させて貰える事になった。
まあ、このままだと何も進まないまま日を跨ぎそうだったから、部隊長としても俺達を入れる事で何かの変化を求めたのかもな・・・。
軍司令部に入室させて貰い、俺と連絡役の部下は軍司令部に残っていた海兵の指揮官と対面した。
「お初に御目に掛かる、私は海兵の指揮官にして、現在は軍司令部に残っている海軍の高官としては、トップの地位にあるので、現状此の場に於ける海軍の責任者である、【マゼラン】と申します!」
「此れは丁寧な対応をして頂き恐縮です! 私はヴァンと申しまして【アンジェリカ・オリュンピアス】公女の親衛隊長を務めております。
今回、ベネチアン侯爵との交渉で大公国の指導部に要望と要請を申請する為の、話し合いをしていたのですが、ベネチアン侯爵が我々の持つ兵力や様々な兵器を取り上げようとしたので、話し合いは不調に終わったのですが、ベネチアン侯爵が強硬な手段で我々を拘束しようとして来たので、抵抗して逆にベネチアン侯爵とその手下達を捕虜としました。
すると、諸々の此れまでのベネチアン侯爵による悪事が、城付きの職員や商会ギルドから資料と共に提供された。
それによると、此処を統括するベネチアン海軍の司令官である【ドライガ】が、ベネチアン侯爵と共に現在の大公国では禁止されている【奴隷取り引き】をしており、その【奴隷取り引き】の全貌を知っていると思われる【ドライガ】に問い糺すべく訪れたのだよ。
【マゼラン】殿は、沖に逃れた【ドライガ】と連絡する手段が有ると聞いたので、私はやって来た!
どうかその連絡方法で、【ドライガ】と渡りを付けてくれないか?」
その俺の言葉を聞いて【マゼラン】殿は、頷いて屋上に俺を連れて行き、其処に設けられた【手旗信号】を行う台座を示し、説明してくれた。
「海軍に於いては、艦同士の連絡方法として旗を用いて意思疎通し合うのですが、陸との連絡は此の【手旗信号】で行います。
しかし、現在も我々が【手旗信号】で諸々の連絡を送っているのですが、ベネチアン海軍の司令官である【ドライガ】将軍は「出港する!」との旗を出しただけで、此方との連絡を断っております・・・。
ヴァン親衛隊長殿の意向も伝えておりますが、一切返答を返してくれません!」
「・・・了解した・・・、では【マゼラン】殿には此処海軍の軍司令部を統括して、呉れ呉れも我らの軍団と暫くの間は諍いを起こさない様にして頂きたい!
その間に、俺は直接【ドライガ】の乗る海軍旗艦に乗り込んで、話しを着けて来るよ」
そう返答して軍司令部を出てから、俺は【マゼラン】殿とカイル副団長に後事を託し、旗下のPSを率いて海岸部に出向き、【ドライガ】の乗る海軍旗艦に向かう準備に入った。
俺達は、PSの足元にオプショナルパーツのフロートを取り付けて、水上でも高速で動ける様に背面に追加推進装置を増装させた。
そうした準備を整えて、俺達は5機のPSで海軍旗艦に乗り込み、残りのPSは周囲の海域で水上を疾走りながら警戒行動をする事に決めた。
「さて、海軍旗艦に向かうぞ!」
そう号令して、PS全機は割り当てられた任務に就いた。