第一章 第63話 大公国内乱⑨
俺が壇上にゆっくりと近付いて行くと、狼狽えながらもベネチアン侯爵は魔術師達と残った護衛兵達に命令を下した!
「や、奴を早く取り押さえろ! お前達は【アーティファクト】である【重力制御】の対象外なんだろう?
10Gの重力が掛かっている奴など、問題なく捕らえられる筈だ!」
その命令を受けた魔術師達と護衛兵達は、それもそうだと思ったのか、刺股らしき形状の槍で取り押さえようとしてきて、建物を壊さない魔法である【麻痺魔法】を俺に放ってくる。
だが、俺にとってみれば其の動き全てが鈍すぎて、あくびが出る程だ。
先ず、刺股らしき形状の槍で取り押さえようとして来た護衛兵の一人から、アッサリと絡め取る様に刺股らしき形状の槍を取り上げて、石突の方で残った護衛兵達の鳩尾に突き込んで、全員を悶絶させた。
次に、【麻痺魔法】は予め身体能力を呼吸法で活性化させていたので、簡単に抵抗して見せた。
其の様子に、魔術師達は一斉に動揺する。
「ば、馬鹿な! 何故【麻痺魔法】を簡単に抵抗出来るのだ?!
いや、そもそも【アーティファクト】である【重力制御】が効いていない?!
人間である限り、魔力を多かれ少なかれ持つのだから、体内に有る魔石を中心に作用する此の【アーティファクト】には抵抗出来る筈が無い!」
と恐慌に陥りながら発言していたが、ワザワザ俺の秘密を教える謂れは無いので、護衛兵達と同様に石突の方で鳩尾に突き込んで魔術師達も悶絶させた。
残ったベネチアン侯爵は、必死に玉座の様な椅子の後ろで震えていたが、俺はゆっくりと椅子の前に歩み寄って行く。
「お、お前は何だ?! 何なんだお前は? 今迄どの様な屈強な男でも【アーティファクト】である【重力制御】の前には、決して抵抗出来ずに屈して来たのに、お前は何故こうも簡単に抵抗出来るのだ? まさか人間では無いのか?!」
俺は、その誰何には一切答えずに口角を吊り上げて、そのまま前蹴りを椅子に放った!
当然、玉座の様な椅子の後ろで震えていたベネチアン侯爵は、俺に蹴られてすっ飛んで行く椅子に巻き込まれて、後方にすっ飛んで行き壁に衝突して無様に気絶してしまった・・・。
俺は直ぐに、椅子の後方に有る壁の配電盤の様な【アーティファクト】のレバーを起こし、【重力制御】を解除した。
すると、10Gの重力が解けたラング団長達が、自由に動ける様になったので此方にやって来て、素早く魔術師達と護衛兵達を彼等が持っていた、俺達を拘束する為の縄を使用して、全員拘束して行った。
「どうやら作戦案Aを採用して、俺達が「【水の都】ベネチアン」を悪領主である、ベネチアン侯爵から解放して【アンジェリカ・オリュンピアス】を、予定通り新たなる指導者として擁立する事となりそうだな」
「そうだな、まあ、我々にとって本当に都合良くベネチアン侯爵がクソ野郎だったので、弾劾すべき材料が沢山有るから、布告内容が多くて大変助かるよ」
「さて、此の気絶しているベネチアン侯爵達を、此のベネチアン城の牢屋に連れて行き、残してきたカイル副団長とアンジーに連絡を取るとするか・・・」
俺は、ラング団長にそう言うと脳内で通信機を繋ぎ、アンジーに連絡する。
「アンジー! 予定通りにベネチアン侯爵を拘束したので、カイル副団長と共にベネチアンに入る行動に移ってくれ、予め侵入させていた部下達が門を開けてくれるから、殆どイザコザは無い筈だ」
「了解よ! 既に移動準備は整っているから、カイル副団長を先頭に【守護機士アテナス】を載せた専用キャリアーとPSを連れて、ベネチアンの門を越えたらそのままベネチアン城に入城して占拠するわ!」
「嗚呼、その行動で良いけど、俺達と合流したら港湾設備の集会所と、海軍の軍司令部に向かうからPSの操縦者と、俺の直属の部下には臨戦態勢のままで待機させていてくれ!」
「判ったわ!」
そう応対してから、[ヘルメス]に命令する。
「[ヘルメス]! 対空させている小型ドローンの重点目標を、ベネチアン城から港湾設備の集会所と海軍の軍司令部に変更せよ!
そして予め準備していたベネチアン侯爵への弾劾文と、此れまでやらかして来た不正の資料を記した文を、小型ドローンで空中からベネチアンにばら撒くのだ!
そして【探査ブイ】で、反ベネチアン侯爵の組織とその拠点を探査せよ!」
そう[ヘルメス]に命令して、俺達はベネチアン城で働く城付きの職員や官僚に協力を促すべく、城の中庭に集まる事を城にあるアナウンス設備を使い広報して行った・・・。
ほぼ城付きの職員や官僚が中庭に集まったタイミングで、アンジーとカイル副団長を先頭に我々の軍団がベネチアン城に入城して来た。
然も、【守護機士アテナス】にアンジーが乗り込んで、動かしながらである。
その巨体を呆然と見上げる城付きの職員や官僚達に、【紅の公女将軍】の軍服を着込んだアンジーが協力を申し込んだので、城付きの職員や官僚達は跪いて協力する事を誓ってくれた!
(良し、此処までは予定通りだな!)
俺は城外で準備されている、俺専用のPSに向かいながら、此れから向かう港湾設備の集会所と、海軍の軍司令部に思いを巡らせていた・・・。