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第一章 第59話 大公国内乱⑤

 まさかと思ったが、二万人もの兵士が投降して来て、直ちに我々の軍団への協力を申し出て来た。


 内情を細かく聞いてみると、此の2万人の兵士達は大公国軍の正規兵では無くて、大公国の各地方都市や街や村の守備兵や自衛組織から、無理やり徴収された兵士達であり、そもそも直属の組織であった地方領主に付いて首都に向かったのに、その地方領主が大公の命令で城に監禁されてしまい、途方に暮れていると大公の命令と称して討伐軍の兵士として徴収されていた様だ。


 然も、従わなければ出身の地方都市や街などに居る、兵士達の家族や親類達に対して危害を加えるとの脅しを掛けられていたらしい。


 とても自国民に対してのやり方とは思えず、実際は大公国の現在の首脳部は、全然大公国を統治出来ていない実情が察せられた。


 ただ、本当にやるかどうかは判らないが、脅しを掛けている以上は、彼等を直ぐに味方として扱うのは非常に不味い。


 その事から、彼等には表に出ずに兵站線保持や補給物資の物流などの、裏方として働いて貰いつつ、首都と地方の連絡網を切り離して、首都側の命令が発せなくなった段階で合流して貰おう。


 そう云う方針に切り替える事を、国境の街に居る代官や元商会ギルドの会頭【サムス】、そして【ドラド】兵員指揮官となった元守備兵司令官【ギネス】と連絡し合って決断し、残りの1万人は捕虜として物資を降ろしたトラックでピストン輸送の様に、捕虜収容所に護送して行く。


 協力を申し出て来た2万人と共に、駐屯地に残った兵站物資を整理して、今後の首都への侵攻作戦に役立たせる事とした。


 (・・・どうやら、想定して策定していた作戦よりも、上手く行きそうだな・・・)


 そう考えながら、明日からの行動予定をラング団長達と、大公国軍の司令官達が作っていた天幕で、状況変更を考慮しつつ確認し合った・・・。



◆◆◆◆◆◆



 一夜を大公国軍の駐屯地で過ごし、予定していた首都に至る為の中継都市であり、【オリンピア大公国】に於ける第3都市【ベネチアン】への進軍行動に入る。


 第3都市【ベネチアン】は、ベネチアン侯爵が領するオリンピア大公国でも屈指の大都市で、【水の都】とも言われる程の海港が存在し、海運が盛んな都市だ。


 当然、その海港を守備する為の海軍も存在し、80隻もの戦闘艦も保有しており、その他の小型艦も含めると300艘に及ぶ数がベネチアン侯爵の海軍となる。


 【オリンピア大公国】の首都である【ロムルス】にも海軍は存在するが、ベネチアン侯爵の海軍はそれに勝るとも劣らないと言われている。


 此のベネチアン侯爵の海軍を丸々接収するのが今回の進軍目的で、その為にはベネチアン侯爵を説き伏せるか、降伏させて全て奪うかしか無いだろう。


 元々、我々の街に攻め込んで来た討伐軍の兵站線は此の都市から伸びているので、その兵站線を逆に辿る形で我々は順調に進軍して行った。


 「・・・ベネチアンか、【水の都】と言われる様な都市だから、きっと空気の匂いからして今迄の内陸都市と違うんだろうな・・・」


 「そうね、私も一度だけ王国軍の遠征行軍の時に、海岸線の村を通ったけれど凄く潮風というものを嗅いで、全然内陸とは風土や季節に吹く風も違うのだと実感したわ。

 きっと、ヴァンも驚くと思うわよ」


 「そうですね、私は山間部が出身なので海岸とは無縁に幼い時は過ごしてたので、結構楽しみですよ」


 「私は、海岸ではありませんが湖に面した田舎出身なので、朝から漁に出る漁師や魚を使った料理が当たり前の暮らしでしたので、公国の首都に出仕しだしてからは余りの生活スタイルの違いに、困惑したのを覚えていますので、きっとヴァン様も困惑するんじゃないでしょうか」


 とアンジーそしてアンナとミレイが答えてくれたので、専用キャリアーのミーティングルームの大型パネルに現在向かっているベネチアンのリアルタイム動画を、【探査ブイ】から映し出させた。


 其処には、内陸部側には高く堅牢そうな壁が有って、海岸線側には幾つかの要塞が存在する、ベネチアンの街が映し出され、港を行き交う大小の商船が情緒溢れる風景として観察出来た。


 「うーん、何とも平和そうな街だな、結構賑わっているし街に被害が出ない様にしないと、住民から非難轟々な対応をされそうだ」


 「・・・そうね、なるべくベネチアン侯爵を説き伏せる事で決着させたいけど、あまり良い噂を聞かないから難しいかも知れないわ・・・」


 「例の噂ですね・・・」


 「もし、噂が真実だとすると、ベネチアン侯爵を味方に引き入れても碌な事が無い気がします・・・」


 女性陣全員がそう言って、何とも気まずい空気が流れる・・・。


 その碌でも無い噂とは、そもそも大公国の地方貴族は首都に集められて、監禁の憂き目に合っているのに、ベネチアン侯爵だけは無事に本拠地のベネチアンに居続ける事が出来ており、然も他の貴族の様には兵士の徴集などの供出は命じられていないらしい。

 どうやらそれは、ベネチアン侯爵家が代々行ってきた裏での奴隷売買を黙認して貰う代わりに、その奴隷達の何割かを首都に送ると云う取り引きをしたお陰だと云う噂である。


 「まあ、実際に会って見て様々な裏付けを行ってから判断しようじゃないか」


 と俺が結論を出したので、女性陣は一様に頷いてくれて、大型パネルに映っているベネチアンに寄港する船を全員で眺めながら、珈琲を飲み干したのであった・・・。

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