第一章 第58話 大公国内乱④
一夜明けて、夜襲を終えた我々が帰投して疲れをとる為に、朝からの入浴を終えて朝食を摂り、国境の砦にある作戦司令室に集まった、軍の上層部に俺は報告書を提出し、実際の戦闘場面を撮っておいた動画を、作戦司令室にある大型パネルに映し出して説明した。
俺の報告書と実際の戦闘場面を撮っておいた動画を見て、軍の上層部である元守備兵司令官【ギネス】にして、現在の【ドラド】兵員指揮官が幕僚達と共に、俺とアンジーそしてラング団長と相談し合い、予定通り明日には進軍する事を決めた。
「しかし、此処まで虚仮にされても討伐軍の奴等は、まともに軍を維持できてますかね?」
幕僚の一人がそう感想を述べて来て、作戦司令室にある大型パネルに現在の大公国軍の陣地の様子を、小型ドローンに中継させて映し出した。
すると、漸く全身の痺れから解放された連中は、茫然自失といった感じで横たわったままだったり、膝を抱えて蹲っていたりしているが、討伐軍の中枢である司令部は天幕の中に居て、しきりと怒鳴り合っている声が外にまで響いている様子だ。
意外と元気な討伐軍の司令部に、大したものだと妙な感心をしていたが、早馬や伝書鳩を首都に送っている様子を見て、未だに討伐軍の司令部だけは戦意が旺盛な様だと結論を出して、俺達は出陣の準備に取り掛かった。
先ず砦から出た我々は、傭兵団【鋼の剣】の拠点に戻り、昨夜の夜襲に参加した俺の部下達と合流して、中央の拓けた演習場に傭兵団【鋼の剣】の全軍を集めた。
「注目!」
ラング団長がその非常に目立つ総髪の白髪を靡かせながら、演説を始めた。
「昨夜の夜襲成功で、討伐軍と称する大公国軍3万は、現在も襲われた陣地で憔悴しながら駐屯し続けている。
兵隊の方はほぼ全員が戦意を喪失し、我々の居る此の街に攻め寄せるなど無理な事が、自ずと理解しているが、逆に討伐軍の司令部は未だに戦意を失わずに居て、未だ此の街に攻め寄せる様に兵隊達の尻を叩いて居るのが、今の奴等の現状である!
それに対して、我ら傭兵団【鋼の剣】総数1500名は、最後の一押しとして討伐軍の司令部のみを目指して強襲し捕虜とした後に、残存する大公国軍3万を収容して、此の国境の街に連れ帰り、以前の捕虜達と同様に遇してやろうと考えている。
その後、準備の終えた我々は大公国首都を目指して進軍する!
皆、大公国に巣食う寄生虫を倒す為の戦だ、気合いを入れて行くぞー!」
「「「おおおおーーーー!!!」」」
傭兵団【鋼の剣】総数1500名に上る雄叫びは、当にどよめきとなって拠点を揺らし、国境の街にも響き渡った!
その意気軒昂なまま、我々は拠点の門から家族や残る職員の声援を背にして出発する。
「あんたー、頑張ってねー!」
「兄ちゃん、ケッパレー!」
「オジちゃん、お土産よろしくね!」
「ラング団長! 武勲の誉を【鋼の剣】に!」
「ヴァン様! 帰ったら宴会しましょうや!」
「アンジー様、カッコいいー!」
「カイル副団長、頑張れよー!」
「ミケル参謀、よろしくお願いしますぜ!」
其れ等の声援に、手を振りつつ我々はそれぞれの乗り物に乗り込んで行く。
大半の者は、軍馬や戦闘用の馬車だったりだが、軍団の中央には守護機士【アテナス】を積んだ専用キャリアーが、完全に元の機能を取り戻して人が運転する形で自走しているし、周囲にはPS10機が並走している。
更に後方には、30台のトラックが続いていて、その荷台には大量の物資が載せられている。
此の30台のトラックは、従来の大型馬車の荷台を牽引する駆動装置を、母艦の【天鳥船】から取り寄せて、希望者による運転訓練を此の2ヶ月間させる事で実用化した物だ。
傭兵達には非常に人気で、希望者が殺到したので交代交代運転させてみたら、その郊外でのトラックの走行を見た元大公国軍だった捕虜や、一般市民達から傭兵団への入団希望が殺到すると云う、想定していなかった事態まで起こってしまっていた。
そんな軍団は、街道筋を順調に進軍して行き、街道を行き交う商人や近郊に住む人々の耳目を集めながら、昨夜夜襲した討伐軍と称する大公国軍3万の陣地に辿り着く。
当然ながら、かなりの距離から我々の軍団の進軍は、敵側も把握していただろうが、歩哨を立てている様子もなく、駐屯地はまるでお通夜の様に静まり返っている。
そんな様子の駐屯地の中心地にある、討伐軍の中枢である司令部の天幕前で、司令官と思われる男とその幕僚らしき奴等が、周囲に居る兵士達に対してがなり立てているが、一向に兵士達はやる気を見せずに億劫そうに司令官達を見ているだけである。
そんな様子を確認し、PS5機が駐屯地に抵抗も無くアッサリと侵入し、怯えきった様子を見せる司令官達をそのゴツい手で掴み上げた。
「な、何をする?!」
と喚き立てている様だが、其れ等を一切無視して司令官達を連れ去り、駐屯地の外に待機していた鉄格子の荷台を持つトラックに放り込むと、そのまま国境の砦にある捕虜収容所に向かわせた。
さて、ここからが本番だ。
駐屯地の前に我々は集合して、ある程度の威圧を大公国軍に与えつつ、ラング団長が専用キャリアーの上に立ち拡声機能を持つマイクで彼等に呼びかけた。
「大公国軍に告ぐ、見ての通り君等の司令官とその幕僚達は我々に拘束されて、このまま国境の砦にて捕虜となる。
君等も我々によって武装解除されて、一旦は捕虜として扱われるが、司令官達と違い君達がイヤイヤながら従軍して来た事を我々は把握している。
よって君達は司令官達と違い、一旦は捕虜収容所に入るが、希望や志望を聞いた上で取り扱いは直ぐに捕虜では無くなる。
ただ、簡単には自由にさせられないが、幾つかの仕事に従事してもらい、それを熟せば自由を与えられる事を保証する!
君達も大凡気付いているだろうが、現在の大公国は大公を拘束して実権を奪った奴等によって、今迄の政治体制を蔑ろにした運営がまかり通っている。
我々は、その現状を憂い、義によって立ち上がったのだ!
出来れば君達も我々と同じ義憤を持ち、元の平和な大公国を取り戻す事を誓って行動を共にして貰いたいと願う!」
そう締め括り、ラング団長がマイクを置くと、元気が戻ったらしい大公国軍の兵士達が、結構な数で武装解除した上で我々に駆け寄って来た。
さあ、色々と確認した上で、仲間として迎えられる兵士がどれだけの人数になるかな?