第一章 第56話 大公国内乱② 【アンジェリカ・オリュンピアス】視点
◇◇◇【アンジェリカ・オリュンピアス】視点◇◇◇
今から3ヶ月前に、ヴァンの提案により私は、己の素性と立場、そして今後の指針を皆に明かす事にしたわ。
先ずは気心が知れて居て、信頼の置ける仲間である傭兵団【鋼の剣】の、全員に私の全てを明かしたの。
皆はこんな事をいきなり聞かされて、当初は困惑しっぱなしだったけど、両親の死と公国が占領された上に、遠征先で騙し討ちを味方の軍勢諸共に喰らってしまい、何とか落ち延びたくだりを説明していると、傭兵団の奥様方が私に同情してくれて、涙を流しながら私とリンナそしてリンネを抱きしめて慰めてくれたわ。
そして私だけでは無くて、リンナとリンネ、アンナとミレイの話しを聞いてくれて、傭兵団【鋼の剣】の皆さんは全員が憤ってくれたの。
何故かと言うと傭兵団【鋼の剣】の皆さんも、先日の王国軍による守護機士【アテナス】を駆動させるにあたり、無理矢理に私とリンナそしてリンネの父である、オリュンピアス公爵を死体であるにも関わらず、起動キーとして利用して駆動させていた事実を把握していたので、人間としての尊厳を無視した王国軍の遣り様に憤慨していて、王国軍に奇襲を受けたオリュンピアス公国を気の毒に思ってくれていたの。
お陰で、その後の私とヴァンの提案に対して、最初から前向きに検討してくれたわ。
その話の過程で、とうとうヴァンの正体を皆に知らせる事になったの。
つまり、ヴァンが過去に5回降臨された、【星人】の再降臨であると云う事実・・・。
だけど、意外な事にヴァンが【星人】であると云う事を、皆に告げても全然驚かれ無かったの。
寧ろ、”そうだろうな”といった具合に、凄く納得されてしまったわ。
正直な処、此れまでヴァンが示して来た実績は、只の商人では有り得ない事だらけだし、それにヴァンが【星人】であると云う事実は、味方にとっては此れ程都合の良い話しは無いわ。
何故なら、過去5回降臨された【星人】は、尽く味方した人々を救い、敵対した者達は因果応報の報いを受けたと云うのが、遥かな過去から子供の寝物語でも伝わって来た伝承なのだから、ヴァンに対して良い印象こそ有れ、悪意を持つ理由が無いわ。
そして、此の私とヴァンの正体を明かした事で、最早秘密として自制していた技術提供や、文化面での自制をする必要が無くなり、ヴァンはその信じられないレベルでの技術を余すこと無く提供してくれた。
先ず、ヴァンが手をつけたのはインフラ整備。
国境の街【ドラド】の主要な道路に鉄人形とそっくりの、人形を千体母艦から降下させて、道路の路面をアスファルトと云う凄く頑丈な代物に変えたの、その際に人形が使用していたのが、諸々の種類の重機という非常に役に立つ存在!
此の重機と云う魔導具は、穴を空けたり土を運んだり、はたまた高所に鉄を吊り上げたりと、大活躍をしているの。
そんな凄い魔導具が働き始めたので、仕事を失いかけた今迄建築関係を仕切っていた職人ギルドには、人形を管理監督させる権限を与えて、職人はあくまでも命令する側に立たせて、人形を手足として運用させる様にしたわ。
お陰で、身体が動かなくなって仕事が無くなっていた年老いた職人達も、経験を活かした現場監督として雇用されると云う、二次的な効果も生み出したわ。
それは、他の分野でも行われたの、農地や牧草地でも種類の違う重機が活躍し始めたの。
農地や牧草地の雑草刈り、収穫物の刈り入れ、狼や熊そして鹿等の作物を荒らす、害獣対策の為の柵の設置なども、重機とそれを扱う人形が大活躍なの。
お陰で農民や畜産農家は、農産物の選別や状態の確認、牛や豚そして鶏の健康状態チェック、出産の手助け等をするだけで良くなったわ。
当然そういった状況になると、農地や牧草地の拡大、牛や豚そして鶏の頭数や羽数の拡大が出来て、国境の街【ドラド】の食用事情は、大幅に改善されたの。
食用事情が大幅に改善されれば、当然商人達は余裕が出来た農産物と食用肉を、他の街に余剰分を販売して行ったわ。
そうなると、国境の街【ドラド】は非常に潤っていて、職も食も沢山有ると噂が立って行ったの・・・。
すると、他の街で仕事が無くて困っている貧困層や、親が居なくて食べ物にありつけない子供達、病気や怪我で仕事を無くした者達が、押し寄せる様にやって来たわ。
そんな人達を、商業管理統括官及び兵站管理統括官を兼ねている元商会ギルドの会頭【サムス】は、自分の商会に一旦全員雇用して、それぞれの向き不向きの職を斡旋して、人材派遣を一つの軸とした新たな【会社】と云う組織を立ち上げて行ったの。
此の組織の立ち上げも、ヴァンが色々と指導したお陰で出来たので、益々【サムス】さんはヴァンに傾倒して行ったわ。
私も、ヴァンから色々と学ぶ事が多いの。
此れからオリュンピアス公国を再建するにあたって、国を円滑に運営して行くには、従来よりも住みやすい国家にしなければ、現在辛い目に合っている公国民に申し訳が立たないと思うの。
そんな私の意気込みに釣られて、アンナとミレイ、更には妹のリンナとリンネも、一緒にヴァンから色々と学んでいるわ。
きっと、生まれ変わったオリュンピアス公国は、素晴らしい国家にして見せるわ!