第一章 第55話 大公国内乱①
首都からの布告が、大々的に大公国全土に発布された!
内容は、
「不埒なる反逆者達が立て籠もる国境の街【ドラド】に対して、大公国は【クラウス・オリンピア】大公の名を以って、討伐軍を派遣する事と決定した。
此の叛徒共に対して、協力或いは協賛の立場を取る者には、大公国は断固たる措置を取る事を此処に明記する。
大公国国民は派遣される討伐軍の為に、便宜を図るべく行動せよ」
といった物で、我々を絶対に許さないと云う意気込みを感じざるを得ない。
「・・・本当なら大公国としては、此の国境の街【ドラド】に対して物流を止めて、干上がるのを待てば良い筈だったんだが、3ヶ月経っても全然平気だから予定が狂ってしまい、力づくの解決を図らなければならなくなったんだろうな・・・」
随分とのんびりとした調子で、ラング団長は代官の応接室に設けられた作戦会議で発言した。
「それはそうだろう、まさか今迄は物流の拠点であって、消費地域としての特性が大きかった地域が、圧倒的な農業と畜産の産地になって居るなど、想像出来なかっただろうからな」
そう発言したのは、元商会ギルドの会頭【サムス】である。
彼は、とても大公国に於ける首都の商会ギルドから切り離されて、一介の商人に格下げされた人物とは思えぬ程に、余裕そうな調子で此の作戦会議に出席していた。
それもその筈で、彼は現在は国境の街【ドラド】に於ける、物流と補給のエキスパートとして、事実上の商業管理統括官及び兵站管理統括官を兼ねている。
その彼にして、現在の国境の街【ドラド】は食料と物品に於いて、俺達が此処に来る前までと来てからでは充実度に於いて格段の差が有り、此の状況なら3年籠城しようと余裕で運営出来ると豪語しているのである。
その理由は、俺が提供した【神樹】による所が大きい。
【神樹】は、此の国境の街【ドラド】の中央広場の空き地に、俺が嘗て立ち寄った【植物惑星】の中心である【宇宙樹】から提供された、【神樹】の苗を根付かせる事で見事に育った存在だ。
此の世界には、【神樹】とよく似た存在である【世界樹】があり、その葉は一枚で死者すら蘇ると言われる程の生命力を誇り、その近くに居るだけで病気や怪我が治ると言う噂すら有る。
実際には、【神樹】は【世界樹】では無いので其処までの効能は無いのだが、【神樹】を根付かせる事で、国境の街【ドラド】を覆い尽くすエネルギー・フィールドが常時張られていて、【神樹】から溢れ出る清水は清浄な泉を作り出して、其処から汲まれた清水を使用すると、たちまち農産物を始め畜産農家からは感謝の言葉が上がって止まないと云う報告を受けている。
「そうですね、ヴァン殿から提供された【神樹】のお陰で、兵士達も昔からの病気や怪我から解放されて、十二分に戦える様になったと豪語する迄になりました!
此れも全て、【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下がヴァン殿へお願いされたお陰です。
御二方には、感謝してもし足りないと感じております!」
そんな事を、現在は【ドラド】兵員指揮官となった元守備兵司令官【ギネス】が、俺とアンジーに頭を下げながら言って来た。
「全くだ! ヴァン殿と【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下のお陰で、此方の陣容は格段に充実している!
正直、討伐軍として派遣される大公国軍の連中が気の毒で仕方が無いぜ!」
そう応じたのは、立場こそ変わらないが、率いる人数が圧倒的に多くなった、傭兵団【鋼の剣】の団長であるラング団長その人だ。
彼と彼の率いる傭兵団【鋼の剣】は、戻って来た元の仲間や近隣の街の傭兵団や冒険者等を組み込んで、純粋な傭兵集団は千人程と冒険者等の準傭兵集団を5百人を組織して、アンジーと正式に雇用関係を結ぶ事で、事実上のオリュンピアス公国の兵隊として組織された。
何故此の様に、今迄秘密にしていた真実をある程度明らかにして、正式に雇用関係を結んだかと言うと、秘密にする事が不可能になったある事実があった・・・。
その事実とは、アンジーとリンナそしてリンネしか、守護機士【アテナス】に乗れないと云う事実である。
守護機士とは、国家に於いて最強の戦力であるが、それ故に国家のシンボルであり、大抵の国家では王族かそれに連なる者しか、守護機士のパイロットとして登録出来ず、ついでに言うと守護機士のパイロットとして登録出来なければ、王にはなれないのだ。
此の不文律こそが、此の世界に於ける常識であり、守護機士【アテナス】のパイロットであると云うことは、オリュンピアス公国の正式な王族である事を意味する。
此の事を否定する事は最早出来ないので、いっその事認めた上で諸々の事情と立場を明かし、今後の事も含めて関係者全員で考えようとの結論が出たのだ。
関係者全員で考えて出た結論は、一旦、完全に大公国とは決裂してしまう形となるが、そもそも今現在大公国を主導している連中は、とても本来の大公を中心とした従来の指導部とは思えず、然も何の説明も無く各地の領主を首都に監禁し、あらゆる知識層の人間も同じく監禁した上に、王国軍が攻めて来た際には、此れと連携して此処国境の街【ドラド】を攻めて来た。
此の事実を鑑みて、残っている領主の家族と委任された代官は、【クラウス・オリンピア】大公の孫娘にしてオリュンピアス公国の正式な王族である【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下に忠誠を誓い、大公やその家族を蔑ろにして実権を奪っている奸賊どもを打倒して、本来の【オリンピア大公国】を取り戻す事に全力を尽くす事になったのである。
そして俺は、【アンジェリカ・オリュンピアス】公女殿下の協力者にして、【星人】である事を上層部の連中にだけだが明かしている。
そう、つまり国境の街【ドラド】は一旦、アンジェリカ・オリュンピアス公女殿下の領土となり、住民10万人はオリュンピアス公国の国民となった。
オリュンピアス公国が王国に占領されて1年・・・、漸く俺とアンジーはオリュンピアス公国復活の狼煙を上げたのである。