第一章 第50話 国境の砦での戦闘⑬
俺は、守護機士【アテナス】に向けて突進し、そのままの勢いで跳躍した!
それに対して守護機士【アテナス】は、弱冠よろめきながらも牙を向くように正面から飛び掛かる。
守護機士【アテナス】の右前足が、俺の駆る強化PSを引き裂こうと振り下ろされて来るのを、アポジモーターの噴射で下向きに躱し、守護機士【アテナス】の右前足を抱え込んで、一本背負いの要領でそのまま地面に叩き付ける!
ドガアー!
凄まじい土煙が上がる中、俺は強化PSの体勢を立て直して、両腕外側に装着している電磁掘削抗を、守護機士【アテナス】の操縦席に向けて突き出した!
ズドンッ!
かなりの衝撃を操縦者に与えた筈だが、守護機士【アテナス】は徐ろに起き上がると、翼に纏わり付かせていた魔力で出来た羽根を、全身を包む繭と変化させて、その状態で後方に逃げるかの様に動き出す。
(此処まで来て、逃がす訳にはいかない!)
俺は既に限界で軋み始めた強化PSを無理矢理に動かし、守護機士【アテナス】が逃げようとしている方向の正面に向かい、ある構えを取る・・・。
それは、あまりにも真っ正直な右拳を後方に引き、左手を前に突き出した構え、俺のライブラリーで学んだ武術、【空手】に於いての攻撃技【正拳突き】の構えだ。
そのどんな素人でも判るあからさまな攻撃の構えなのに、守護機士【アテナス】は真っ直ぐに突進して来る・・・。
(良し!)
俺は、強化PSの両足を、地面を噛む様に踏み込ませて、足元から昇る様に練られて行く螺旋の回転力を、完全に強化PSの右拳に収束させる。
(此の一撃に全てを込める!)
その覚悟をも込めて、守護機士【アテナス】の突進を待った。
そしてやって来た守護機士【アテナス】の突進の中心に向けて、何のフェイントも存在しない【正拳突き】が炸裂する・・・。
ドゴッ!
その鈍い音が鳴り響き、双方が動きを止めてその場に立ち尽くしていたが、やがて俺の乗る強化PSの右腕がもげて落ち、続いて腰の辺りから上下にズレる様に上半身と下半身に強化PSは別れて行った・・・。
(・・・やはり・・・、保たなかったか・・・)
そう独り言ちしながら、俺は壊れてしまった強化PSから抜け出し、動きを完全に止めた守護機士【アテナス】に近付いて行き、背部に有る操縦席の強制開閉装置を作動させた・・・。
プシューと云う気密が抜ける音とともに、操縦席は開け放たれたが、暫く待ってもパイロットは出て来ない。
(・・・やはりな・・・)
あのとんでもない機動は、俺では無い普通の人間が耐えられる筈もなく、俺が操縦席を覗いてみると、シートベルトこそ装着していたが、パイロットは首や手足があらぬ方向に曲がっていて、おそらく凄まじいGでシェイクされた事が判った。
そして、疑問であった二人のパイロットと云う探査結果の理由も判明した。
もう一人のパイロットとは、操縦席の後ろ部分に固定されている、カプセルに入れられている人物であった。
そして、此の人物の正体も推測出来る・・・。
「・・・貴方がアンジーとリンナそしてリンネのお父上なのですね、オリュンピアス公爵殿・・・」
そう、カプセルに入れられている人物とは、アンジーとリンナそしてリンネのお父上、オリュンピアス公爵その人であった・・・。
但し、当然生きてはおらず、守護機士【アテナス】の認証を欺く為にだけ、オリュンピアス公爵は操縦席に固定されていたのだ。
そして正規の操縦席には、王国軍人が着席し操縦していた様だが、当然無理矢理に操縦していたから、まともに移動出来ずに遠距離攻撃を繰り返していた訳だ。
そしてそのまま捕獲されてしまいそうになり、守護機士【アテナス】は己の自己防御機能により、無理矢理の高機動を行った様だが、あくまでも認証されていたパイロットとは、オリュンピアス公爵なので彼の安全は図られた様だが、正規パイロットでは無い王国軍人の安全は図られ無かったと云うのが真実なのだろう・・・。
俺は、オリュンピアス公爵と無茶苦茶になった王国軍人のパイロットを、操縦席から降ろして、亜空間を開けて其処に入れて置いた。
そして、肝心の守護機士【アテナス】に対して母艦とのリンクを測る為に、幾つかの装置と壊れた部分を補完する為の、流体金属を問題の有る箇所に補填して置いた。
漸く、全ての処置を終えたタイミングで、俺が戦った戦場から相当離れた場所から、「おおおーーー!」との怒号が上がり、[ヘルメス]からのデータで此方の傭兵達を主軸とした軍勢が、残存王国軍を殆ど損害無く倒した事が判った。
(さて、後は動きの怪しい大公国軍が、どう動くかだな)
そう思いながら、守護機士【アテナス】から降りて、頑張ってくれたが大破してしまった強化PSに俺は歩み寄る。