第一章 第49話 国境の砦での戦闘⑫
俺は注意を最大限に払いながら、守護機士【アテナス】に近付いて行き、至近距離での探査を行った。
すると、今迄は守護機士【アテナス】の保持する防御魔法で出来なかった探査が、魔力をかなり失ったらしくて相当なレベルで可能になり、コックピットの位置とある程度の中身も把握できる。
コックピットには、何故か二人のパイロットが存在する様だが、一人は動いている事が判るが、他のもう一人は微動だにしない。
二人のパイロットである理由は判らないが、何れにせよ守護機士【アテナス】は、俺の準備した罠である重力制御をある程度の範囲で行う【重力コア】により、身動き出来ずに戦闘行動が行えない所まで追い詰められた様だ。
「・・・守護機士【アテナス】に乗る操縦者よ、どうやら身動き出来ない様だな。
どうだろう、操縦席から出てきて戦闘放棄するなら、貴方方の生命と待遇は保証するから、大人しく投降してくれないか?」
そう操縦者に向けて勧告したのだが、一向に操縦者は操縦席から出て来る様子が無い。
「・・・致し方ない、無理矢理にでも操縦席を開けさせて貰う・・・」
そう宣言して、俺は守護機士【アテナス】の正面に強化PSを近寄らせて肩口を腕部で固定して、俺自身が外に出て背部に有る操縦席への乗り込み口に向かった。
必死に守護機士【アテナス】動かそうとしているのか、操縦席内の動ける操縦者が、我武者羅にレバー等を力づくで引っ張っているのが、脳裏に映る探査状態で把握出来る。
(・・・往生際が悪い奴だな・・・)
やや呆れながら、俺が外部に有る強制開閉装置に手を掛けた瞬間、守護機士【アテナス】が一気に振動し始めた!
(ムッ)
異変を感じた俺は、直ぐにその場から飛び退いて強化PSに乗り込むと、守護機士【アテナス】から強化PSを後退させて、それなりの距離を取らせる。
守護機士【アテナス】の振動は、徐々に激しさを増して行き、いきなり四つん這いになった状態のまま、四肢が変形した!
次に顔の部分がくるりと回転して後頭部が前に向くと、突然前方を向いた後頭部がせり出して来て、中から獅子の面が現れた!
そして守護機士【アテナス】の髪と思われた物が、獅子の鬣に変貌すると、変形した四肢も太い物になり、更には背中から翼の様な物が展開されて、魔力の羽根を拡げた!
(・・・こ、此れは・・・?!)
今迄とまるで形を変えた守護機士【アテナス】は、正に獰猛な獅子と呼んで良い姿形になり、全身から灼熱した様な炎の魔力を纏っている。
バスンッ!
【重力コア】が限界に達して機能停止した事で、変形した守護機士【アテナス】を阻むものは無くなり、赤光に輝く両の瞳は俺の乗る強化PSを睨めつける。
ガアッ!
といった咆哮が上がり、一気に距離を詰めて来た守護機士【アテナス】を、ギリギリで躱して、俺は推進装置であるバーニアとアポジモーターを駆使して空中に駆け上がった!
その後を追って来た守護機士【アテナス】は、その身体毎ぶつかって来る動きを見せて、俺の乗る強化PSを追い続けて来た。
(やるな、相当な機動力だ!)
空中でのデッドヒートを繰り返しながら、俺はタイミングを測ってカウンターの攻撃を行う。
しかし、光学兵器を喰らおうと、マイクロミサイルを諸に喰らおうと、全身から灼熱した様な炎の魔力を纏った守護機士【アテナス】は、とても人が乗っているとは思えない程の機動を繰り返し、俺を追い詰めて来る。
(・・・此れは覚悟を決める必要が有るな・・・)
そう決断し、俺は強化PSに幾重にも施していた限界制御を、解除する・・・。
フイーーーーンン!
能力全開で駆動させ、エネルギー効率を完全に無視し、母艦との亜空間接続に頼り切る形で、強化PSに掛かる圧倒的な負荷も度外視した!
「うおおおおおおおーーーー!」
俺は、気合いを込めた声を上げて、ハイパーリンク機能を起動させる。
ハイパーリンクとは、俺の身体と強化PSを仮想的に神経接続する事で、俺とほぼ同等の身体能力を強化PSが持つことになり、俺の武術が限定的ながら使用できるのだ!
次の瞬間、迫ってくる守護機士【アテナス】を、擦り抜ける様に交差しざま、背中越しに【鉄山靠】を叩き込んだ!
【鉄山靠】・・・俺の故郷である【惑星アース】に伝わる武術、【八極拳】の技の一つであり、正式名称は貼山靠といい、本来は《並足を揃えて膝で軽くしゃがみ、踏み出して敵の足を引っ掛けて下方向に向かって背中で体当たりする》のだが、空中機動中にはバーニアとアポジモーターの適切な駆動で、ハイパーリンク機能を起動していれば可能な技である。
此れを諸に喰らった守護機士【アテナス】は、もんどり打って地面に叩き付けられ、ヨロヨロといった様子で立ち上がる。
(・・・さて、早い内に勝負を決めようか・・・)
限界時間が迫るハイパーリンク機能を思い、俺は守護機士【アテナス】に向かい突進して行った。