第一章 第48話 国境の砦での戦闘⑪
最初の一手は、我々の砦側からの遠距離攻撃から始められた。
王国側も警戒している、投石器とカタパルトによる砲丸と、大岩での物理的な攻撃である。
当然ながら、此れには意味が有って、アンジーの守護機士【アテナス】の防御能力説明から、王国軍側が真の意味で守護機士【アテナス】の能力を引き出せているかを、確認する為に必要な作業だ。
狙い違わずに激突した砲丸と大岩だが、守護機士【アテナス】は小揺るぎもせずに立っている。
次に、遠距離魔法攻撃を各種類に分けて放って行く。
すると、守護機士【アテナス】の手前で遠距離魔法攻撃は、雲散霧消してしまい、何の被害も存在しなかった様だ。
此の事から、一応、守護機士【アテナス】はアンジーの予想通り、基礎防御能力が発動していて、通常の攻撃では何の痛痒も与えられない事実が確認出来て、基本動作も問題無く出来そうだ。
我々の確認攻撃が終わると、ゆっくりとした動きで、守護機士【アテナス】は身体の胸部に有る外装がスライドして、何やら砲口の様な物が見えて来た。
(あれが、【ブラスト・キャノン】か!)
その砲口が段々と赤くなって行き、正視出来ない程になった瞬間、灼熱した様に赤い光線が、砦の壁面に突き刺さった!
ドゴゴゴーー、ゴガガガーー!
かなりの防御魔法を幾重にも施していたにも関わらず、砦の壁面は防御魔法を貫かれて、頑丈に作られた壁が一部崩壊してしまう!
幸いな事に、守備兵や傭兵達が配置されていない箇所の崩壊なので、恐らく人的被害は軽微だろうが、このまま攻撃され続ければ、被害は拡大し続けてしまい、やがて人的被害も深刻なものになるだろう・・・。
(・・・些か早いが、出撃するべきだろうな・・・)
そう判断して、俺は伏せていた焼け野原の塹壕から、強化PSを飛び出させて、そのまま光学兵器を連射した。
真横からの光学兵器による連射攻撃を受けても、特に胴体を動かさずに守護機士【アテナス】は頭部のみを動かして此方を視認しようとして来る。
それに対して、俺は推進装置であるバーニアとアポジモーターを駆使して視認させないまま、マイクロミサイルをオプショナルパーツとして背中に積んでいるミサイルポッドから一斉射する。
ドガガガガガガーーー!!
その連続爆発を起こして、守護機士【アテナス】は煙に包まれて行き、視認が益々難しくさせた。
(・・・此れでも動かなければ、幾つかの推理が当たっている事になるな・・・)
これだけ攻撃を受けながらも、一切動こうとしない守護機士【アテナス】を見て、アンジーからの言葉が思い出される・・・。
「本来の守護機士【アテナス】は、守護機士の中でも軽量級の存在で、俊敏な動きで敵を翻弄しつつ、至近距離に近付いて剣を叩き付けながら、相手が隙を見せたら胸部に有る【ブラスト・キャノン】でとどめを刺すのが、定番と言って良い攻撃方法を得意としていて、その為のパターンが幾つも用意されている。
もし、その攻撃パターンを取らなかった場合は、守護機士【アテナス】は不完全な状態と断じて良いと思えるわ!」
アンジーの言葉を反芻し、俺は次の行動に移る。
それは予め準備していた、罠の発動である。
守護機士【アテナス】は、俺の乗る強化PSによる攻撃を受けながら、身体の正面に存在する砦に対してのみ、【ブラスト・キャノン】を続けて撃っているのだが、その威力は初弾のみ凄まじかったが、2弾目からは何とか防御魔法で防げる程度の威力しかない状態だ。
(ならば、此の罠にはまともに対抗出来まい!)
その罠とは、《植物》。
土中に予め埋めていた罠とは、例の【植物惑星】の神樹から譲られた技術の一つで、対象に対して夥しい数の蔦を伸ばして、対象の一切の動きを封じながら締め上げて行き、完全に対象の自由を奪ってしまう代物である。
守護機士【アテナス】は、四方八方の土中から吐き出される様に出現する蔦に対して、腰に挿していた長大な剣を上半身の動きだけで抜き放って、纏わりつく蔦を斬りまくる。
暫くの間、上半身の動きだけで守護機士【アテナス】は、長大な剣を振り回して蔦を斬りまくっていたが、やがて腕に纏わりつく蔦が増えて行き、身動きが徐々に緩慢なものになって行った・・・。
(ふむ、もしかすると此れで終わりかな?)
些か不満に思いながら、俺は守護機士【アテナス】に近付こうとした瞬間、突如守護機士【アテナス】が全身から白熱した炎を吹き出した!
ゴオオオーー!
その炎は、守護機士【アテナス】の全身を包み、これ以上蔦を使用した全身拘束が不可能になった事が判る。
(それでは、罠の第二弾だ!)
砦から牽制の為の攻撃魔法が守護機士【アテナス】に降り注ぐが、全て守護機士【アテナス】の全身を包む炎が攻撃魔法を無効化する。
その間に、俺は罠の第二弾を発動させる。
守護機士【アテナス】の注意が砦に集中したタイミングを測り、俺は焼け野原に満遍なく施していた、重力コアの過重モードを起動させた。
ズシン!
音を立てて守護機士【アテナス】の手から、長大な剣が滑り落ちて地面にめり込んでしまい、そのまま膝を折って守護機士【アテナス】は地面に手をついた。
(さて、まだ抵抗するかな?)
じっと様子を窺いながら、俺はゆっくりと守護機士【アテナス】に近付いて行く・・・。