第一章 第46話 国境の砦での戦闘⑨ 【アンジェリカ・オリュンピアス】視点
◇◇◇【アンジェリカ・オリュンピアス】視点◇◇◇
何とも複雑な気持ちを、此の3日間ずっと味わい続けている・・・。
私の愛機にして【オリュンピアス公国】の守護神である、守護機士【アテナス】が王国軍によって、此の国境線の砦に向かって来ているのだそうだ。
本来、守護機士【アテナス】は公国の神殿に鎮座していて、日頃は参拝する公国民や観光客が観覧出来る様にしてあったの。
どうしてそんな目立つ場所に置いておいたかと云うと、現在は私しか守護機士【アテナス】には乗れないので、他の人が乗ろうとしても魔法のバリアーが張られてしまい、至近距離には私以外近付けないの。
なのに、現在、王国軍は守護機士【アテナス】は、専用のキャリアーに載せて運ばれているらしいの。
恐らく、王国軍は何ならかの手段を講じて、私以外近付けない守護機士【アテナス】による魔法のバリアーを、解除してしまったのだろう。
私以外の公国出身のアンナとミレイ、そしてリンナとリンネの妹達は、悔しげな顔をしているが、それ以外の大公国民である、傭兵団の面々は恐怖の顔で表情を強張らせているわ。
(・・・無理も無いわね・・・、守護機士を所有する各国は国の威信でもある、守護機士の威力を誇示する為に、定期的に守護機士の力を一般民衆にも公開していて、私も年に2回は巨大な魔獣を守護機士で狩って見せたり、巨大な土人形を相手に対戦して見せたりしていたわ・・・)
つまり、決して人では抗えない絶対的な力として、民衆に示していたのだから、心の根底から守護機士には逆らえないと叩き込まれているわ。
だけど、此の場にたった一人、周りの恐怖一色の顔と雰囲気に染まらない、漢が居るわ!
その名は、【ヴァン・ヴォルフィード】!
私が信頼する【星人】にして、知る限り最強の武人だわ!
皆が意気消沈している中、彼は、堂々とした態度で、幾つかの提案を皆に話し始めたの。
「皆が、絶対的な力を持つ守護機士を持ち出されて、絶望的な気分になっているのは良く理解しているが、だからと言って抵抗を諦める訳には行かないのも、皆は判っているだろう?
ならば、我々は対抗しなければならないのだから、その為の作戦を練ろうではないか!
俺には幾つかの提案する作戦がある!
先ずは、此の守護機士【アテナス】は、そもそもオリュンピアス公国の守護神であり、従来の王国の守護機士だった訳では無くて、あくまでも接収した代物だと云う事。
そして、各国の守護機士には固い封印が施されていて、簡単にその封印は解けない上に、動かせる人物は限られる。
もし、其れ等を全てクリアしたとしても、当然、此の短期間で守護機士の習熟訓練等は出来なかったと思われる。
何故判るかと言えば、守護機士【アテナス】は、専用のキャリアーに載せてかなりの数の牛に押されて運ばれている事実だ。
その遅さは本来馬であれば、数日の内に往復出来る距離を、ゆっくりとしたペースでしか進んでいない。
守護機士とは、魔石での魔力充填を行う事で、かなりの時間の稼働時間が有るのが確認されていて、殆どの守護機士は全高10メートルの大きさに相応しいスピードで移動出来る事から、十全の能力を引き出されているなら、とうの昔に此の国境の砦に到達している筈だ。
以上の事を踏まえると、守護機士【アテナス】を王国は使い熟せないと推測出来る。
なので、対抗出来る手段は有ると俺は考える。
つまり、本来なら弱点では無い戦闘に掛かる時間は、現状での守護機士では色々な不備を引き起こし兼ねず、更に本来は使用できる筈の遠距離攻撃も使い熟せない可能性すら有り得る。
だから、想定される戦場にありとあらゆる罠を敷設し、離れた場所からの遠距離攻撃をひたすら繰り返す事で、臨時のパイロットと思われる人間に消耗を強いる事で、守護機士は稼働出来なくなると思われるのだ。
その為にも、俺は守護機士を引き付けて対峙出来る、俺の切り札を切る事にした!
その切り札とは、超人形!
人が乗り込む事で、あらゆる能力が従来の人形を遥かに超えた、超高性能の機体!
遠距離攻撃においても、圧倒的な火力を持つ。
此れならば、守護機士相手でもかなり食い下がれると確信している。
此の機体を中核として、遠距離攻撃を主体とした、作戦案を此の資料に纏めて置いた、是非、目を通して議論して頂きたい!」
ヴァンが珍しく長広舌を述べてその内容に皆が圧倒される中、砦の中庭からどよめきが上がって来たわ。
「どうやら、届いた様だね」
そうヴァンが言うと、中庭から守備兵が報告して来たの。
「傭兵団【鋼の剣】の者が、非常に珍しい形の人形を連れて参りました!
如何致しましょうか?」
その報告に接して、皆が顔を見合わせて、全員で中庭に向かう事になったわ。
中庭に辿り着き、いざその人形を観察しようと臨んだら。
その人形は自立しており、上半身が開いた形になっていて、明らかに人が乗り込む事が前提の非常に珍しいタイプだわ。
「此の超人形こそが、俺の切り札だよ。
早速乗り込んで見せようかい?」
ヴァンは、珍しく自慢する様に述べてから、徐ろにその人形に歩み寄って行ったの。
私は、密かに心のなかで戦慄していたわ・・・。
ヴァンが己の持つ圧倒的な星人の実力を、嘗ての星人の遺物を相手に振るおうとしていると云う現実に・・・。