第一章 第44話 国境の砦での戦闘⑦
昨夜の大公国軍に所属する無法者達による襲撃を、襲撃に参加した無法者達全員を完膚なきまでに殲滅し、幾人かの代表格の無法者を捕虜として、言質をとるべく拷問に掛ける事にした。
まあ、大公国軍は代表の【ゾング】将軍をはじめ、無法者達が大公国軍に所属していた事実を認めないだろうが、俺が得ている無法者達が大公国軍に所属していた事実を示す、動画や証拠はいずれ真実を満天化に明かす際には、この上ない武器となるだろう。
朝になり、被害の確認をそれぞれの戦場で行ったが、殆ど被害が無くて我々の作戦が万事うまく行った事が判明した。
火魔法で燃やした範囲は想定通りで、延焼させない様に後処理に利用した水魔法で、一切他の場所への被害は無かった。
そして、朝の内に街の住民へは布告と放送によって、大公国軍に所属していた無法者達が、畜産農家と倉庫群を狙い襲い掛かった事実を伝え、その無法者達は全て殲滅した事も併せて放送した。
当然ながら街の住民は、本来味方の筈の大公国軍が救援では無く、自分達に対して牙を向けてきて、王国軍と連動して更に襲い掛かって来る可能性が有る事を知り、当惑しながらも自分の家族を守るべく隣人や職場の者達と共に、現実に自分達を守ってくれた守備兵や傭兵団【鋼の剣】に対し、協力する旨と応援の意志が代官の居る役所と各ギルドの上層部に届けられる。
正午頃になり、俺と代官達は軍使として、昨日と同じ大公国軍の駐屯地に向かい、昨夜の無法者による畜産農家と倉庫群を狙った襲撃が行われた事実と、その無法者達の首領達を捕らえて尋問した処、大公国軍の指示で動いたとの言質が取れた事を、ゾング将軍とその幕僚達に伝えた。
案の定、ゾング将軍とその幕僚達は、無法者達との関係を認めないどころか、一刻も早い街への駐留を求めて来た。
「申し訳無いが、こんな状況では物資の供給どころか、武装した兵士が街に入る事も現状では認められないし、付近の農地等にも近寄らないで頂きたい!
守らないのであれば、此方も相当な対処をさせて頂く!」
「無礼極まりない! 一介の代官ごときが大公直々の派遣軍に対し、命令が如き要請を発するとは!」
「無礼と申されるが、そもそも貴方方は私に対し、大公様からの命令書や要請文を昨日の場でも提示しなかった。
まさかとは思いますが、大公様の印璽のある命令書は無いのですかな?
有るのならば、此の場で見せて頂きたい!」
すると、苦々しい表情を浮かべながら、ゾング将軍の幕僚が箱に入れられた命令書を持ってきた。
その命令書を細かく確認した代官が、最後の部分の署名を確認すると、
「此れはどういう事ですかな? 本来大公様しか署名出来ない印璽部分に、宰相の確認印と署名しか存在しない。
此れでは、本物の命令書と私としては認められないし、そもそも貴方方を大公国軍と確認出来ない!」
「こ、此れは、大公様が体調を崩されているので、臨時の代理として宰相が発令した命令書だ。
何れ、正式な命令書が発行されるので、現状は此の命令書での指示に従って貰う!」
かなり苦しい言い訳をして来たゾング将軍は、苦虫を噛み潰した様な顔で此方を睨んで来る。
それに対して代官は、堂々とした態度で言い返す。
「それでは、正式な命令書が発行されてから、此方に示して貰いたい。
今は、未だ王国軍が近辺に存在しますし、如何なる欺瞞工作が行われるか見当もつきません。
完全な文書でしか、やり取りは出来ませんので、悪しからず」
そして、我々が駐屯地から退去しようとすると、突然、我々の前に大柄な兵士が立ち塞がり、進路を妨害して来た。
「其処を退いてくれないかな? 我々は街に帰らなくてはならないのでね」
俺がそう言って、代官の前に出て大柄な兵士に向かうと、大柄な兵士が、
「そう言わずに、駐屯地に暫く滞在してくれませんかね?
仲良くしましょうや」
とニヤけながら、俺の肩を掴もうとして来たので、俺が体を躱してその手から逃れると、身体が泳いでしまった大柄な兵士は、振り返りざま両腕で掴みかかって来たので、フワリとその肩へ手を添える様に動かしてやると、もんどり打って大柄な兵士は転がってしまった。
「何しやがる!」
怒気を孕んだ声音で大柄な兵士は起き上がり、今度は俺に殴りかかって来たので、今度はそれを流れる様に躱しざま、回転軸を逸らしてやって仰向けにひっくり返してやった。
周囲に居る兵士達は、大柄な兵士と俺が踊っている様にしか見えず、どう動けば良いのか当惑するばかりである。
いよいよ怒りが頂点に達したらしい大柄な兵士は、遂に腰に挿していた剣を抜き放ち振りかぶった!
それに対して、特に俺は構えもせずに自然体でいると、後ろから声が掛けられた。
「何をしている? 軍使の方々に無礼な事をするな!」
ゾング将軍の怒鳴り声を浴びて、大柄な兵士は渋々といった感じで剣を腰に戻して、我々の前から退いて行った。
「それではゾング将軍、此の駐屯地で暫くご健勝でお過ごし下さいね!」
そう代官は告げて、俺達は悠々と街に帰還して行く。
背後の大公国軍は、憎々しげに去っていく俺達を睨み続けていた。