第一章 第43話 国境の砦での戦闘⑥
街道を堂々と進んで来る救援軍と称する大公国軍は、特に緊張した様子も無く、国境の街の拓けた空き地付近に到達して来た。
それを迎える形での、代官達を代表とした軍使団の中に入らせて貰い、俺は大公国軍の司令部に向かう。
そして、天幕が用意された会見場で交渉が開始された。
先ずは代官が発言する。
「・・・既に報告している通り、現在、王国軍は国境からは追い払い、守備兵のみで砦は十分に守れております。
なので、此れ以上の増援は暫く必要は無いと考えます。
救援軍の代表たる【ゾング】将軍に置かれましては、街の郊外にて駐屯して頂きたく願います。
新たに5千人もの兵隊を駐留させる程、国境の街には兵糧や糧秣の備蓄は御座いませんので・・・」
そう提案した代官が着席すると、ゾング将軍と呼ばれた人物が口を開いた。
「それは納得致しかねる! 恐れ多くも我等救援軍は、大公様直々に派遣された軍であり、此の国境の街を守りに来たのだ。
当然、食料と補給品を供出するのは、大公国国民であれば義務である!
それに、守るべき街に入れないなど、あってはならない話しだ!」
やはり、想定通りの文言で対抗して来たので、幾つかの妥協案を提示して、談合を繰り返して行き、ある程度の提案を妥結出来た。
結局、今いる国境の街郊外の広大な空き地に、大公国軍は暫くの間駐屯する事になり、もし王国軍が再度攻め寄せて来て、救援が必要ならば砦に来城して貰う事になった。
だが、此れはあくまでも表向きの話しで、大公国軍は恐らく王国軍との連携で、砦を失陥させるつもりだろうし、此方は大公国軍の内幕を知る為に、俺は【ランドジグ】と【小型ドローン】を此の大公国軍が駐屯する広大な空き地に、隠蔽モードのまま、代官とゾング将軍の会談中に人知れずばら撒く事に成功した。
此れで、大公国軍が何か裏の行動を開始したり、王国軍との連絡内容も把握出来る様になるだろう。
案の定、我等との会談が終わると、ゾング将軍の指示が出て、例の無法者の集団が駐屯地を出て、国境の街の周辺にある薄暗い林の中に向かって行った。
指示の内容も、ランドジグのお陰で会話内容が聞けたので、夜間の暗闇に紛れて国境の街の周辺にある畜産農家や、倉庫群を襲う事が指示されていた。
然も、それは王国軍のスパイ等を行っている、偵察部隊がしている事にして、強引にでも明日中に国境の街に入る口実にする様だ。
ならば、予め準備していた通りに、国境の街の周辺にある畜産農家や倉庫群に居る、農民や従業員は街に居残って貰い、代わりに傭兵団【鋼の剣】の連中に偽装して貰い、対抗して貰う事にした。
夜間に襲撃する事が判明しているので、夕方までに配置を完了させて、襲撃に来る無法者達を迎え討つ体制を整え、用心の為に【大型ドローン】を隠蔽モードで、上空に滞空させて置く。
そして夜の10時頃に、無法者達は薄暗い林の中から密かに出て来て、畜産農家や倉庫群を狙い襲い掛かった!
「やれーっ! 容赦無く略奪しろーっ!!」
野盗の頭領と思しき男の声を受けて、100人程の無法者が畜産農家の敷地に押し寄せて来た瞬間。
ドザザザザーーー!
と、100人程の無法者は、次々に足を草の間で引っ掛けて躓いてしまう。
次の瞬間、火魔法が畜産農家にある農機具倉庫から放たれ、100人程の無法者は周りの枯れ草と共に、一気に炎に巻かれて火達磨と化し、暫くの間炎から逃れようとジタバタしていたが、やがて動かなくなったので、農機具倉庫から出て来たアンジーを始めとした傭兵達30人が姿を現し、水魔法を炎に向かって放つ事で、炎を消して行った。
「作戦通りに行ったわ。 後は後続がいないか確認してから戻りましょう」
とのアンジーの声を受けて、傭兵達は後始末を兼ねて、周囲の探索を行っていった。
一方、倉庫群には400人程の無法者が襲撃に来たが、60人の傭兵達をラング団長が率いていて、倉庫内に準備していた連弩とクロスボウで迎え撃つ!
ドドドドドッ!!
一気に解き放たれた、通常の矢より大きな矢は、次々と無法者達の土手っ腹を貫いて行き、後方に居た無法者達にも届き、手傷を負わせて行った。
「「「う、うわわわーっ! 痛え、痛えよーー!」」」
と阿鼻叫喚の大声を上げる無法者達に対して、アンナとミレイも参加している魔術師専門の部隊20人が範囲を上手に配分した【ファイアーボール】を、一斉に浴びせ掛けた!
ドゴゴゴゴゴゴゴッーーーー!!!
20発ものファイアーボールが、上空から襲って来たので、連弩とクロスボウを受けて、防御魔法も唱えられない無法者達は、400人も居ながら簡単に駆逐されて行った。
流石に凄まじい20発ものファイアーボールの爆発は、国境の街にいる民達にも聞こえているし、かなり離れた場所に駐屯している大公国軍にも聞こえていて、奴等はかなり困惑している様だ。
さて、どの様な対応をして来るかな?
俺は、万が一を考えて代官と領主の家族の護衛をしながら、大公国軍の居る駐屯地の方向を睨み、代官と頷き合いながら、次の作戦へ思いを馳せた。