第一章 第40話 国境の砦での戦闘③ 【ラング・ポリクス】視点
◇◇◇【ラング・ポリクス】視点◇◇◇
ヴァン部隊長と、3ヶ月程前から色々な準備を整えて来て、起こり得る様々な事態を想定して来た。
それが出来たのは、一重にヴァンの存在があればこそであろう・・・。
ヴァンの素晴らしい知識とその様々な技術、それはあまりにも貴重なものであり、その一端を教えるだけでも、信じられない程の利益が享受出来るだろう。
しかし、ヴァンはその巨万の富の源泉に成り得る、知識と技術を惜しげもなく、我々、傭兵団【鋼の剣】の全員に分け与えてくれた上に、その得た知識や技術を最大限活かす為に、商会ギルドの会頭である【サムス】と組む事で、様々な取り引きが行われ始めているのだ。
先ずはレストランの開業を皮切りとして、農家や養畜産を営む者達との、定期的な取り引き、鍛冶師への新しい技術の教授と新しい器具の取り扱い、傭兵団【鋼の剣】の拠点での新しい建築技術による、建て替えとリフォーム、それに伴うインフラの整備、其れ等を行う為の莫大な資金も、たった3ヶ月程の魔獣狩りと10回のダンジョン探索で、一千万ギル(約10億円)もの資金を獲得して運用しているのだ。
既に此の半年余りで、ヴァンを知らない者はこの街では居ないのでは無いだろうか・・・。
又、そのお陰で、王都の傭兵募集には向かわずに、他の地方都市に向かったり、別の業種に転職しようと悩んでいた、元の傭兵仲間達が再び復帰してくれて、現在、傭兵団【鋼の剣】には傭兵だけで120名、傭兵は引退したが他の業種で所属したいという者が30名と加わり、其の家族も含めると300名の大所帯へと復活し始めた。
更に噂が噂を呼び、現在は募集していないが、新しく採用されたいと望む若者達が、傭兵ギルドに登録して採用機会を今か、今か?と待っているらしい。
この戦争やゴタゴタが済み次第、組織改革が必要だろうな・・・。
取り敢えずの役職として、ヴァンには部隊長を務めて貰い、30人の元傭兵達を部下に配属させたのだが、早速ヴァンは、その日の内に此の部下たちとの腕試しをし始めた。
案の定、ヴァンは30人全員を叩きのめし、更にはその挑んできた元傭兵達全員に、みっちりと戦闘での問題点と其の解決の為の武術を伝授していった。
お陰で、明らかにそれまでよりも強くなった元傭兵達は、全員がヴァンに心酔して、手足の如く動く熟練の兵士と化してしまった!
なので、此の部隊は傭兵団の中でも、突出した攻撃力と連携力を持つ部隊となり、今回の戦争でも攻撃の要となっている。
そしていざ国境線の砦での守備戦に突入したのだが、準備していた様々な兵器と魔導具の数々が嵌り、アッサリと初戦を制した。
恐らくだが、王国軍はあまり此方側を諜報しておらず、完全に舐めきっていたのでは無いだろうか?
大体、砦から見る限り、王国軍には砦等の攻城戦用の兵器、例えば「カタパルト」、「破城槌」、「攻城塔」、「雲梯」、「攻城弩」が昔から有るのに、準備している様には見えない、初戦は専ら攻撃魔法と、石人形による力攻めであった。
さて、一旦撤退して、再編成を終えた王国軍は、どの様な攻め方をして来るつもりだろうか?
◇◇◇3日後◇◇◇
漸く、再度押し寄せて来た王国軍は、急遽作ったと思われる丸太作りの「破城槌」を持ち出して来た。
かなりノロノロとした進軍スピードでやって来るので、恐らくは見せる為の兵器で、他の策が用意されていると推測される。
なので、此方としても臨機応変に対応すべく、幾つかの準備に取り掛かる・・。
暫くの時が経ち、「破城槌」を運んで来た王国軍は、目で確認出来る程の濃密な防御魔法と、木の盾に板金を張ったそれなりに強固な護りを施した先陣を進ませて、他の部隊は途中で進軍せずに砦から距離を取って布陣し始めた。
(・・・えらく、ヴァンの槍と投石器を警戒しているな・・・)
そう感じながら、俺は副団長のカイルが操る投石器に、「破城槌」に向けて例の【魔力無効化】を施した岩を射出させる様に命じた。
ドゴンッ!
射出させた1射目は、ものの見事に「破城槌」に当たったのだが、あまりにも厚い防御魔法の層を貫けなかった様で、弾き返されて脇に転がって行く。
その効果を見て自信を得たのか、王国軍の先陣は一気に速力を増して進軍して来た!
その先陣に対して、砦側からは雨霰の様に攻撃魔法と、弓矢や石礫の攻撃が襲い掛かる。
しかし、視認出来る程の濃密な防御魔法の層は貫けずに、王国軍の先陣は確実に砦の正門に取り付いた。
そして、「破城槌」は着実に砦の正門に対して、被害を与えて行き、徐々に正門は歪んで行く・・・。
やがて、時間は掛かったが「破城槌」は砦の正門を破壊する事に成功し、そのタイミングを測って後方に布陣していた王国軍の中から、騎馬隊が出現してきて正門目指し殺到して来る。
(・・・想定通りだな・・・)
そんな感慨を抱きながら、砦の正門の裏側で準備を整えていた大型弩砲隊に命令を発した!
「騎馬隊がやって来るぞ! 先頭が正門に達したタイミングで、【魔力無効化】を施した砲丸を撃ち出せ!」
「了解!」
大型弩砲隊からの、明瞭な返事を聞き、他の傭兵達にも合図を送る。
何も知らない、王国軍の騎馬隊は「破城槌」の脇をすり抜けて、正門を潜るべく殺到して来た。
だが、その正面には引き絞った砲丸を撃ち出すべく、今か、今か? と待っていた大型弩砲である!
ドンッ!
その音と共に射出された砲丸は、ものの見事に先頭の騎馬を騎士毎、木っ端微塵に打ち砕くと、その後方に居た騎馬達も巻き込みながら、「破城槌」も壊してしまった!
ザワワッ
と近づいて来た王国軍から、動揺の気配が溢れ出して来て、その王国軍の頭上へ投石器と攻撃魔法、更には弓矢や石礫の攻撃が襲い掛かる!
先陣とは違い、其処まで防御魔法の施されていない王国軍は、次々と討ち取られて行き、正門前まで移動させた大型弩砲からの、半端では無い砲丸と大型の矢により、ドンドンと被害を大きくして行くのであった・・・。