第一章 第39話 国境の砦での戦闘②
20分程のインターバルを終えて、王国軍はゆっくりと国境の砦に近づいて来た。
只、今度の行軍には、先程とは明らかに違い、前面には【石人形】が配置されていて、その後ろからゆっくりと王国軍が付いて来る様な行軍である。
(・・・まあ、そうなるかなと想定した通りだが、此処まで想定通りだと面白く無いな・・・)
些かガッカリした思いだが、もしかするとその裏では、俺の想定を越えた策を王国軍は用意しているかも知れないので、少しワクワクしながら準備していた投石器に、【魔力無効化】を施した岩を載せる。
投石器は一台しか無いので、あまり広範囲に石人形を配置されると、困ってしまうのだが、案の定、石人形を防御壁代わりに使用している王国軍は、かなり密集して石人形を運用している。
国境の砦まで300メートル程に近づいて来た王国軍に対し、投石器の射程範囲に入った事で、俺の号令で【魔力無効化】を施した岩を射出する。
ゴガンッ!
鈍い音と共に、最前列に配置された石人形がの上半身が、木っ端微塵に砕け散った!
当然であろう、石人形は約2メートル半程度の大きさだが、投石器の射出する岩は3メートル弱は有り、然も【魔力無効化】を施しているので、石人形を維持している魔力も無効化するので、防御魔法を重ね掛けしようと、無駄である。
又も、混乱し始めた王国軍に対し、砦の守備兵と傭兵団【鋼の剣】は、容赦のない攻撃魔法と、物理的こうげきである弓矢や石礫等の攻撃を加える。
本来なら、陣形の形に防御魔法を展開していて、容易に魔法で被害を与えられない筈の王国軍は、槍で要の魔術士部隊を半数失った上に、砦に対して下からの遠距離攻撃は、魔法で無い限りは、物理的な理屈として、効力が薄い。
それに対して、砦側は上からの攻撃であるために、極論、単に石を落っことすだけでも、敵は十分な被害を受けてしまうのだ。
段々と、王国軍は被害を増していく中、砦を守る俺達は殆ど損害を受けていない。
まあ、防御魔法を壁面に施していたり、矢や槍そして岩を放っているから、物資面での消耗は有るかな。
そして、戦闘が続けば続く程、士気の面では、埋めがたい程の差が開き始めていた・・・。
それはそうだろう、王国側は目に付く形での戦果を、守備側に与えられないのに、自軍の方は明らかに被害が増加し続けているのだから。
「一時撤退! 一時撤退せよーー!」
その大声が王国側に上がり、その後直ぐに銅鑼が鳴り響き、王国軍全軍の総撤退が開始された。
その様子をじっと観察して、俺達は完全に視界から王国軍が見えなくなると、守備兵達の大歓声が聞こえて来たのである。
「「やったー、やったぞー! 勝ったぞーー!」」
まだまだ初戦であり、完全な意味で王国軍が去った訳では無いのだが、初めての戦争での勝利、そして此方側は一切怪我人もいないと云う事実は、守備兵にとって得難い高揚感を齎した様だ。
そんな大歓声を聞きながらも、我々は消耗した物資の補給と、使用した魔石への魔力充填を始めて行った。
この初戦の勝利は、今迄の準備と王国側の我々への侮りに起因している。
なので、次からは本日の反省の元で、攻撃方法の変更を模索して来る筈だ。
(・・・王国軍は、どの様な策の練り直しをして来るだろうか?
どうせなら、俺の意表を突く様な、未知のアーティファクトや兵器の類を、用意してくれると嬉しいんだがな・・・)
そう思いながら、補給を終えて守備兵の司令部である中央の塔に、俺とラング団長は向かう。
すると、守備兵の司令官達、上層部の連中から盛大な拍手で俺とラング団長は迎えられた。
「素晴らしい戦果だ! とても信じられない! 此の初戦の戦果は一重に傭兵団【鋼の剣】のお陰だ!
本当に感謝する!」
そう手放しで褒めてくれて、ラング団長と俺の手を取って、ブンブンと握手しながら上下に振って、感謝を伝えて来た。
(凄い感謝の仕方だ! だが此れも貴重な体験だな、こういう共感を得る方法は、ライブラリーだけでは判らなかった)
そんな理解をしていると、ラング団長は予定通りに話しを始めた。
「司令官殿、お褒めのお言葉有難うございます! ですが、まだまだ戦争はこれからですし、今後は王国軍も此方を舐めずに策を講じて来ると思われます。
此処で気を抜くのは不味いので、あまり祝いの行動を取る訳には行かないですが、初戦を飾ったのは事実ですので、守備兵の方々にお祝いの印として、我等の経営しているレストラン【アイアン・ストマック】のオードブルを提供させて頂きますよ。
是非、夕食のお供としてお召し上がり、そして英気を養って下さい!」
「これは、大変有り難いお話しですね! 戦闘で貢献してくれただけでは無く、料理の差し入れまで頂けるとは!
今後もお互いに頑張りましょう!」
そう司令官は応じて、守備兵の方々との絆を固くする事に、我々は成功した。