第一章 第38話 国境の砦での戦闘①
俺達の方針を決めてから3日間程経ち、いよいよ王国軍が国境の砦目指してやって来た。
此の3日間の間に、砦の部署配置が決まり、俺達の属する傭兵団【鋼の剣】は、砦側の左手にある塔とその壁面を守備する事になった。
現在の傭兵団【鋼の剣】には、150名の団員が所属するが、その内約50名は非戦闘員の団員で、主に拠点の維持管理や鍛冶仕事そして建築作業に従事している者達で、純粋な傭兵は約100名であり、振り分けは俺の部隊が30名で、副団長のカイルが40名、そして本隊のラングが30名である。
役割は、俺の部隊が攻撃行動を主として行い、カイルの部隊は防御行動を主として行うが、本格的に攻撃する際は俺の部隊と一緒に敵を攻撃する。
それに対して、本隊のラングの部隊は、基本的に支援魔法を俺とカイルの部隊に行い、更に砦の守備兵との連動の為の連絡係や、物資の輸送や補給係そして救急係でもある。
此の体制での予行演習や不備の確認等を、此の3日間みっちりと熟したので、何時でも来いという気構えが我々には出来ている。
だが、肝心の砦の守備兵は、魔獣との対戦等の経験はあるが、人同士の戦争はここ20年間、殆ど経験はないらしい。(まあ、他の地で体験していて、此処に配属された者も居る)
傭兵団【鋼の剣】にしても、此処まで大きい戦争は久しぶりで、精々300人程度の貴族同士の土地争いの助っ人や、盗賊団の討伐に駆り出される程度だったそうだ。
だが、今回は軽く見積もっても、王国軍は5000人を越えた侵攻軍だし、味方の俺達を含めた大公軍の守備兵は3000人といった所だ。
守備は相手よりも三分の一以上いれば良いというのが、此の世界に於ける常識らしいが、当然他の要因を度外視した話しなので、王国軍の兵器次第によっては、此の差はあまり当てにならないだろう・・・。
やがて、軍使同士のやり取りが行われて、戦闘の開始が銅鑼によって知らされた。
(・・・何とも、情緒溢れる戦闘開始の合図だな、母艦のライブラリーで見た【アース】に於ける、人間同士の戦争でも中世の頃はこんな感じだったらしいが、此の魔法のある世界でもこんなものか・・・)
と些か、緊張感の無い感想を俺は抱いたが、当の本人達は大真面目である。
王国軍から系統を同じくした攻撃魔法を纏めたものが、砦の壁面にぶつけられるが、防御魔法の施された砦の壁面は、簡単に攻撃魔法を弾き返して行く。
その間にも、砦側からも様々な攻撃魔法が雨霰の様に、王国軍の頭上から降り注ぐ。
しかし、当然ながら王国軍の側も陣形の形に、防御魔法を展開していて、容易に魔法で被害を与えられそうも無い。
(それでは、初御目見得とさせて貰おうか!)
俺は、ゆっくりと砦の壁面の上に立って、王国軍からも良く見える位置に傲然と姿を晒した!
当然、王国軍は攻撃魔法を加えても効果の無い、砦の壁面よりも無防備に見える俺に対して、幾つかの攻撃魔法を放って来た!
しかし、その攻撃魔法は全て俺から逸れて、或る魔導具に吸い取られて行った。
「・・・ふむ、【魔力吸引機】は予定通りに稼働したな・・・」
「ええ、演習通りに問題無く機能してるわ!」
と俺は【魔力吸引機】を扱っているアンジーと確認しあい、俺は側に控える部下から長大な槍を受け取る。
「さて、それでは此の槍を試させて貰おうか」
呟きながら、俺は長さ3メートル程の、手投げ槍としては長すぎる物を構えて、攻撃魔法を放って来る王国軍の魔術士部隊に狙いを定めて投げ放った!
ズドンッ!
凄まじい音を響かせて、槍は密集していた王国軍の魔術士部隊3人を貫いて、そのまま地面に縫い留められた!
瞬間、近くに居た王国軍の魔術士部隊は、シン、と静まり返ってしまい、次の瞬間には真横に居た魔術士部隊員2人が槍に貫かれる。
一気に戸惑いが王国軍に広がり始め、別の場所に居た魔術士部隊にも、槍が放たれて魔術士部隊員が貫かれて行く。
「うむ、問題無く【魔力無効化】を施した槍は、防御魔法を無効化出来たな。
このまま投げ続けるぞ!」
俺は、効力が有る事を確認した【魔力無効化】を施した槍を、次々と王国軍に投げ放つ。
数十人が俺の放つ槍によって殺されて、王国軍は対抗しようが無いと悟ったのか、一旦、陣形を保ったままに陣を500メートル程後退させた。
「ふむ、流石に此の距離だと俺の射程距離外だな、槍はまだまだ有るが、無理をする必要は無い」
と一旦、壁上から砦の通路に降りて、周囲の部下に言うと。
「そうですね、戦闘はまだまだ続きますし、準備している武器はまだまだ有りますから、是非、王国軍には頑張って貰って、武器を試させて頂きましょう!」
周囲の部下達は、とても戦争をしている筈の人間とは思えない程に、リラックスして答えて来た。
まあ、元々演習の時に俺の槍の投擲を確認しているので、他の有効な武器の数々も把握している彼等からしたら、まだまだ序ノ口だと理解しているのだ。
だが、俺達の事を知らない砦の守備兵達は、為す術も無く後退した王国軍を見て、歓声を上げている。
(さて、王国軍よ、アンジー達を苦しめた事を、後悔してもらおうか)
そう思いながら、俺は次の兵器の準備を部下と共に始めたのであった・・・。