第一章 第37話 今後の方針
俺達、アンジーと妹達そしてアンナとミレイは、割り当てられた長屋の一角に用意されている、応接室の壁に掛けられているパネルに、表示されている王国軍の状況を確認しながら、今後の方針を検討する。
「見ての通り、王国軍は街道筋をそのまま隊列を組んで進行しており、まるで侵攻の意図を隠しもせずにやって来ている。
此の動きを察知している筈の大公国は、かなり行動が鈍くて、一週間前に漸く此の国境の街に布告が出されて、3日前に我々の居る傭兵団【鋼の剣】へ、依頼が来た位だ!
そもそも、俺の持つ情報網では、王国軍が行動を開始したのは3ヶ月前で、兵の招集に始まり糧食の準備から行軍に至ったのは、約1ヶ月前であった。
その間、大公国の動きは兵士の急募や、新たに傭兵を急募するなど、恐らく王国軍に対抗する為と思われる動きをしている割に、王国軍への諜報や周辺国家への通達等の、当たり前の国家としての動きが無い。
此の異常極まる大公国の指導陣の動きの停滞さと、アンジーの手紙への反応の無さに、尋常でない違和感を感じた俺は、諜報の目を大公周辺の人々に配置してみた。
すると、大公は此の1年程の間は殆ど外へ出て居なくて、公務は大臣達や新宰相が代理として出席していて、その理由も明かされていないらしく、首都でも民衆は不安がっているそうだが、別に混乱が起こっている訳では無いので、弱冠の不安感は拭えないが、日々の生活を送って居るらしい。
しかし、いざ王宮内部では箝口令が敷かれていて、一切の情報が王宮以外には漏れない様にしている様だ。
その事に首都に無理矢理呼び寄せられた、地方貴族達も不審を募らせていて、代表の上位貴族達を中心に大公との面談を要望した様だが、のらりくらりと新宰相から断られ続けて居るらしい。
然も、最近になって首都全域では、戒厳令が出されていて、他の都市との交流も断っているようだ。
お陰で、地方貴族どころか一般民衆も、自由に首都を出る事が叶わないらしい。
こんな事が、長期間に渡って可能な筈は無いのだが、増強している大公国軍と数多の傭兵を、新宰相の配下達が管轄する形で手足とし、軍事力でもって言う事を聞かせている様だ。
現在、此の大公国軍の内5000人が、此の国境線の砦である【ドラド】に、救援の為に進軍しているが、正直な処、此の救援軍が何を目的に行軍しているかも、非常に不透明な状況だ。
つまり、当初のアンジーの目的であった、祖父である大公に直訴して、王国へ対抗すると云う目論見は事実上潰えたと考えられる。
ならば我々は、他力本願を諦めて、自力本願で行くべきだろう。
幸い、此の半年間で我々は、此処の傭兵団【鋼の剣】と、各ギルドとの密接な関係を築く事が出来た。
よって、我々は迫ってくる王国軍を、国境線の砦である【ドラド】に駐屯する兵士達と共に、追い返した上で、救援と称しているが、目的が不明確な大公国軍と対する事とする。
状況は非常に流動的だが、我々は世話になった傭兵団【鋼の剣】を全力で支援し、協力関係を維持した上で、確固たる地力を得る行動をすべきだろう!」
そう、長い話しを締めくくると、アンジーは俺の結論に頷いた上で、
「私も、そのヴァンの結論に賛同するわ!
如何に私と大公国の統治者たる、【クラウス】大公と祖父と孫の関係とは云え、会った事は僅かに3回だけだし、それも公式な式典以外は短時間でしか無かったわ。
決して、懇意な関係とはお世辞にも言えないわ。
ならばと思い、ヴァンと共に我々の力を増すべく、ヴァンの提供する技術と知識を得るべく努力して来たわ。
お陰で、ヴァンの持つある程度の技術と知識、そして武術の腕を磨く事が出来たわ。
その事を、みんな自信を持って言えるでしょう?」
「そうですね、此の世界とは異なる技術と知識を学び、私は一人の兵士の範疇を越えたレベルに達したと自覚しております」
「それに、色々なギルドとの繋がりで、様々なコネクションが出来ています。
今後此のコネクションは非常に役立つでしょう」
「私達も、【探査ブイ】で情報収集する事が出来るし、魔法の腕も磨いたから、支援魔法で援護出来るよ!」
「私は、魔法を封入した【魔法石】をかなり作ってストックしてるし、使用しても直ぐに回収した魔石に魔法を封入出来るよ!」
と、アンジーに続いてアンナ、ミレイ、リンナ、リンネも応じてくれた。
(良し、みんなも自信を持って答えてくれた。 さて、行動開始と行こうじゃないか!)
俺も大きく頷いて、先ずはやって来る王国軍を叩きのめしてやろうと、思いを新たにした。