第一章 第36話 レストランの開業と動乱の兆し
傭兵達と共に魔獣狩りを始めて2ヶ月が経った・・・。
その間に狩った様々な魔獣は、食用に向いたものから、人に害を与えるために優先して駆除したものまで有り、魔石や有用な魔獣の部位を商会ギルドに買い取って貰った結果、200万ギル(約2億円相当)+αと結構な額となり、それを元手に傭兵団【鋼の剣】の拠点の様々な改善が図られた。
先ず、壊れかけた家屋の修復を行い、解体を行っていた倉庫に様々な器具を導入した。
更に、武器の改善と改良をする為に、専属の鍛冶師とその弟子達を雇い、専用の工房も建築し始めた。
そして、商会ギルドを通して始めたのが、肉料理メインのレストランである。
街のメインストリートの角地に、商会ギルドの会頭である【サムス】殿が勧めてくれたので、開いたお店である。
サムス殿が拠点に商売上の交渉に来られた際に、夕食を共にして貰ったのだが、【鳥の唐揚げ】、【ハンバーグ】、【トンカツ】を食されて、非常に気に入ったらしく、出店費用や経費の大部分を負担してくれた上に、肉の物流ルートまでおさえてくれたので、此方としても乗るしか無い話しとなった。
傭兵の中で【ガモス】という男性が、俺の作る数々の料理に感銘を覚えたらしく、傭兵仕事よりも厨房での手伝いをひたすら真摯に取り組んでくれたので、俺としても別に秘密にするつもりも無いので、この一ヶ月半、数々の料理のレシピや、此の世界に無かった料理道具の使い方、又、食材の選び方の方法を伝授したので、かなりの腕前に育ったのだ。
なので、此のガモスをメインの料理人として、傭兵団【鋼の剣】と商会ギルドの出資の元で、レストランを開業させたのだ。
当然、俺もレストランの開業に協力して、厨房の構成や新しい器具の設置、そして営業方法やレストランの広告をサムス殿と相談して、この世界では物珍しい店として半月前に開業した。
先ず、セルフサービス形式の営業形態をメインとして、お盆にお好みの料理を適量に盛り付け、その量と品数で料金を算出して最後のレジカウンターで精算するスタイルである。
此れは今迄注文して貰ってから、料理を始めるこの世界での標準のレストラン形式とは異なり、直ぐに好みの料理を食べられる上に、適量を自分で選べるのでクレームが出にくい。
更に、ウエイターとウエイトレスが極力少ない人数で済むので、料理に重点を置く人材で運営出来る。
ただ、お年寄りや子供には不便な形式なので、併設している客席のみの店舗にレストランから、ワゴン形式で料理を運び入れて、それぞれのテーブルにワゴンが向かい、お年寄りや子供のお客の要望に答える形式とした。
開業して一週間程で、レストランを訪れる客は後を絶たず、お年寄りや子供を連れたご家族もやって来る様になった。
評判が評判を呼び、次々と訪れる客層には当初は冒険者や商人、又、国境警備の兵士達が多かったのだが、段々と豪商や低位貴族の姿も見かける様になっている。
ガモスという男は、あまり戦闘事が向いておらず、度々みんなの足を引っ張る事が有ったそうだ・・・。
しかし、丁寧な獲物の解体処理や、嫌がる顔を見せずに仕事をする姿に、傭兵達の中では信頼を勝ち得ていた。
だが、壮年の年齢となり、素早い動きが出来なくなっていたので、本人も気にしていたらしいのだが、俺の作る料理の数々に感動して、是非、自分も作りたいと言ってくれて、根気強く俺の指導を受けて幾つもの料理を、この短時間にマスターしてみせた。
きっとガモスは、この料理人という新たな道で、成功を修める事だろう・・・。
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更に3ヶ月が経ち、レストランも二号店がメインストリートの中央に開業し、いよいよ街全体が盛り上がりを見せる中、諸々の事態が動き出したのだ。
以前に出した、商会ギルド経由の駅馬車郵便で送った手紙の返事は、住所を傭兵団【鋼の剣】の拠点にしていても、一向に届かず全くの梨の礫である。
一体、大公国のトップであるアンジー達の祖父には、手紙が届いているのか居ないのか?
それどころか、大公国の首都では様々な人材を招集している上に、兵士の急募と様々な傭兵を招集している。
然もその命令は、どうも大公では無くて新宰相の所から出ている様だ・・・。
頻繁に、各地方都市へも様々な命令書が提出されていて、領主は首都に集められていて、各地方には代官が派遣されている。
ドンドンと大公国もきな臭くなる中、この国境線の街にもとうとう王国兵の姿が、チラホラと見かける様になって来た。
そして、いよいよ王国軍が此方に攻め込んで来ると云う噂が立ち始めて、大公国の首都から「国境を守備して王国軍に備えよ!」との命令が届いた様で、守備兵の親玉である此処の代官から傭兵団【鋼の剣】に正式な依頼が舞い込んだ!
依頼書には、
[国境線を守備する為に、傭兵団【鋼の剣】には、最低50人最大100人の傭兵を期間限定の雇用を依頼する。
期間は現在未定ではあるが、最低でも1ヶ月間の間として、最大で3ヶ月間と予定している]
とあった・・・。
ラング団長、参謀のミケル、副団長のカイル、そして部隊長に任命されている俺は、相談の上でこの依頼を受ける事にした。
いよいよ、王国軍と干戈を交える時がやって来た。
俺達の事前準備が、試される事態が到来したのである・・・。