第一章 第30話 魔獣狩りと冒険者試験①【ミレイ】視点
◇◇◇【ミレイ】視点◇◇◇
呆れてしまった・・・。
ヴァン殿は事も無げに、真正面から【アングリー・バッファロー】の突進に対し、少しも揺らがずに堂々と拳一つの突き込みで、アングリー・バッファローの頭蓋骨を陥没させてしまったの!
然も、本人は一切の支援魔法を断り、己の素の身体能力のみで倒したの・・・。
ヴァン殿が【星人】で、その技術や知識量は隔絶しているのは、諸々の素振りからも把握しており、疑う必要は無いので信じているが、此の身体能力は凄まじ過ぎると思うわ。
そもそも、過去に降臨された星人とは、あくまでも技術や知識を伝えてくれて、文明や文化レベルを引き上げてくれた人々であったと言われており、身体が頑健であったり、武術が素晴らしいとは、聞いた事もないわ。
まあ、正直言ってヴァン殿が強い事は、私達にとっては非常に有り難い話しで、今後の事を考えると必須とすら言えるの。
そして、私達にとってある意味、非常に好都合な事に、アンジェリカ様がどう見てもヴァン殿に好意を寄せているのよ!
アンジェリカ様と云えば、男勝りの代名詞の様なお方で、常々「自分より強い男でなければ、付き合うのも御免だ!」と公言していて、実際に側仕えしていた私とアンナも、アンジェリカ様が男性との話しで色恋沙汰は聞いた覚えは無いわ。
だと言うのに、現在、私達の横でラング殿達へのフォローに入る為に、アングリー・バッファローに挑発して自分に向かわせようとしている、ヴァン殿を全幅の信頼感を隠しもせずに見ているアンジェリカ様の姿は、まるで己の騎士を見守るお姫様の様ね。
そうこう考えている間に、ヴァン殿に注意を向けたアングリー・バッファローに対し、ラング殿達傭兵部隊は次々と矢を射かけて、ダメージを与えているわ。
何故、攻撃魔法を使用しないかというと、森の中で使用出来る水魔法では、有効な打撃を魔獣に与えられず、かと言って火魔法では周りの木々が延焼してしまい、森のダメージが多すぎる為に使用出来ない、なので槍や弓矢での攻撃しか出来ないのだけど、一撃で槍や弓矢では倒せる筈もないわ。
しかし、此処に規格外の存在が居る・・・。
ズガッ!
アングリー・バッファローの後頭部と頚椎の間に、5メートル程に跳躍したヴァン殿が、穴を穿つ様な猛烈な蹴り技を放ち、とどめを刺したの。
呆れるのも馬鹿馬鹿しくなり、もう、ヴァン殿はそういう存在だと認識し、用意していた大型の荷馬車2台で、それぞれアングリー・バッファローを積み込むと、お昼には国境ゲートに辿り着いたわ。
昨日の、【グレイト・ボア】に続いて、本日はアングリー・バッファローが2頭。
警備の兵士達に連日の大物魔獣の討伐に、ちょっと騒がれてしまったけど、ラング殿が居るお陰でそれ程不審がられずにゲートを通してもらえたわ。
アングリー・バッファローを荷馬車に積んだそのままでは、ちょっと街中の道路を通れないので、ラング殿が予め話しを通していたらしい、商会ギルドの方が早々に現れて、専用の家畜用運搬馬車で拠点に運んで貰う事にしたわ。
お陰で荷物が少なくなった荷馬車で、昨日申請だけしておいた傭兵ギルドと冒険者ギルドに向かう事になったの。
傭兵ギルドの方は、ラング殿が付いて来てくれたから、そのまま保証人になってくれて、登録がアッサリと済んだんだけど、冒険者ギルドの方は面倒だったわ。
何と、冒険者ギルドは登録する際に、試験を必要としたの。
それも、実力に応じたランクというものが有り、最低ランクの【鉄クラス】以上を得ないと、いけないらしいわ。
まあ、此処に居る全員、腕に覚えが有るから大丈夫だろうけど、問題はヴァン殿は魔法が使えない点だわ。
何故なら、どんなにレベルの低い冒険者でも、此の世界の住人ならば魔石を持つから、簡単な支援魔法は使えるので、星人であるヴァン殿はどう判断されるか判らないわ・・・。
そんな事を憂いながらも、私達は冒険者ギルドの訓練場に向かったの。
取り敢えず私とアンナは、普通に魔法と剣が使えるので、魔法のレベルを魔力を測る水晶玉で審査され、次に剣の実力を冒険者ギルドの教官と試合をする事で測るらしいわ。
結局、私とアンナは【銀クラス】と判定され、そのレベルの依頼を受けれる様になったわ。
でも、正直なところ当面は依頼を受けるつもりはないんだけどね。
アンジー様は、それなりに実力を出したから、【金クラス】に判定されたわ。
そして、いよいよ問題のヴァン殿の試験が開始されたわ。