第一章 第27話 魔獣狩りの顛末
◇◇◇【ゲイル】視点◇◇◇
「で、他の連中からも報告は受けているが、隊長のお前の口からも聞きたい・・・」
そう団長から聞かれたので、自分でも話したいと思っていたので、部屋にいる団長に副団長そして参謀へ事細かく報告する。
「・・・先ず、これを御覧ください・・・」
そう言うと、俺はヴァン殿から提供された【簡易型魔力探知レーダー】を、机の上に置く。
団長が簡易型魔力探知レーダーを手に取り、副団長と参謀も顔を近づけて覗き込んだ。
そして、自分は団長に使い方を伝授して、手首に巻いている【マーカー】を示しながら、画面の表示を説明する。
「・・・この様に、自分は青色で表示されますので、近くの赤色が団長達となります。
そして、やや離れた場所に数十個動いているのが、仲間やヴァン殿達と子供達で、周囲500メートル範囲の魔力持ちの生物の存在が、ほぼ把握されますね」
「ほぼ、と言うのはどういう意味だ?」
「他の連中からも聞いたと思いますが、この魔導具は簡易型で、上位版である強化型もヴァン殿は見せてくれて、そちらなら魔力量が数字で表記されますし、動く点がどの方向に向かっているか矢印が表示されてました」
「そいつは便利だな! しかし、こんな魔導具は今迄に聞いた事も無い!
誰か噂レベルでも良いから、聞いた事の有る者はいるか?」
そう団長が聞くと、参謀が手を上げて発言する。
「・・・団長、この話しは確かに噂レベル何だが、まことしやかに語られているし、実際そんな魔導具が無いと説明出来ない話しなので、信憑性は高いと俺は判断している・・・」
参謀の思わせぶりな発言に、室内の人間は次の言葉に固唾を呑む。
「例の王国が公国に奇襲を掛けた話しは、みんなも承知しているだろう?
すると、当然ながらどうやって、誰にも気づかれずに奇襲が成功し、簡単に公爵夫妻が討たれたのか、疑問点が数多く存在する事に行き当たる。
なので、王国側は我々の知らない魔導具や、アーティファクトを所持していて、その能力で欺瞞行動が出来たのでは無いか? との噂が立っているんだよ」
その参謀の話しに、他の全員が納得する中、自分は少し納得が行かず尋ねて見る。
「ですが、この魔導具は魔力探知の能力です。
参謀の言われる王国軍が使用したと推定されている魔導具かアーティファクトは、逆の能力の魔力隠蔽ですよね?」
「嗚呼、その通りだが、先ず魔力を測定出来るという事が重要なんだ。
つまり、測定出来るという事は、どの魔力量から測定するか? という事になり脅威となる魔力量からという事に繋がり、測定の足切りとなる魔力量だと、街道ですれ違う人間同士が、危険を認識出来ない程になる可能性がある、恐らく王国軍はその辺の値を探知出来る魔導具と、魔力量を抑える魔導具を開発したんでは無かろうか?
そして危険性を認識しないギリギリまで近づいた状態で行軍し、短時間だけでも幻影系の魔法を使い、一気に国境を踏み越えて軍隊が首都に攻め込む事も可能だろう・・・。
そして、魔力探知が出来るのであれば、公爵夫妻の魔力を探知して隠れていても探し出すのは、容易だったに違いない!」
その答えに、自分は漸く成る程、そういう噂が立つ流れもあり得るかと、頷ける。
「・・・そうなると、どうしてヴァン達が、こんな最新鋭と呼べる魔導具を、持っているかが謎だな。
然も、それを惜しげもなく俺達に渡してくるなんて、理解が出来ないぜ・・・」
そう言うと、団長と参謀は考え込む。
考え込まないでいる副団長が、他の話しとして、例のヴァン殿の槍投げを聞いてきた。
「それよりもだ! ヴァン殿の投擲した槍がグレイト・ボアを貫いて、そのまま岩に突き刺さった様子を話してくれ!」
その何とも副団長らしい問いに、みんな苦笑いしてしまい、自分達の見た信じられない情景を話す。
「・・・といった様子で、殆ど予備動作も無しに、ヴァン殿は上半身の動きだけで槍を投擲し、ものの見事に槍はグレイト・ボアを貫いて、そのまま岩に突き刺さりました。
明らかにヴァン殿は、魔法での身体強化や【武技】を使用した様子も有りませんでした。
但し、自分の知らない技術や魔導具を、使用したのかも知れませんが、少なくとも槍は兵士の使う一般的な物でしたので、岩に突き刺さった刃先は、岩に埋まったまま取れてしまい、使い物にならなくなりました。
その後、全員で簡易な担架状の物を木材で作り、それを利用して森林からグレイト・ボアを搬出した後、街道は荷馬車に積んでそのまま国境のゲートを潜り、自分以外の仲間に命じて拠点に運ばせている間に、ヴァン殿達を【冒険者ギルド】と【傭兵ギルド】に案内して、それぞれの登録申請を出しておきました・・・」
「で、今に至るという訳か・・・」
そう団長が呟いた・・・。
そして、
「・・・概略は他の奴等から聞いた通りだな、となるとやはり本人に聞くしか無い事柄が多いな。
良し、ならあまり突っ込まない様にして、夕食時にグレイト・ボアを狩ったのを、称賛する形で話しを引き出すとするかな・・・」
そう団長は締めくくり、皆もそれに賛同して、グレイト・ボアを解体している現場に向かう事にした。