第一章 第26話 魔獣狩り②
午後から、魔力探知レーダーでの魔獣探査を始めると、強化型魔力探知レーダーの反応が早速あり、その方向に全員で歩を進めると、20匹程の【小鬼】の一団が森林を進んでいるのが、遠くから発見出来た。
ゴブリンとは、洞穴、木立に住み、身長は凡そ人間の子供サイズで、人間の幼い子を食べたり、女性を襲い自らの子供を産ませる、等の【人類同胞】にとって、完全に敵性の魔物であり、同種の上位存在として、【ホブゴブリン】、【ゴブリンジェネラル】、【ゴブリンロード】、【ゴブリンキング】等が存在し、これらの種類は大人の人間とサイズは殆ど変わらず、普通の人間では敵わない敵である。
この情報を母艦からの様々な情報源から知ってはいたが、実際に見てみると、その醜悪さと邪悪な雰囲気を感じて、とてもではないが倶に天を戴けない存在だとしか思えない。
なので此奴等を狩るのに、一切の躊躇を感じない・・・。
全員、魔力探知レーダーをしまって、武器を準備してフォーメーションを組むと、先手必勝とばかりに傭兵達が、一斉に魔法の詠唱を始めて投射する!
魔法は森林に影響の殆ど無い水撃魔法【ウオーターショット】が、50メートルの距離からゴブリンに襲い掛かり、5匹がたちまち腹部を貫かれた!
残りのゴブリンが混乱しながら近づいて来る間にも、傭兵達は再度水撃魔法ウオーターショットを詠唱し、投射したので又も5匹のゴブリンが倒れ、残りは10匹となった。
その距離は10メートル程になったので、傭兵達と俺達はそれぞれの武器を構えて、迎え討つ体勢になる。
「「「グギャギャギャギャーーー!」」」
そう叫んで、ゴブリン共が俺達に襲いかかって来たので、俺以外はそれぞれが1匹ずつ迎え討ち、俺は先制する形で1匹を、例の王国軍人から奪った剣で簡単に頭を斬り飛ばし、もう1匹は返す刀で撫で斬りにした。
そのまま、アンジー達のフォローに入り、余裕を持って全て屠ると、傭兵達もアッサリとゴブリンを倒している。
その後直ぐに、魔石をゴブリンの身体から回収したが、ゴブリンの魔石は2センチ程の大きさしか無いので、あまり価値は無いらしい。
なので、魔力探知レーダーの有用性を理解した傭兵達は、より大きい魔石を持つ魔獣をターゲットにするために、魔力探知レーダーで魔力反応の大きい個体を探す事にした。
何と言っても、森林に入って行く場合に恐ろしいのは、魔獣が潜んでいて不意討ちを受けてしまう事である。
しかし、魔力探知レーダーならば、そういった不意討ちを未然に防げる為に、無駄な警戒をする必要が無い。
そうやって、予定に無かった若干深い森林に分け入ると、それなりに魔力反応の大きい個体が、前方に存在する事を魔力探知レーダーが感知した。
その個体は、その場から動かずに居る様なので、此方から近づいて行くと、やがて森林の空き地に日差しが差し込む場所が有り、其処に日向ぼっこしている巨大なイノシシ型の魔獣が見えて来た・・・。
「【グレイト・ボア】か!」
ゲイル殿が唸る様に呟いて来たので、[ヘルメス]に詳しい資料を脳内に出させた。
〈・・・【グレイト・ボア】・・・、主に森林や拓けた農地に出没し、人間の作る農作物を食い荒らすので、非常に迷惑がられていて、第一級の討伐対象の魔獣です。
魔石も大きく価値が高い上に、その牙は非常に鋭くて頑丈で皮も耐久性に富み、、売ればかなりの金額となります。
又、肉は殆ど余さずに食用出来るので、狩れば当分食うに困らないでしょう〉
との詳細な説明を受けたので、ゲイル殿に是非狩りたいと申し入れたが、苦い顔をされた。
「・・・私も、もっと用意が有れば、是非狩りたいと思うのですが、グレイト・ボアの皮膚を貫ける武器が手持ちにございません。
残念ですが、今回は見送りましょう・・・」
そう言って来て、他の傭兵達も同様に恨めしくグレイト・ボアを眺める。
そこで俺が提案した。
「グレイト・ボアの皮膚を貫け無いとの事だが、どうだろうか俺の投擲する槍が奴の皮膚を貫ければ、問題無いという事で奴を狩ろう!
安全性を考慮して、50メートルの距離を取れば、逃げる事も出来るし、対抗する為の魔法詠唱も間に合うだろう?」
その俺の言葉に、
「ヴァン殿は、50メートルの距離で投擲する槍が、グレイト・ボアの皮膚を貫ける威力で放てると言われるのですか?!」
ゲイル殿と傭兵達が、信じられないといった様子でいる間に、俺は王国軍人から回収したかなり頑丈な槍を亜空間から取り出し、握り心地を確かめる。
そしてアンジー達と傭兵達に、イザという場合は逃げ出せる体勢を取らせると、徐ろに狙いを定めて、気持ち良さそうに寝ているグレイト・ボアの首根っこに狙いを定める・・・。
ズドッ!
俺が大した予備動作もなく投擲した槍は、見事にグレイト・ボアの首根っこを貫き、その勢いのまま近くの岩に突き刺さって、岩にグレイト・ボアを縫い止めた!
それを見てアンジーは、感嘆の声を漏らす。
「流石はヴァンね! 普通槍が岩に突き刺さるなんて事は無いわよ!」
「そうだな、ちょっと力を込めすぎたな、本当はグレイト・ボアを仕留めるだけで良かったのに、岩まで穿つのはやりすぎたよ」
とアンジーに応じて、二人で並んでグレイト・ボアを縫い止めた岩に向かう。
その様子を、呆然とした顔で傭兵達とアンナ達は、立ち尽くして見送るのだった。