第一章 第23話 傭兵団【鋼の剣】の拠点(ホーム)
迷惑を掛けてしまった【黄金酒場】に、ラングが迷惑料を払い。
急遽、傭兵団【鋼の剣】の拠点で飲みなおす事になり、其処へ向かう事になった。
「拠点なので、あまり良い酒やツマミが有る訳じゃないから、その辺を期待してたら、申し訳ねえけど諦めてくれ!」
肩を組みながら、俺と会話するラングは当初の礼儀正しい口調から、かなり砕けた口調に変化していて、此れが素なのだと判る。
俺とラングの後ろには、酒に酔ったアンジーを両側から支える、アンナとミレイが三人一組で歩いていて、その後ろに副団長のカイルと参謀のミケルが、周囲を警戒しながら歩いている。
アンナとミレイは、俺が[ヘルメス]を通して連絡して、上手く後から合流する予定だった様に見せかけて、店に来てもらい酔い潰れたアンジーを介抱してもらっている。
やがて、市街から若干離れた空き地に、棒杭で仕切られている広さ500平方メートル程の、訓練施設を兼ねた拠点が見えて来た・・・。
木で作られた門を叩きながら、ラングは、
「ようこそ、我が傭兵団【鋼の剣】の拠点へ! 歓迎するぜ!」
酒の酔いで赤らんだ顔を向けて、俺に言って来たので、
「初めて傭兵団の拠点に来たが、結構広いんだな!
後で、施設を見せて貰いたいな、非常に興味が有る」
「ああ、構わないぜ! 俺の目的にも合致するからな!」
その言葉に、別の意図を感じながら、俺達はラングの先導で傭兵団鋼の剣の拠点に入り、中央に建つ建物に向かう。
建物は、3階建てで石材と木材の組み合わせで出来ていて、その周りに長屋風の建物が5棟連なっている。
その中央の建物前に、警戒の為か傭兵が一人立っていて、ラングが「帰って来たぞ!」と声を掛けると直ぐに建物内に入り、「帰られました」と中に報告した様だ。
すると、ワラワラと幼い子供たちが現れて、ラングとカイルそしてミケルに纏わりついた。
そして、一斉に子供たちは、
「「「父ちゃん、お土産はーーー?」」」
とラング達に要求して来たので、ラング達はカイルが背負っていた大きな袋を、近くに有る木製のテーブルの上に乗せて中身を拡げて見せる。
子供たちは、そお大きな袋から出された中身を見て、
「「「やったーー!」」」
と歓声を上げて、ラング達からそれぞれに渡されたお土産を、大事そうに抱えて喜んでいる。
その様子を見て、酔いが大分醒めたアンジーと俺達は、良いものを見れたと顔を綻ばせていると、建物から三人の女性達が各々赤ん坊を抱えて出て来た。
すると、
「おお、今帰ったぞ母ちゃん!
この人達が、昼に話した方たちだよ!
ヴァン! この三人の美しい女性が俺とカイル、ミケルの連れ合いで、赤ん坊と周りに居るガキどもがそれぞれの子供たちだよ!
お前たち、この男と後ろに居る女性達は、俺達の大事な客人だ!
丁寧な挨拶をしなさい!」
そうラングが指示すると、一斉に女性達と子供たちがラングの横に並び、
「「「どうぞ、いらっしゃいませ! お客様!!」」」
と元気良く挨拶してくれた。
その挨拶に、俺は、
「これは、丁寧な挨拶痛み入る! 私は一介の商人の”ヴァン”という者で、後ろの女性達は左が”アンナ”、中央が”アンジー”、右が”ミレイ”という者達だ。
今夜は宜しく頼む!」
と返答して、徐ろに亜空間から物品を取り出した。
当然、亜空間はこの世界でも不審がられない様に、適切なサイズで空間に開けて、中からこの世界でも問題無い程度の様々な食物や果物ジュース、ツマミやお菓子類を、テーブルの上に所狭しと置いて行く。
「これは凄い! なんて量の食べ物やお菓子を亜空間収納しているんだ!
ヴァン! あんたはこんなに大量の物品を、亜空間に収納しているのか?」
「おいおい、ラング! 俺は商人だと説明しただろう。
商人はイザという時に、商売相手にサンプルを提示したり、書類での契約を出来なくてはならないから、当然、魔導具での空間拡張をしているんだよ」
「・・・それもそうか・・・、だけど、そうなるとこれらはあんたの大事な商品じゃないのか?
それをこんなに頂く訳にはいかねえよ!」
「そんな事、気にするなよ!
後で話すけど、実は商売相手が例の王国と公国の諍いで、居なくなっちまってな。
見ての通り、日持ちしない物ばかりが商品なんで、是非、ラング達に食べたり飲んだりしてもらいたいんだよ!」
と、咄嗟に考えた嘘を臆面もなく喋り、全部消費してもらいたい事を、納得してもらう。
どうやら得心したラングは、先程から横に控えている傭兵に指示を出す。
「おい、今から屯所で休養しているメンバー全員を食堂に呼べ!
今夜は、宴会だぞ!」
「了解ですぜ、みんなも喜びますよ!」
傭兵も、嬉しそうに笑いながら、長屋風の建物に走って行く。
すると、話が聞こえていたらしい、他の傭兵達から順番に三々五々と集まって来て、俺達に頭を下げながら大量の食べ物や飲み物を、中央の建物の食堂へ運ぶ。
俺達もラング達とその家族を引き連れて、傭兵の案内で食堂へ向かい、勧められたテーブルの席に着くと、ラングがジョッキを両手に持って俺の脇に来て、一つを俺に渡して肩を組んできて俺達を皆に紹介する。
「聞いていない者も居るだろうから紹介する!
俺の横に居るこの男は、”ヴァン”と言って、昼に俺が傭兵の勧誘をギルドに申し込みに行った時に出会った男だ。
何と、この男は剣を持った5人の無頼漢を相手に、素手でアッサリと30秒もかからずに倒してしまったんだ!
その様が素晴らしいので、一献差し上げようとバーに誘い、その時に盛り上がって腕相撲をしたんだが、何と俺がスキルで3倍増にした筋力で挑んだにも関わらず、魔力を一切使用せずにこのヴァンは俺を負かしたんだ!
その勝ちっぷりがあまりにも格好良かったんで、ここに呼んだんだよ。
よってヴァンとその仲間達は、傭兵団【鋼の剣】の大事な客人達だ!
全員、ヴァンとそのお仲間に無礼を働くなよ!
そして、ヴァンのご厚意で、目の前に積まれた食べ物や飲み物を提供された。
有り難く頂けよ!」
と説明し、俺に乾杯の音頭を要求して来たので、ジョッキを掲げて見せて、
「商人のヴァンという者だ! 堅苦しい言葉は苦手なので演説は出来ないが、乾杯は出来る。
それでは、みんなとの出会いを祝って、乾杯ッ!!」
「「「乾杯!!!」」」
その後は、大人は出されたお酒を酌み交わし、子供や女性たちは果物ジュースを飲んで行き、この辺では食べられないらしい、珍しい食べ物に全員が舌鼓を打った。
本当に楽しい宴会となり、俺は此の惑星に到着出来た事を大変嬉しく思い、仲間と呼べる存在が居る此の世界に感謝した。