第一章 第21話 国境の砦【ドラド】
商会ギルドの建物内に入り受付へ行くと、やはり国境の市街の所為か受付はかなり並んでいる・・・。
仕方無く最後尾に並び、暫く並んでいると20分後に受付てもらい、以前の交易都市と同様に情報収集と食料品を補給すべく手続きを行い、商会ギルドの建物を出てアンナ達と合流し、此の国境の砦【ドラド】に併設している市街を見物する事にした。
大公国の街と云う事もあり、王国軍関係者が居たとしても、大手を振って俺達に手出しは出来ないから、それなりの警戒は必要だが、かなり余裕で行動出来る。
お陰で俺はかなり気楽に、此の惑星の一般的な市街をゆっくりと見て回れた。
(・・・中々広い街だな、だが、その割には屋台等のオープンテラス・タイプの店が見当たらないな、何か理由があるのかな・・・?)
そんな事を思いながら、街を全員でぶらついていると、ちょっと薄暗い路地から、5人の胡散臭そうな男が奇妙な笑いを浮かべて、こちらに近づいて来る・・・。
「よーよー、そこのアンちゃん、男一人で女三人連れて、随分羽振りが良さそうじゃねえか?
俺等にも、援助してくれよ!」
因みにこの時、アンジーの妹達は馬車内ですっかり寝入っていて、事件自体を知らない。
一人の男が俺に躙り寄って来て、睨めつける様に俺に顔を近づけた・・・、が、次の瞬間その男は顔を引き攣らせて凍りつく事になる。
何故なら、俺の顔を間近に見る羽目に陥ったからだ!
顔を近づけて来た男に対し、俺は思わず嬉しくて、破顔しながら目を見交わした・・・。
俺の目の中に何を見たのか、男はいきなり腰砕けになって地面に座ってしまった。
その様子を見ていた他の四人は、訳が分からない様子で、腰に吊るしている剣を抜き放すと、俺を更に脅してきた。
「連れに何をしやがった! 俺達に手を出すとただじゃおかねえぞ!」
「ん? 何を、と言われても、見ての通り、只、顔を近づけて目を見ただけだが、それ以上の何をしたと言うんだい?」
と俺は、にこやかに微笑みながら応じてやると、無言で奴等は俺を取り囲もうとする。
本当に俺は嬉しかった・・・、故郷の記録では、こんな風に人間は諍ったりする、コミュニケーションが様々な場所で起こっていて、ある意味非常にわかり易い他人同士の関わり合いとも呼べる・・・。
それも此れも、全ては故郷にとっては全ては過去の光景で、今後は二度と見れない懐かしい風景なのだ・・・。
あまりの嬉しさに、俺は登場人物としての役割を演じる為に、典型的な対応を取ってやる事にして、周りを見回し、数人の見物人が居るのを確認し、俺は見物人にも聞こえる声を上げた・・・。
「それでは、俺も不当に脅されてしまったので、少しばかり抵抗させて貰おう!」
そう宣言して、俺を取り囲もうと、遠巻きに円を描くように回り込もうとした男に、無造作に近づいて行った。
「てめえー!」
そう叫ぶと近づかれた男は、剣を振りかぶって斬り掛かって来たので、
スルリと身を半身にして、俺は剣を躱して、そのまま裏拳を斬り掛かって来た男の横っ面に叩き込んだ。
倒れ込む男の横を通り過ぎ、他の男に近づく。
「「何しやがったー!!」」
残りの三人に対しても、俺は同様に無造作に近づき、次々に斬り掛かる奴等の剣先を躱して、最低限の動きで男達を倒す。
先ずは剣で突いてきた男には、剣をギリギリで躱し、その腕を右の手刀で叩き折り、二人目は剣を横薙ぎに振って来たので、それよりも前に懐に飛び込み男の顎にアッパーカットを放ち、最後の男は震えたままなので、剣を取り上げて地面に差してしまい、一本背負いで地面に叩きつけてやった。
その一連の動きを、余裕を持って見守っていたアンジー達と見物人達が歓声を上げて、俺を称えていたが、一人の男がポンポンとやや鈍い音の拍手をしながら、俺に近づいて来る・・・。
アンジー達はやや警戒しているが、俺は男に殺気を感じないので警戒しないでいると、その男が俺に話し掛けて来た。
「やー、お美事、お美事! 素晴らしい格闘術だな!
中々お目にかかれない程の、流麗な動きだったよ!
是非、お近づきになりたいと思うので、其処のバーで祝わせてくれないだろうか?」
そう話し掛けて来たので、俺は男の様子を瞬時に観察した。
男の背は俺よりもやや高い178センチ、やや強面だが柔和な表情なので敵対心を抱き辛い雰囲気だ。
そして、俺と同等の近い体付きをしているので、恐らく軍人か武人といった職種ではなかろうか・・・。
なので男に対し俺は、
「それは魅力的な提案だが、ご覧の通り連れが居る状態だし、役人に此の不法者達を突き出す必要もある。
別の機会にしてくれないだろうか?」
「それもそうか、だが、役人への引き渡しは安心してくれ!
私の部下がもうすぐ役人を連れて来る様に指示して置いたよ!」
男がそう言っている間に、男の部下が役人を連れて来たので、俺は自分の用意していた商人用の鑑札を渡して、役人に身分を確認させてやると、後は男が見ていた内容を説明してくれたので、俺達はアッサリと解放される。
その後、俺は男に自分の名前を明かすと、男も自分の名前を明かして来た。
「ほう、”ヴァン”というのか、中々響きの良い名前だな。
私の名前は、”ラング”。 この街に本拠を持つ傭兵団【鋼の剣】の団長をしている者だ!」
自己紹介を交わして、一旦、俺達は別れて、夕方に合流する約束を交わした。