第一章 第20話 国境の砦に向かう
交易都市から離れ、降下艇で大公国の国境を越えて、国境の砦に隣接する市街に空中から、隠蔽モードで侵入して郊外の空き地に降り立った。
「どうやら、誰も近くに居ない様だな、みんな出てきていいぞ!」
その俺の声に応じて、タラップからアンジー達が降りてきて、続けて亜空間から馬車と彼女等が乗る為の馬を、時間凍結を解除して取り出した。
馬達は暫くの間、目を瞬いて周りの景色を見回していたが、やがて落ち着いて来たので、慣らしを兼ねて彼女達が乗馬して市街に向かう。
意外と直ぐに乗りこなしている様子を見せる彼女達を見て、俺は羨ましく思い馬車からアンジーに声を掛けた。
「中々、乗馬も楽しそうだね。
アンジー! 俺もやってみたいから教えてくれないか?」
「えっ、ヴァンは乗馬出来ないの? 荷馬車は器用に乗りこなしているじゃない!」
「こんなのは、操縦教本を頭脳に入れただけだよ。
そんな後付の情報より、実地に学び実践する方が楽しそうだから、是非アンジーに教えて貰いたいんだ」
「良いわよ! 私でも【星人】の貴方に教えられるなんて、光栄だわ!」
そんなこんなで、アンナに荷馬車を任せて彼女の乗っていた馬に代わりに乗らせて貰う・・・。
そしてアンジーが馬上から俺に指示してくれたので、その通りに手綱を利用して鞍を跨ぎ乗馬体勢を取る。
「おおっ、鞍に乗ると直に馬の動く振動が伝わり、中々面白いな!」
「流石はヴァンね! 簡単に馬の鞍の乗り方を習得したみたいね!
普通は、鞍に乗るだけでも時間が掛かってしまい、手綱で馬に指示するなんて直ぐには出来ないのだけど、馬に常歩を直ぐにさせる事が出来るなんて凄いわ!」
「なんて事は無いよ、体幹を崩さなければ、馬自身が動きたい様にさせてやれば良いんだよ」
「そのコツが直ぐに判るなんて、本当に素晴らしいわ!
それじゃあ、速歩をさせて見ましょう」
「嗚呼、やって見よう!」
そうアンジーに返答して、馬の首を撫でて手綱を捌いて、馬に速度を上げさせてみた。
馬は特に逆らわず徐々に速度を上げていき、やがて駈歩をし始めて、気持ち良く走り続ける。
暫く馬の好きに走らせてみて、アンジー達と合流すると、みんなが拍手してくれた。
「ありがとう、思った通りやっぱり馬に乗るのは楽しいな!
これでアンジー達の乗馬に問題無く付いて行けるよ!」
そう嬉しそうに話すと、アンナとミレイも嬉しそうに、
「ヴァン様は流石は星人様ですね、普通、こんなにすんなりと乗馬を覚えられませんよ!」
「馬も、ごく自然にヴァン様に慣れるなんて、まるで精霊に愛されているみたいです~!」
と大絶賛だ。
そして馬車から身を乗り出して、リンナとリンネも、
「いいなあ~、私達も乗馬したいよ~」
「ね~、姉様! 私達を後ろに乗せてくれないかな~?」
と甘えた声で、アンジーにねだっている姿は、年相応の少女らしい光景に見える。
食事の時以外は、両親と自分達の家とも言うべき城と城下町を奪われた彼女等は、沈みがちで見ていて不憫に思ったので、敢えて戯けた調子で乗馬して見せたのだが、どうやら成功したようだな。
「リンナとリンネも既に12歳を迎えたから、今後の事も考えると乗馬出来る様にして置いた方が良いな。
だけど、私よりもアンナとミレイの方が、乗馬技術に秀でているので、二人に後で教わると良いが、市街に着くまでは私の前に交代交代で乗せて上げよう」
そう言うと、早速、リンナからアンジーは自分の前で手綱を握らせてあげる。
最初はぎこちない感じで、リンナは手綱を落としそうにしていたが、徐々に慣れて来て馬の名前を呼びつつ楽しそうにしている。
次のリンネは、手綱を持たずに全身で馬の首にしがみつき、怖さを和らげようとしていたが、馬が窮屈そうにしていることに気づくと、手綱を持って必死にバランスを取ろうとしている。
二人共満足した様なので馬車に戻って貰い、俺も馬車の操縦席に戻ったタイミングで、市街地の門にさしかかったので、例の商人用の鑑札を差し出して、市街地の中へ通された。
やはりこの前の交易都市と違い、大公国の街並みとあってそこら中に大公国の旗が翻り、雰囲気もまるで違う。
(・・・やはり、それぞれの地域特性か、匂いまで違うな・・・)
そんな事を考えながら、買い出しも兼ねた情報収集を図るべく、【商会ギルド】の建物を目指す。
辻に有った案内板を確認しながら、やがて見えて来た商会ギルドの建物前で、駐馬場で馬と馬車を繋ぎ、アンナとミレイに双子姫と共に残って貰い、俺とアンジーは商会ギルドの建物に入って行った。