第三章 第20話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑳
【イタカ】としても、まさか自分に対峙し得る存在が目の前に居る事に戸惑ったのだろう・・・。
暫くの間、興味深そうに悠然と構えて此方を観察して来る。
だが、俺達に取って、そのまるで此方を敵と認識していない様な、油断は非常に有り難かった。
[【次元牢獄】準備完了しました、マスター]
「良し、【次元牢獄】発動!」
[【次元牢獄】発動! 当該区域を完全遮断致します!]
此の一連の遣り取りが出来る時間を俺に与えた事で、【イタカ】は2時間限定ながら、完全に得意の次元移動と並行世界への位相差移動を不可能にする事に成功した。
此の【次元牢獄】を喰らった【イタカ】は、当初不思議そうな雰囲気を醸し出していたが、恐らく次元移動を試したのだろう、それが出来なくなった事に気づいた奴は、不愉快そうな雰囲気を辺りに振りまいて此方に近付いて来る。
(・・・さて、もっと不愉快になって貰おうか・・・)
母艦である【天鳥船】が此の惑星に到着して、惑星の全周囲探査と他天体からの妨害を全て除外する事に従事させていたが、当然恒星間航行どころか星系航行出来る【天鳥船】にとっては、余剰エネルギーが凄まじいレベルで溜まっていた。
なので将来必ず敵対する事になる【旧支配者】に対抗出来る様に、今迄の余剰エネルギーを【亜空間収納】させて次元の干渉出来る様々な兵器を構築していた。
【次元牢獄】はその内の一つで、【旧支配者】の眷属にも影響を及ぼせる規模で次元に干渉出来る。
だが、流石に未来永劫干渉出来る訳では無くて、【イタカ】レベルだと2時間限定でしか保持出来ないと推測した。
その推測は正しいらしく、【イタカ】は此の空間と次元に閉じ込められている。
よって俺達、【八咫烏】部隊4機と【大和武尊】は、最初から全力で【イタカ】に挑む!
近付いて来る【イタカ】の攻撃に対抗する為に、【大和武尊】は全面に【時空歪曲場】を展開し、一切の物理攻撃と次元攻撃を無効化し、俺達の乗る【八咫烏】各機にも限定的ながらも其れに近いフィールドを展開させた。
「行くぞ!」
「「「応!」」」
【魔人ブレスト】の二号機、【バルト】大尉の三号機、【ゲイリー】親衛隊長の四号機。
それぞれが、通常状態を遥かに凌駕したリミッター解除状態で、【イタカ】に突進する!
先ずは、遠距離攻撃で他の機体を援護する【ゲイリー】親衛隊長の四号機が、オプション装備で肩部に装着しているロケットランチャーや背部に装着しているカタパルトランチャー、腹部に装着しているソリッドシューターと脚部に装着しているポケットミサイルポッドが、一斉に発射された!
それぞれに魔法コーティングによる貫通力増強が施されていて、爆発力を増すための各種爆裂魔法が封入されている。
【イタカ】は自分の権能である吹雪を行使し、圧倒的なブリザードを叩きつけて来たが、当然その程度のブリザードでは【ゲイリー】親衛隊長の四号機が斉射した武器の勢いを止める事が出来ず、凄まじい爆発が【イタカ】の体表で炸裂した!
ズガガガガガガガーーーッ!!
目も眩まんばかりの光りと耳をつんざく爆発音は周囲を揺るがした。
しかし、そもそも【イタカ】の体長はゆうに500メートルを越えていて、如何に強力な爆裂魔法であろうとも、あくまでも体表上で爆発しただけで、殆ど【イタカ】に被害を及ばせていない。
だが、【イタカ】を揺るがして視界を数瞬間奪った事は、素晴らしい成果だった。
その間に近付けた【魔人ブレスト】の二号機と【バルト】大尉の三号機は、一気に【イタカ】に肉迫して、【バルト】大尉の三号機は【イタカ】の背部に回ると、至近距離で【粒子砲】を放つ!
ドドドドドドドドーーーーー!!
流石に至近距離の【粒子砲】は効いたらしく、前に倒れ込むように揺らぎたたらを踏む。
そしてその瞬間に合わせて、【魔人ブレスト】の二号機が肉迫した胸元から、【イタカ】の戯画化した顔の顎に向けて格闘型特化した腕でアッパー叩き込み、そのまま腕部に装着しているパイルバンカーを射出した!
ズドムッ!
明らかに人間や人類に近い存在にとっては弱点と言える顎に、強烈極まり無い攻撃を喰らわせたのだが、【イタカ】は仰け反りこそしたがパイルバンカーで【イタカ】の顎に穴を穿つ事が出来なかった・・。
だが、まだだっ!
此の間に俺の初号機は、【イタカ】の頭上高くから最高速で急降下して来て、奴の後頭部に向けて初号機による渾身の蹴りを叩き込む事に成功した!
ズガシャァァァァァーーーンン!!
流石に此の連続攻撃は効いたのだろう・・・。
【イタカ】は、もんどり打って戯画化した顔面から地面にうつ伏せで倒れた。
「「「やったか?」」」
思わず俺以外の3人から、確認する様な文言が飛び出したが、直ぐ様彼等は黙ってしまった。
何故なら、【イタカ】はうつ伏せになりはしたが、5秒後には何事も無かった様に簡単に立ち上がったのである。
「・・・化け物め・・・」
思わず俺の口から出た言葉は、俺の心情を良く表していたのだった・・・。