第三章 第15話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑮
漸く到着した【八咫烏】初号機に俺は素早く乗り込むと、続いて到着した2号機から4号機はそのまま最高速で空を駆けて、未だに首都の門から溢れ出て来る異次元の魔獣共に向けて、戦術級の魔法が封入された弾頭を叩き込んだ!
首都に設けられた主要な門である4門、北門・南門・東門・西門から溢れ出てくる異次元の魔獣共の、中央に向けて俺達4機から放たれた戦術級の魔法が封入された弾頭は、一気にその凄まじい破壊の嵐を異次元の魔獣共に振り撒かれた!
今回使用された戦術級の魔法の名は、【重力崩壊】。
本来のクラス魔法の分類には存在せず、遺失魔法として知られている伝説級の魔法である。
此の魔法は【ソロモン】が誰にも知らせずに秘匿していたもので、人間には使用しないことを予め取り決めてそれぞれの切り札として、【八咫烏】各機が保有させていた物である。
【重力崩壊】はその名通りに、重力異常を撃ち込んだ場所に引き起こし、最終的に球形となりそのまま空間は収束して、それぞれの門前に直径100メートルの大穴が穿たれた。
お陰で後から首都の門から溢れ出てくる異次元の魔獣共は、その穿たれた大穴に次々と落下して行き、僅かだが避難民に襲い掛かる異次元の魔獣共の勢いは衰えた。
「今の内だ! 全力で避難民と襲い掛かる異次元の魔獣共を引き離し、戦場を限定させるんだ!」
「「「了解!」」」
最早、指揮権の在り処などどうでも良くなり、俺が発した言葉をそれぞれの現場指揮官が受け取り、指示に従ってそれぞれが適切な対応を取り始めた。
その間にも、穿たれた大穴を無視する様にやってくる異次元の魔獣共に向けて、【八咫烏】各機は空中から、量産型PS部隊は地上から各々に装備された武装で、容赦無い掃討射撃を開始した。
とても人間相手には使用出来ない武装の数々は、異次元からの侵略者でも有る奴等になら、如何なく使用出来るので、本来のPSの能力が全開で発揮される。
此れで漸く、ある程度の戦場限定がされたので、【オーディン】は隠蔽モードを解除して全速力で此方に飛んできている。
凡そ後30分もすれば辿り着けるから、そのまま巨大病院艦として避難民を保護して貰う。
そして現在同じ様に急行している【大和武尊】には、戦場に入り次第攻撃開始する様に命じて置いた。
漸く戦場が落ち着き始めたなと全員が一息ついていると、南門の辺りが振動し始める。
(・・・何だ・・・?)
オートで【八咫烏】自身の判断で左肩のガトリングガンを、異次元の魔獣共に向けて掃射させている間に、俺自身は戦場の全体像を把握するべく全域にセンサーでの探査をしていたら、その妙な反応をいち早く知る事が出来た。
其れは、どうやら今現在探査出来なくなっている、首都の内側からやって来ているらしく、徐々に振動を大きくしながら向かって来ている様だ。
その振動は、南門だけで無く全ての門で同時に起こっているらしく、【八咫烏】はその振動の主に備えるべく、強力な弾頭をロケットランチャーに装填する。
やがてそれぞれの門から出現して来たのは、何やら黒く大きな玉であった。
正直な処、きっと巨大な魔獣か何かだろうと用心していた我々は、何だか気を削がれる気分になり、強力な弾頭は使用せずにハンドガンの通常弾頭で対処してしまった。
此れが間違いの元であったと気づくのは、かなり後の事である。
ハンドガンの通常弾頭が当たった黒く大きな玉は、奇妙な微振動を続けていて、いとも簡単に通常弾頭を弾き返して、そのまま転がりながら例の大穴に落ちて行った。
疑問に思いながら俺は大穴の内部をセンサーで探査すると、何やら押し潰れたままの異次元の魔獣共が黒く大きな玉と動揺に微振動を繰り返し始めて、やがてドロリと溶けて行った。
(・・・何だ・・・?)
その湧いてきた疑問は直ぐに解消された。
まるで巨大なスライムの塊となった異次元の魔獣共は、うねる様に大きく穿たれた大穴の縁から地上に出現し、奇妙な微振動を再開する・・・。
突如、奇妙な微振動を繰り返す巨大なスライムの塊は、異常に太い触手をうねり続ける身体から繰り出して来た!
一気に数百メートルに伸びた触手は、数十メートルにまで近付いていた量産型PS部隊に襲い掛かり、彼等が素早く飛び退くとその付近に散乱していた、異次元の魔獣共の死体を手繰り寄せて次々と巨大なスライムの塊の中に取り込み始めた。
各門から現れた4体の巨大なスライムの塊は、同様の事を繰り返しその都度少しずつ体積量を増やしている事が見て取れる。
(・・・奴等、仲間の死体を取り込んで何かするつもりだな・・・)
まるで習性の様に、ひたすら同じ行動を繰り返す巨大なスライムの塊4体に、様々な攻撃を試している友軍の状況を観察しながら、ある意味好機なので攻撃に参加していない軍勢を再編成する事にした。