第三章 第11話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑪
俺達が会話をしている最中も、再編成を整え終わった【ドラッツェ帝国】軍約13万は、整然とした陣形を維持して行軍して行く。
残存させた約2万の兵隊は、先程までの戦場の後始末を着けるべく活動している。
彼等は、捕虜にした凡そ3万人の禁軍を拘束して、次々に催眠状態にした捕虜達を【オーディン】に連行して、そのまま亜空間収納して行く。
同じく再編成を終えた【リッシュモン】大将率いる元【フランソワ王国】軍約8万は、戦場を大きく迂回して禁軍の後背を襲うべく駆け足での行軍を既に開始していた。
つまり、散々機甲軍に削られた約13万の禁軍と、【ドラッツェ帝国】軍約13万が、がっぷり四つで噛み合い、その戦場に時間差で禁軍の背後から元【フランソワ王国】軍約8万が襲い掛かる事になる。
兵力差はかなり広がり、後方には【オーディン】が控える事で、補給と傷病兵を直ぐに行える体制を整えた【ドラッツェ帝国】側が有利に見える。
だが、戦場では何が起こるか判らないし、その不安材料として【クライスト教団】が存在する。
俺達【八咫烏】部隊は、隠蔽モードを施した機体で戦場となる想定の空中に予め滞空し、広域探査を行っていた。
(・・・【オーディン】で操っている小型ドローンによる全域探査でも、周囲に【クライスト教団】と思しき存在は確認されない。
しかし、国境線での【フランソワ王国】軍との戦いでは何の前触れもなく、突然異次元から【旧支配者】の眷属が召喚された!
何が起こるか判らないのが戦場だ、常に気を付けて行動しよう・・・)
そうこうしている内に、禁軍と【ドラッツェ帝国】軍は相手を視認出来る距離まで近付き、互いに陣形を敷き始めた。
【ドラッツェ帝国】軍の指揮官である【ゴットワルド】中将は、当然の様に得意の進撃戦に向いた【魚鱗の陣】を敷いて、先鋒部隊に何十にも防御魔法を掛けた上で、俺から供与された防御フィールドを前面に展開させた、凄まじいばかりの攻性防壁を施した、まるで強度が半端でない先端が槍の先鋒部隊が出来上がっている。
そんな【ドラッツェ帝国】軍に対して、禁軍は何と【魚鱗の陣】に対抗する定石の【鶴翼の陣】を敷かずに、此れも進撃戦に向いた陣形である【鋒矢の陣】を敷いて来た。
つまり、双方が進撃戦での攻撃に軸を置いた陣形を敷いて、相手を打破するつもりなのだ。
(・・・此れは思っていたよりも、禁軍の指揮官と兵士達は好戦的で士気が高いな・・・)
此方としては、想定としては少ないと思われた展開だが、一応作戦案の一つとしてはあり得ると考慮して対応は策定していた。
その禁軍の陣形を視認しても【ゴットワルド】中将は、【魚鱗の陣】を崩さずに突進する行軍スピードを緩めずに吶喊させる。
「「「オオオオオオオオオーーーー!」」」
気合いを更に上げる為だろう、雄叫びを上げさせて吶喊する【ドラッツェ帝国】軍は、先端が槍そのものの先鋒部隊から禁軍にぶつかって行き、対抗する禁軍も、どうやら魔導具やアーティファクトで強化させた先鋒部隊で衝突させて来た。
ドドドガガガガガッーーーーー!!
凄まじい衝突音が轟き渡り、双方陣形を崩さずに若干進行方向を逸らされた形でぶつかり合った。
当然小勢でのぶつかり合いでは無いので、そのまま後列の軍勢はなし崩し混戦の体をなし始めた。
そんな中強化されまくったお互いの先鋒部隊同士は、突進力を減衰させずに迂回しながら何度もぶつかり合う。
想定よりもガチンコの鍔迫り合いの勝負となった会戦は、暫くの間互角の戦いが繰り広げられたが、30分後に劇的な変化を起こす。
そう、大きく迂回して禁軍の背後に廻った、【リッシュモン】大将率いる元【フランソワ王国】軍約8万が、騎馬隊を先鋒に禁軍の後背を突いたのだ。
恐らく、禁軍の指揮官も此の事は念頭に置いていたのだろう、禁軍後列の兵士達は素早く後方に大盾を構えて、騎馬隊の突進を妨げる行動に移ったが、その程度では完全に騎馬隊の突進力は防げずに、かなりの兵士達が吹き飛ばされる様に蹴散らされた。
だが、何とか騎馬隊の禁軍中枢部への侵入を防いだ後列の兵士達は、続く歩兵と激烈な戦闘に入った。
暫く此の不利な体勢にも関わらず、禁軍は【フランソワ王国】軍最強の名に違わない奮戦を繰り広げたが、事前に機甲部隊から受けた攻撃の消耗と、劣勢な兵士数の差、そして挟撃を受けている状態が響いてきて、如何に士気は高くても体力の限界と魔力の枯渇によって、バタバタとまるで電池切れを起こした玩具の様に兵士達が戦場で倒れて行った。
(・・・大したものだ・・・、禁軍の名に恥じない奮戦だったな・・・。
きっと彼等は、後の新しい国家の誕生の際には、役立ってくれるだろう・・・)
ほぼ大勢が決した戦場を空中で俯瞰しながら、俺は漸く終わりそうな人間同士の大規模戦闘を見て、仕方無い事とは言え起こってしまった犠牲の数々に溜息をついた。