第三章 第10話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑩
【バルト】大尉を指揮官とした機甲部隊300は、PSを先頭にして戦闘バイクがそれに続き、最後に高速機動の戦闘車両が後方を固めていて、禁軍を翻弄する様に周囲を疾駆している。
【単縦陣(たんじゅうじん】で禁軍の周りを周回し続けて、ひたすらに周囲から魔法攻撃と物理的なレールガン等で削り続けたが、敵の防御陣が堅牢さを増して来たので、あまり劇的に被害を与えられ無くなり始めた。
だが、そもそも機甲部隊の目的は、主戦場から14万もの禁軍を向かわせずに、足止めする事が目的である。
案の定、禁軍14万は完全に機動力を失う選択である防御陣を敷いて来たので、此の時点で作戦目標は達せられた。
それを確認した【ドラッツェ帝国】軍の司令部から、機甲部隊に攻撃を積極的に行わず足止めのみに専念する様に命令が通信機で送られ、【バルト】大尉を指揮官とした機甲部隊300は、嫌がらせの様に禁軍の周囲を曲乗りしながら疾走し、時折攻撃するだけで遊んでいる様な振る舞いをし始めた。
その様子に激昂したらしい禁軍の兵士達は、凄まじいばかりの魔法攻撃を雨霰の様に機甲部隊に向かって浴びせて来たが、攻撃に専念せずに回避と防御に特化した機甲部隊は、見事な操縦テクニックを見せつけて躱し続ける。
そんな状態を更に小一時間繰り返す事で、奔命に禁軍兵士達を疲弊させた機甲部隊は、【ドラッツェ帝国】軍の司令部の命令通りに、持参していた煙幕弾をランチャーに装填して一斉に禁軍の頭上に投射した。
俺の超技術を用いて製造された煙幕弾は、広範囲に拡散されて禁軍の兵士達の耳目を完全に奪い去った。
禁軍は此の状況に驚いた兵士達が同士討ちしない様に、全軍の攻撃行動を停止させる為に戦場でも響き渡る銅鑼を懸命に鳴らし、禁軍全軍の動きを止めさせた。
そして戦場に不似合いな静寂が立ち込めた・・・。
当然その間には、機甲部隊は戦場から退散して、彼等は隠蔽モードで地上に着底した【オーディン】の格納庫に収容し、補給と搭乗員のエネルギー摂取そして休憩を格納庫に隣接した休憩室でさせる。
「【バルト】大尉、お疲れ様!」
俺の労いの言葉を聞いた【バルト】大尉は、ややはにかんだ表情で受けた後、直ぐに俺と【魔人ブレスト】そして【ゲイリー】に近付いて来て、全員とハイタッチしてくれた。
そして俺は、作戦に基づいた働きを終えたその他の機甲部隊の面々にも声を掛ける。
「大変見事な働きだったぞ諸君!
此れで此の直ぐ後に行われる会戦は、圧倒的に有利な形で【ドラッツェ帝国】軍が仕掛けられる!
此の後は、空中からの【八咫烏】部隊と小型ドローンによる支援攻撃と、【オーディン】をこのまま隠蔽モードにした状態で、【ドラッツェ帝国】軍と【リッシュモン】大将率いる【フランソワ王国】軍の傷病兵を受け入れる病院艦の役目も負う事になる。
大丈夫だとは思うが、もし何らかの形で隠蔽モードが打ち消されたら、途端に【オーディン】と傷病兵が危険に晒される。
その時は、諸君が守ってくれよ!」
「「「了解です!」」」
機甲部隊の全員が一斉に声を上げて応えてくれたので、俺は満足して【バルト】大尉達【八咫烏】部隊を連れて、格納庫から少し離れたミーティングルームに向かう。
「さて、寛ぎながら聞いてくれ」
そう声を掛けて、皆が各々の席に着いたタイミングでテーブルに置かれた、用意していたそれぞれの好みの飲み物を皆に勧めた。
俺も用意していた果汁ジュースに口を付けながら、テーブルの上に盛られてあった焼き菓子に手を付けて、リラックスした姿で声を掛けた。
「・・・格納庫の休憩室では言えなかったが、俺達【八咫烏】部隊の本当の任務は【フランソワ王国】軍が相手では無く、【フランソワ王国】の背後に居る【クライスト教団】だ!
恐らくは今回の会戦には手を出して来ないだろうが、奴等は俺達が人質解放作戦に従事していた際に、人質達を収納する為に開けざるを得なかった【亜空間ゲート】を狙って、侵入を試みてきた。
つまり、俺達の行動一挙手一投足は奴等の監視下にあり、その行動の中で奴等が介入して利を得られると判断した場合、容赦無く行動して来ると思われる。
なので俺達【八咫烏】部隊は、戦場の全体を索敵しつつ【クライスト教団】の介入を阻止すべく警戒行動をとる」
その俺の行動指針を聞き、【バルト】大尉が聞いてきた。
「それでは、我等は隠蔽モードで戦場を俯瞰しながら、【クライスト教団】の行動を常に警戒するので、戦場で禁軍を攻撃したり【ドラッツェ帝国】軍への支援も行わないのですね」
「その通りだ、我々は常に直ぐに行動出来る様に、待機した状態で居る必要が有るから、隠蔽モードで滞空状態を維持して置く」
そう【バルト】大尉に答えると、他のメンバーも俺の言葉に頷いた。