第三章 第9話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑨
後方にいた軍の編成を切り替えて、【ドラッツェ帝国】と【フランソワ王国】の裏切り者共に対抗する。
混乱させられた上に調子に乗ってやってくる敵によって、現在は押し込まれてこそはいるが、逆撃を図る目はあると考えた禁軍の指揮官は、やはりエリート軍の指揮官に相応しく適切な対処だったと言える。
だが、当然その程度では、そもそも【フランソワ王国】軍に於いて最強軍団である禁軍20万に対して、序盤の優位性だけで勝てるとは我々は考えていない。
なので、【ドラッツェ帝国】軍には切り札になる物を与えている・・・。
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禁軍が軍の3分の1を切り離し、約14万の兵力を再編成して、前方で大混戦を繰り広げている敵と味方の間に、割り込んで実力を以って混戦毎踏み潰す決断をして、禁軍の指揮官は号令を下そうとしたその瞬間。
ズガガガガガガガーーー!!
凄まじい爆裂音が再編成した軍の後方から上がる!
禁軍の指揮官どころかそれぞれの部隊を率いる全ての中級指揮官が愕然として、爆炎が立ち上る自軍の後方に目をやる。
「何故だ?! 付近には現在戦っている軍勢以外の兵力は存在しなかった!
一体何処から、どの様な軍が出現したのだ?!」
その疑問を禁軍の指揮官は大声で周囲に問うたが、当然周囲の誰もが疑問に答えてくれず、代わりに爆発とは違う駆動音が鳴り響く。
ドドドドドドドッ!
何かの魔導具なのかアーティファクトなのかと疑いながら、駆動音を響かせる対象を観察した。
其れ等は、想像を越えた存在だった・・・。
魔獣や大型獣人とは一切似ていない存在が地面を駈り、数百の数が一塊となってかなりの速度で此方に疾駆して近付いて来ながら魔法攻撃を連射して来る。
その一撃一撃が全てクラス3以上の魔法なので、防御魔法でもクラス2以下だと普通に突破されてしまい、次々と爆裂魔法や雷撃魔法が後方の部隊の内部で炸裂した。
(ま、不味い! このままではとてもでは無いが、前方の戦場に進撃するどころか、後方からやってくる強敵にやられてしまう!)
だが、此の凄まじいスピードで疾駆しながら、強力極まり無い攻撃を然も連射して来る相手に対し、適切な対応とはどうすればよいのか・・・?
仕方無く、クラス3以上の防御魔法を施した陣形に何とか整えて、必死に閉じ籠もる様に軍勢を纏めたが、敵は魔法攻撃を止めて物理的な攻撃手段に切り替えて来て、構えている我々のクラス3以上の防御魔法を施した大盾に攻撃を浴びせて来た。
あくまでも防御魔法とは、魔法攻撃への対抗手段であり、物理攻撃には元々の耐久性でしか対抗し得ない。
完全に次の手を思いつかないまま、必死にそれぞれの兵士が場当たり的に魔法攻撃や弓で、迫りくる強敵に対抗するが、先ず余りにも凄まじいスピードで疾駆する奴等に、殆ど攻撃を当てられないし、当てれたとしても簡単に弾き返されていて、少しもその圧倒的なスピードを緩める様子が無い。
「グウッ」
なすがままにやられ続ける我が軍を見せられて、悔しさの余りに噛み締めた口から思わず苦悶の声が上がり、何とか打開策を導くべく兵士達を肉壁にしながら、中級指揮官を集めて策を練る事にした。
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「・・・どうやら順調に推移しているな・・・」
戦場からやや離れた場所で伏せさせていた、【バルト】大尉を指揮官とした機甲部隊300は、禁軍が再編成する為に後方に移動し始めた段階で、隠れている際に使用していた隠蔽シートを跳ね上げて、行軍しながら陣形を整えて【単縦陣(たんじゅうじん】の形で疾駆する。
此の形の陣形は、正面突破力は然程では無いが、代わりに敵軍勢の周囲を周りながら、満遍なく攻撃を浴びせていく事に非常に適した陣形である。
流石に敵も、只ひたすらにやられ続けては居らずに、色々と対策を考えて対抗しようとして来たが、当然此方は綿密な作戦を練っていたので、直ぐに対応する事で敵の対策を封じていく。
やがて、その戦場と少し離れている元の主戦場では、大方勝負が見えて来た。
やはり、【ドラッツェ帝国】軍15万と【リッシュモン】大将の率いる軍10万に対して6万の禁軍では、如何に【フランソワ王国】軍最強の軍団と言えども、対抗するのは無理だったらしく、抵抗する力を失っていく兵士を次々と【麻痺魔法】や【催眠魔法】で無力化されて行くと、組織的な抵抗は無理と判断した中級指揮官達が、櫛の歯が抜ける様に降参して来たので、その配下の兵士達毎捕虜にして行った。
そして一時間程の混戦の後、元の主戦場の勝負は此方の勝利が確定し、捕虜を回収部隊に任せた後で、主力の軍勢は後方で展開されている戦場に向けて進発するべく、部隊を取り纏めてから再編成して進軍を開始した。